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秋山郷の見事な紅葉と、秘境が育んだ文化。旅する人を魅了するアケヤマの新作アート【大地の芸術祭 2024】

CREA WEB / 2024年10月5日 11時0分


井上唯《ヤマノクチ》 2024 [アケヤマ―秋山郷立大赤沢小学校―]

 今回で第9回展となる「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」。「人間は自然に内包される」という基本理念を基に、この地の厳しくも豊かな自然の恵み、そしてこの地で生きる人々とともに生まれたアートを実際にその土地を巡りながら鑑賞するこのトリエンナーレは毎回大きな反響を呼んでいる。

 この2024年もさまざまな視点、アプローチから、新潟県、越後妻有地域を深く感じるためのアートがいくつも誕生した。

 中でも注目なのが津南エリアにできた「アケヤマ―秋山郷立大赤沢小学校―」だ。日本でも有数の秘境とも言われ、独自の文化を発展させてきた秋山郷はその独特なカルチャーから生まれたアート作品はもちろん、秋には鮮やかな紅葉が山一面を覆い、旅の候補としてもふさわしい。


「人間の生活の力を再び手に入れるための学校」


秋山郷へ向かう途中「前倉橋の結東層」など渓谷美が楽しめる。

 JR飯山線「津南駅」より車で約40分、深い山中、渓谷美の中に秋山郷はある。通信や交通が困難かつ、豪雪地帯であったことから秘境とも呼ばれ、古くは義務教育免除地にも指定されていた。


アケヤマ―秋山郷立大赤沢小学校―

 1924年に悲願の学校として生まれたのが大赤沢小学校。しかし、少子高齢化の影響で2021年に廃校。その歴史を引継ぎ生まれ変わったのが「アケヤマ―秋山郷立大赤沢小学校―」、今回の大地の芸術祭の展示会場にもなっている。

「アケヤマ」とは秋山の語源でもあり、境界線を明確に引くことのできない山を意味する「明山(あけやま)」のこと。その秋山郷と同じように、住民、研究者、アーティスト、そして私たち来訪者に開かれたこの空間で新たに「人間の生活の力を再び手に入れるための学校」としてさまざまな取り組みを行っていくという。

秋山郷という土地への理解が深まる《続秋山記行編纂室》


秋田からマタギが移住してきた秋山郷では狩猟文化も根付いている。深澤孝史《続秋山記行編纂室》2024

深澤孝史《続秋山記行編纂室》2024

 秘境・秋山郷での生活や暮らしには多くの人が魅了され、民俗学的な見地からはもちろん、ジャーナル的な見地などさまざまな形で紀行文が著述されている。特に江戸時代後期に鈴木牧之が書き記した『秋山記行』はベストセラーにもなっている1冊だ。

 そんな秋山に伝わる生きるための根源的な生活技術や土地の感覚を記録し、語り継いでいくのが《続秋山記行編纂室》。

 アケヤマに訪れたなら、まずはここから鑑賞し、秋山郷への理解を深めるのがおすすめだ。


山本浩二《胸中山水 秋山郷図》2024

山本浩二《胸中山水 秋山郷図》2024

 知識として秋山郷への理解を深めたら、秋山郷を山そのものとして感知してみよう。山本浩二が描く《胸中山水 秋山郷図》は山本自身が感じた秋山郷のすがた。作家が会場にいる時には木炭で来場者が絵を描くこともできるそう。この土地を訪れたあなたの胸にはどんな秋山郷が去来するのか。

 壁一面の白黒の秋山郷は雪に覆われたような印象を受ける。色が無い世界だからこそ感じる大自然の静謐さ、雄大さに心が震える感覚になる。


さまざまな種類の木炭が用意されている。それぞれの風合いが異なるのも面白い。

人と大地との生活の記録をアートから感じる


松尾高弘《記憶のプール》2022

 雄大な秋山郷の自然も印象深いが、土地に住む人々の記録にもハッとさせられるものがある。

 松尾高弘《記憶のプール》は1971年の夏の赤沢小学校の様子を写したもの。水が豊かな土地でありながら、プールのない学校のために大人たちが力を合わせて作った土のプール。現代では不便と一刀両断されそうな状況の中でも知恵と想像力を振り絞ることで、活き活きとした笑顔が生まれる。

