「虎に翼」を振り返って…小林涼子「会社経営の経験が、久保田先輩役に活きた」
CREA WEB / 2024年11月29日 11時0分
大きな反響があった2024年度前期の朝ドラ「虎に翼」で、日本初の女性弁護士のひとりとなったヒロイン寅子の先輩・久保田聡子を演じた小林涼子さん。彼女は俳優業をしながら、循環型農園の運営やアート事業などを手掛ける会社「AGRIKO(アグリコ)」の社長という顔も持っています。
俳優として、自分に個性がないのではいかと悩んでいた小林さんが、会社経営という顔を持つようになって起きた変化とは。
これまでは悲しい思いを抱える役が多かった
――「虎に翼」で演じた久保田先輩という役について、いま振り返っての心境はいかがですか?
小林 オーディションを受けたときは、伊藤沙莉さんが主演で、初めて法曹界に入った女性が主人公の話ですということは知っていたのですが、私がどんな役を演じるのかは知らない状態でした。受かった後に、どんな役を演じるのかを知ったのですが、久保田先輩のような役は、自分のやってきたキャリアの中ではあまりやったことのない役でした。私が今まで演じてきた役は、死んでしまうとか、悲しい思いを抱える役が多かったので(笑)、自分がこの役かと意外ではありました。
――これまでにない役を演じるにあたって、どんな準備をされましたか?
小林 最初のうちは、女性として日本で初めて弁護士になった久保田先輩という人がスーパーヒーローのような人なのかと思っていたので、なかなか人間味を掴むことが難しいなと思っていたんです。準備としては、当時、女性は法律の職業に就くことすらできなかった時代を切り開き、第一線で活躍をした方たちの本を読んだりしました。
出演者の方たちとみんなで、明治大学で法律の考証の授業も受けました。『虎に翼』に関わるまでは、法律を意識したことってあまりなかったんですけど、一個人として日本に住んでいる者として、改めて法律とは何かということを考える時間になりました。
――法律の授業を受けて、改めて気付いたことはありますか?
小林 法律って正解が決まっているわけではなくて、解釈や咀嚼をしていくものなんだなってことを知りました。そして、それを登場人物たちは学んでいくわけですけど、オーディションを受けていた頃は、遠い存在に思えていた久保田先輩という役についても、初年度は試験に合格できなかったり、そのことで悩んだり迷ったりしながら進んでいるんだと思うと、人間味も見えてきて、少しずつ人となりがわかって。彼女のことを大好きになりました。凄い人なので、さしでがましいかもと思いつつ、少しだけ久保田先輩が自分にも似ているんじゃないかという気もしてきて、演じることが楽しくなりました。
夫婦別姓の結婚式のシーンでは…
――演じていて、法律の話でここは面白いな、興味深いなと思った部分はありましたか?
小林 考証の授業で学んだ相続の話なんかは、将来自分にも関わってくるものだなと思いました。それと、21週目に久保田先輩が再登場したのですが、その週は、寅子が夫婦別姓を選ぶ話なんですね。私たち明律大学のみんなが証人となって寅子たちが結婚式を挙げるんですけど、そのお話がすごく興味深かったですね。この時代に寅子や久保田先輩たちが法律を学んできたからこそ夫婦別姓を選ぶんだということを描いていて、応援したくなるし、演じている私達にとってもぐっとくるものがあって、現場も同窓会みたいな雰囲気がありました。
――久保田先輩は、結婚後弁護士を辞めてしまうというところで終わっていたので、その後の久保田先輩のことが描かれるのか気になっていました。
小林 一度、弁護士を辞めると言って鳥取には帰るんですが、その後も弁護士を続けていたんですよね。久保田先輩のモデルとされる中田正子さん自身の人生になぞらえているんですけど、子育てや家庭のことをしながら仕事を続けている姿をほんとうにかっこいいなと思いました。中田さんに憧れて弁護士になった方もたくさんいらっしゃいますし、私もリスペクトを持って演じたいと思いました。今回のドラマでも、実際の中田さんと同じように久保田先輩が弁護士を続けていたことはうれしかったですし、ドラマに描かれていない久保田先輩の人生についても自分なりに思いを馳せながら演じていました。
――小林さんは、初の朝ドラ出演ですよね。朝ドラならではだと思うことはありましたか?
小林 朝ドラは、一度は出てみたいなと思っていました。生前祖父母がよく見ていたので憧れもありました。この仕事を始めて31年目のキャリアで初めて朝ドラに挑んでいますが、改めてプロの集まる現場だなと身が引き締まる思いでした。
とは言いつつも、学生時代のシーンはロケが多いこともあって、リハーサルをみっちりやるというよりは皆さんとその場で一緒に作っているという感じで、現場はまさに学生のような気持ちを大切に、日々楽しい撮影となりました。
会社経営をしているからこそ、久保田先輩役にもリアリティを感じられた
――別のインタビューで、「若い頃は自分の俳優としての個性について悩んでいた」と仰っていましたが、今はどう考えていますか?
小林 幸いなことに、会社をやりだしてからは、自分の個性や自分らしさが、今までよりは少し見つかったような気はしていますね。俳優としては、いまだに何が自分の個性であり、皆さんにどのようなイメージを持ってもらえているのかわかりませんが今は求められる役に自分との共通点なども見つけながら楽しんで演じています。
――俳優さんというのは、ある役を演じて、それが周知されていく中で、自分の個性みたいなものができてくるということもあるということなんでしょうか。
小林 そうですね。例えば癖のある悪役を演じて周知されると、それが良くも悪くもそのままその俳優さんのイメージになることもあると思います。でも私はまだそこまで認知がないと思うのでもうちょっと頑張らないといけないなとは思います。『虎に翼』では、皆さんに久保田先輩という役に関心を持っていただいたからこそ、こうやって取材をしていただく機会も増えたのかなと思うと、うれしいことですね。
10代~20代前半の頃は見えていたものが、20代後半~30代前半にかけて見えなくなり俳優としての自分のあり方に迷いを感じていました。最近、多かったのは「元カノ」の役です。もしかしたら「元カノ」は私の俳優イメージの一つになっていたのかもしれません。今回の『虎に翼』では久保田先輩のような責任感のある女性像というものを任せてもらい、自分が会社を経営しているという経験があるからこそ、新しい姿を提案できたのかもしれないと思います。
――「ハヤブサ消防団」で演じられた、カルト教団の聖母役もインパクトがありましたね。
小林 ありがとうございます。とても面白くやりがいのある役をいただきました。もしかしたら、私が俳優として醸し出している雰囲気からこの役をいただいたのかも……? と思うと面白いですね。一方で、俳優としては、無色透明でどんな役でも演じられるようになりたいという思いもあるので、役とイメージがイコールにならなくてもいいなとも思っています。
小林涼子(こばやし・りょうこ)
1989年生まれ、東京都出身。子役としてデビュー後、NHK連続テレビ小説「虎に翼」をはじめ、数多くのドラマや映画などへ出演が続いている。俳優業の傍ら、2014年より農業に携わり、家族の体調不良をきっかけに2021年株式会社AGRIKOを起業。農林水産省「農福連携技術支援者」を取得し、自然環境と人に優しい循環型農福連携ファーム「AGRIKO FARM」の運営、アート事業を展開。さらに報道番組への出演やラジオナビゲーターなどパラレルキャリアで活動の幅を広げている。
Instagram @ryoko_kobayashi_ryoko
株式会社AGRIKO
www.agriko.net/
衣装クレジット
トップス、パンツ(LOVELESS)
www.instagram.com/loveless___official
文=西森路代
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=髙 千沙都
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