「5年後にこの熱量のファンレターがもらえるかなって…」“バズが寂しい”マンガ家が『死ぬまでバズってろ!!』を描いたワケ
CREA WEB / 2024年9月27日 11時0分
フリーターのタパ子が告発系インフルエンサーとなり、ネットでバズりまくって底辺から這い上がる様子を描いた漫画『死ぬまでバズってろ!!』。フリーアナウンサーのひき逃げ事件の動画を撮影したタパ子は、SNSの話題をさらうが、ある日、そのフリーアナウンサーの娘がバイト先にやってきて――。
芸能界ゴシップを狙うタパ子と、タパ子によって地位を脅かされた人たちの緊迫したやりとりに目が離せない一作です。9月25日の第1巻発売を記念して、同作を執筆した経緯や、漫画のために行った取材について著者のふせでぃさんに聞きました。
自身のバズ経験が制作のきっかけに
――漫画『死ぬまでバズってろ!!』の構想のきっかけを教えてください。
ふせでぃ 自分もネットで注目された経験があったので、その時の感情をエンタメとして物語に落とし込めないかなと考えたのがきっかけです。
――ふせでぃさん自身は、Instagramにアップしたイラストが話題となり、イラストレーター、そして漫画家として多くの著書を出すようになったんですよね。
ふせでぃ 6年前に初めて本を出した頃は、ネット上の小さな世界で人気が出る実感がありました。その頃は、「発信を続けていれば、誰かが見つけてくれるんだ」と思ったんです。今作では自分の話をそのまま描くわけじゃないけど、その時の感覚をうまく取り入れています。
数字を追い続けると、何を創作したいのかわからなくなって
――タイトルに込めた思いは?
ふせでぃ ストーリーとキャラクターがぶれないように決めました。主人公がバズを追い求めて、最後まで走り抜けるストーリーです。
でも私自身は「バズ」に飽きているというか、少し疲れていて。昔から「今、バズっているイラストレーター」と紹介されることが多かったんですけど、「人気は今だけってこと?」ってポジティブに受け止められなかったんですよね。
私はずっと同じテンションで絵を描いているだけなのに、話題になったらそういう紹介をされることに違和感があって。当時はたくさんのファンレターをいただけて本当にうれしかったですけど、「5年後には、こんな熱量のファンレターをもらうことはないんだろうな」って勝手に想像して、寂しさもありました。
――それがバズに対する疲れに繋がったんですか?
ふせでぃ そうかもしれません。「いいね」とかの数字を気にすると、昨日よりいい数字を追いかけちゃって、どうして創作しているのかわからなくなるときがあるんです。それでSNSから距離を置いた時期もありました。今作の単行本が発売されるのを機に再開しましたけど、SNSの更新頻度が下がると、やっぱり数字ってあまり伸びないんですよね。そうすると「私の作品には、ファンがいないのかな」ってネガティブになっちゃう。でも創作って本来はファンがいてもいなくてもすることなのかなと思ってもいて。
それに「いいね」が伸びている絵が「いい」とされるのも変で、本当は作家自身がいいと思える絵を描かないといけない。先日、生成AIが描いた絵に20万ふぁぼがついていましたけど、「それは本当にいい絵なのか」という問題と似ている気がします。
――生成AIに関してはどのように考えているんですか?
ふせでぃ きれいな絵はAIが描いてくれるから、私にできることって、逆に変な絵というか、誰にも真似できない絵を目指すことなのかなと思っています。自分にしかできないものじゃないと商品価値が付かない。ある意味、「絵は下手なままでもいいのかもしれない」とすら思います。
漫画の視点から見ても、『鬼滅の刃』は人気作品ですけれど、バズというよりはもはや殿堂入りの作品ですよね。私は「描く」という行為が好きで、その結果が本になるわけですが、そういう風にバズとは関係なく読まれる作品を作っていければ嬉しいです。
告発系インフルエンサーを目指すのはなぜ?
――主人公は告発系インフルエンサーを目指していきますが、これを題材にしたのはなぜですか?
ふせでぃ 私自身は告発系インフルエンサーに詳しくなくて、編集者と打合せするあいだに出てきたテーマでした。告発系インフルエンサーは存在自体が問題になっている部分もあるから興味を持ったんです。
――告発系インフルエンサーで参考にした方はいるんですか?
ふせでぃ いろんな方を参考にしています。でも、観察するうちに、告発系インフルエンサーもやっぱり「インフルエンサー」なんだと感じました。その人が新しいことを発信するというよりは、世界のどこかで流行っているものを集めたbotのような存在に近い印象です。
――告発系インフルエンサーで好きなネタは?
ふせでぃ SNSは今でも追ってますけど、YouTubeの告発系チャンネルは、実は面白さがあまりわからなくて……。
というのも、自分はもともとゴシップネタに興味がないタイプなんです。どちらかと言えば、ゴシップよりも数字に興味があって。誰が不倫した、恋愛したという話は、他人事に思えてしまうんです。
でもゴシップって、みんなが話題にする。告発系インフルエンサーは、ゴシップの裏方として世論を動かしている感じが面白いのかなって思います。バズりたいから行動に移す熱意があるし。日々SNSに投稿することは楽じゃないと思いますけど、本人が無理なくできる行動なのだと思います。
――今作の主人公・タパ子ちゃんは、最初から告発系インフルエンサーを狙っていたわけではなく、たまたまひき逃げを目撃し、撮影した動画をSNSにアップしたら、バズった。その感覚が忘れられなくなって告発系インフルエンサーを目指します。
ふせでぃ 今はカメラ機能の付いたスマホをみんなが持っているから、撮ったものをすぐに発信できる時代です。だからこそ、タパ子がやったことも、「あり得るな」って感じていて。
私も気を付けてますよ。道端で撮影していたらなるべく映らないようにするし、旅行客っぽい方のカメラにもできるだけ入らないようにしています(笑)。
芸能人御用達のバーへ取材
――漫画化に向けた取材や資料集めでは、どんなことをしたんですか?
ふせでぃ 今作では芸能人が訪れるバーが登場するので、私も実際に行ってみました。でも、かなり緊張しちゃって。主人公のタパ子はお酒が飲めないんですけど、自分も飲めないので、お店に貢献することもできず。申し訳ない気持ちで取材し、漫画で反映させていただきました。
――そういうお店って本当にあるんですね。ほかにはどういうことを?
ふせでぃ タパ子に惹かれる警察官が登場するんですけど、警察官の制服って意外と資料がないんですよ!腰まわりの警棒とかがどう収納されているのかわからないし、マイクがどこにつながっているのかも疑問で。3D素材を使ったり、あとは一度、渋谷区の警察官に「撮らせてください」ってお願いしたりしました。
――アポなしでですか?
ふせでぃ そうです。使用用途を伝えたんですけど、断られちゃいましたね。その代わりに、「中央区にポリスミュージアムがあるよ。広報もあるから聞いてみたら」って教えてくれました。最近は私服の警察官が登場するシーンが多くなったので、いつかプライベートを取材したいです。
ふせでぃ
七夕生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学卒業後、女の子の切ない恋模様を描いたイラストをSNSで発表。その際のイラストを漫画形式でまとめたことを機に、漫画家として活動を始める。著書に『悪いのはあなたです』『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません』(以上文藝春秋)、『全部失っても、君だけは』(講談社)など多数。
文=ゆきどっぐ
撮影=石川啓次
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