「ちゃんとした女性であれという教えは、詐欺だ」最新インド映画が描いた“革命的な問い”
CREA WEB / 2024年10月6日 11時0分
同じ色の花嫁衣裳、同じようにベールをかけた二人の花嫁が、夫と連れ立って満員電車で移動をしている中で、別の夫によって取り違えられてしまうという奇想天外なストーリーのインド映画『花嫁はどこへ?』。本作は、『きっと、うまくいく』のアーミル・カーンのプロデュースのもと、『ムンバイ・ダイアリーズ』のキラン・ラオによって映画化された。第97回米アカデミー賞・国際長編映画賞のインド代表にも選出されている。
慣習に従って生きてきたちょっと世間知らずの花嫁・プールと、向上心に満ち、広い世界を目指すジャヤの人生は、「取り違え」という運命のいたずらによって、どう変化していくのか……。フェミニズムの問いもちりばめられた本作の監督、キラン・ラオに聞いたインタビューの前篇。
原案をさらに深めて映画化
――『花嫁はどこへ?』という映画は、アーミル・カーンさんが審査員を務められたコンテストで原案を発掘されたそうですね。そこから実際に映画化されるまでに、どのような過程があったのでしょうか?
原案に関して言うと、元の作品も「二人の花嫁」が出てくる話ではあったんですが、もっとリアリティをもって描かれているものだったんです。その中で「取り違え」も出てくるのですが、もっと直接的なストーリーで、花嫁のひとりのジャヤの設定も、ミステリアスなところがなくて、彼女が何を目的として動いているのかもはっきりわかるようになっていたんです。そして、ジャヤを取り違えて連れていった夫・ディーパクの家族たちも、彼女の目的に協力をするという、わかりやすいストーリーになっていました。私は、その原案をもとに、それぞれのキャラクターをもうちょっと発展させたいなという気持ちがあったんです。
――ジャヤは、もっと学びたいという向上心のあるキャラクターでしたが、そんな向上心にディーパクの家族が寄り添ってくれる内容だったというわけですね。脚本には、スネーハー・デサイさんと、追加ダイアログにディヴィヤーニディ・シャルマーさんという方が入られていますね。
原案から、もう少し深みを持たせたいと思っていたところに一緒に組んでくれたのがスネーハー・デサイさんでした。彼女は劇作家でもありますし、テレビ番組の台本もかなり書いている方なんです。経験豊富なので、私の提案するアイデアをどんどんインプットして脚本に盛り込んでくれました。また、いろいろなキャラクターの変更もしてくれましたし、ジャヤとプールという二人の花嫁に関しても、キャラクターに深みを加えていただきました。
というのも、プールのキャラクターというのが、なんというか世間知らずなところがありますし、外交的ではなかったんです。でも、そんな彼女が最終的に、どのように変化をしたのか、彼女の人生の変遷というものも、スネーハーさんが書き加えてくれました。追加された登場人物であるマンジュおばさんや、マノハル警部補のキャラクターに関してもユーモアを与えてくれました。
また、ディヴィヤーニディ・シャルマーさんも、警部補のキャラクターをよりユーモラスにしてくれました。
“軽食スタンドのおばさん”に集まった賞賛
――ひとりで軽食スタンドを切り盛りしているマンジュおばさんのキャラクターが魅力的でした。特に、マンジュおばさんがプールに対して「ちゃんとした女性であれという教えはフロード(=詐欺)である」ということを言っているシーンは衝撃的でした。このシーンは、日本で見ている我々にも響きますが、インドではどのような反響があったのでしょうか?
そのセリフはインドでも反応のよかった部分でした。この映画は、比較的、小規模な作品ではあったんですけど、劇場では100日間にわたって上映されていました。このような作品としては、かなりの好成績であったと言えると思います。
その中でも、特に反響があったのは、マンジュおばさんのキャラクターでした。ご指摘いただいた「ちゃんとした女性=グッドガール」の概念について語るシーンは、革命的ですよね。でも、マンジュおばさん自身が革命的なキャラクターであるからこそ、成り立ったところはあるかもしれません。
このセリフの裏にあるのは、結局、男性によって女性は縛られているということを指摘しているわけです。今回、この映画でマンジュおばさんを演じてくれたチャヤ・カダムさんが、この映画で最も称賛を受けた俳優になりました。
このようなキャラクターもアイデアも、インドでは受け入れることのできる準備があると言ってもいいと思います。マンジュおばさんのようなキャラクターが皆さんの支持を受けたこと、みなさんがこの役柄を楽しんでくれたということが、何よりの証だと思います。
――この映画は、2001年のインドを舞台にしていますが、当時のインドでは、花嫁を取り違えるようなことがあったり、プールが家事に関しては完璧に教えられているのに、自分の家の住所は言えなかったりするというような状況は本当にあったのでしょうか?
当時のインドでは、映画の中のふたりの花嫁のように、移動中もずっとベールを被っていないといけないということではなかったと思います。でも、実際にこうした取り違えというのは結構、起きていたんですね。ただ、映画の中のジャヤのように、今の生活から逃げるために、取り違えを利用するというようなことは起きていません。とはいえ、私も実際に、二件くらいはそのようなことが起きたという話を聞きました。(後篇につづく)
キラン・ラオ
1973年ハイデラバード生まれ。19歳でムンバイに移住。ソフィア女子大学を卒業後、ジャミア・ミリア・イスラミア大学で修士号取得。2010年の『ムンバイ・ダイアリーズ』で監督デビュー。
文=西森路代
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