 現れては消える豊かな情景を見ていると、秋山郷の在りし日の姿だけでなく、現代社会で失われつつある感覚を取り戻すような気持ちになる。


「藤ノ木サカ家に朝鮮人労働者から送られた庭石、または慰霊碑」。深澤孝史《続秋山記行編纂室》2024

深澤孝史《続秋山記行編纂室》2024

 学校に直接かかわるものだけでなく、秋山郷に住む人々の記録についても校内には数多く展示されている。その記録から浮かび上がるものは、助け合いの精神や、信仰心といった共同体のありようだ。これもまた、人間の生活の力と呼べるものだろう。

山と人と。行き来の中で育まれる文化と信仰


井上唯《ヤマノクチ》 2024 [アケヤマ―秋山郷立大赤沢小学校―]

 2階に上がるとぽっかりと空いた《ヤマノクチ》が待ち受けている。

 人々が暮らす領域から少し離れ、まるで、アケヤマの中に一歩、二歩と足を踏み入れていくかのような錯覚を覚える。


内田聖良《カマガミサマたちのお茶会:信仰の家のおはなし》2024

内田聖良《カマガミサマたちのお茶会:信仰の家のおはなし》2024

 山に住むということは山と向き合うということ。雪が深いことで医者や僧侶が訪れることができないことが多い秋山郷では、信仰や土着文化というべきか、この土地ならではの方法で病人や亡くなった人と対話してきた。

 内田聖良の《カマガミサマたちのお茶会:信仰の家のおはなし》はそんな秋山郷での日々の営みを基につくられた作品だ。システム化され、無機質になりつつある現代の人との関わりを再考させられるような、そんな空間がそこには広がっている。


永沢碧衣《山の肚》2024

永沢碧衣《山の肚》2024

 《ヤマノクチ》から分け入っていくと白い洞窟のような建物が鎮座している。永沢碧衣の《山の肚》だ。

 東北の狩猟・マタギ文化に関わりながら制作を続ける永沢はマタギたちや山の動植物との間に内在した「語られざる物語」を可視化していく。

 白い洞窟はマタギたちが山の休憩地として使用していた「リュウ」と呼ばれる洞窟がモチーフ。なかにはマタギの息遣いと、洞窟壁画を思わせる山の景色が描かれている。山の胎内に入り込んだような、不思議な安心感が、人間と自然との境界について考えるきっかけを与えてくれる。

津南エリアには他にも注目の新作、旧作が数多く展示されている


山本浩二《フロギストン》2022/2024

山本浩二《フロギストン》2022/2024

 秋山郷、そして津南エリアにはここで紹介した以外にもさまざまな作品が展示されている。

 大地の芸術祭の醍醐味は、作品をただ巡るだけでなく、その土地自体を楽しみながら巡ることができるということだ。その土地からインスピレーションを受けて生まれた作品を鑑賞し、その刺激の根源である、街や大地そのものの魅力に触れる。

 そうすることで、アートを巡る体験は鑑賞者の身体に記録として残っていくのだ。

 つなんポークや雪下にんじん、そしてきのこや山菜、津南エリアにはさまざまな名産があり、苗場山麓ジオパークのような独特の地形も見どころ。アートとともに、津南エリアの醍醐味を全身で体感するのもおすすめだ。


ニキータ・カダン《別の場所から来た物》2024

ニキータ・カダン《別の場所から来た物》へ向かう拠点から見えるトヤ沢砂防。まるでアートのような造形。

 大地の芸術祭の開催は11月10日(日)まで。紅葉もアートも楽しめる秋の旅へ出かけてみては。

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024

https://www.echigo-tsumari.jp/

文・写真=CREA編集部

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