インドでも「MeToo」をきっかけに社会が動いた——映画『花嫁はどこへ?』監督が語る女性の地位向上のために必要なこと
CREA WEB / 2024年10月6日 11時0分
同じ色の花嫁衣裳、同じようにベールをかけた二人の花嫁が、夫と連れ立って満員電車で移動をしている中で、別の夫によって取り違えられてしまうという奇想天外なストーリーのインド映画『花嫁はどこへ?』。本作は、『きっと、うまくいく』のアーミル・カーンのプロデュースのもと、『ムンバイ・ダイアリーズ』のキラン・ラオによって映画化された。第97回米アカデミー賞・国際長編映画賞のインド代表にも選出されている。
慣習に従って生きてきたちょっと世間知らずの花嫁・プールと、向上心に満ち、広い世界を目指すジャヤの人生は、「取り違え」という運命のいたずらによって、どう変化していくのか……。フェミニズムの問いもちりばめられた本作の監督、キラン・ラオに聞いたインタビューの後篇。
女性にも教育が重要であるとインドでも周知された23年間
――キラン・ラオ監督は、この映画の舞台となった2001年にはどのようなことをされていましたか?
2001年当時の私は、『ラガーン』という映画に関わっていました。この映画が、私が関わった一作目の映画と言える作品です。その少し前にも、『モンスーン・ウェディング』という映画にも取り組んでいました。そのほかにも、アーミル・カーン(2005年から2021年まで、キラン・ラオさんの夫で『花嫁はどこへ?』のプロデューサー)の主演映画にも関わっていたので、その頃というのは、本当に自分の助監督としてのキャリアをスタートした年だったと言えるかもしれません。
その頃、初めての脚本にも着手し始めました。書き終わったのは2004年でしたけどね。当時の私はかなり自立していたので、プールとジャヤのような感じとはかなり違っていましたね。2001年には、初めて自分用のコンピューターを購入したし、車も買ったのも覚えています。
――映画のなかで、花嫁たちが乗り込む列車で現地のさまざまなニュースが載った新聞記事が映るシーンがありましたね。
実は、そのシーンの新聞の一面には、2001年に実際に起こったインド西部グジャラート州の地震(インド西部地震)のことが載っているんです。その地震の半年前に、私がまさに映画『ラガーン』の撮影で滞在していたのがグジャラート州であったということもあって、私の経験を示唆するために、新聞の一面の記事にしたんです。もちろん、気付かない人は気付かない部分でしょうけれど、その地震で多くの人が家を失ったりしていたということがあって、そういったことを含ませたいなということもあったんです。
――この映画の舞台となった2001年から現在に至るまで、女性の地位向上や解放に関して、社会的なことでも個人的なことでもいいのですが、ターニングポイントになった出来事、ありますでしょうか?
2001年からの23年間で、これといった大きな出来事はないのかもしれないですね。あったとすれば、小さな変化です。少しずつ市民運動の中での草の根活動や、個人の努力によって、女性の教育の機会が広まっていったと思います。個人の活動が政府を少しずつ動かしていったところはあるかもしれません。
もちろん、政府も何もせずに手をこまねいていたわけではありません。15年前になりますが、女性にも教育が重要であるということで、助成金が出るようになりました。私の出身のマハラシュトラ州では、少なくとも小学校までは無償で学校に通えるようになりました。
同時に、女性の場合は「ガラスの天井」というものもある。そういったことも見えてきた23年でした。
インドでも「MeToo」をきっかけに社会が動いた
――日本からすると、『花嫁はどこへ?』のような海外映画を観ることも含め、海外の女性たちの現状を知ることがフェミニズムを知るためにも重要だと思いますが、監督は、どのようなことに関心を持たれてきましたか?
私のいる映画業界から見ても、2018年に起こった「MeToo」のムーブメントは見逃せませんでした。インドでもこのムーブメントの影響を受けて、職場でのセクシャルハラスメントのためのガイドラインが作られたり、それを守るためのコミッションが立ち上がりました。
そういった動きはとても喜ばしいものでしたし、映画業界でも、このままで十分というわけではない、引き続き必要なことだと意識しました。このムーブメントは世界中の女性たちに影響を与えたのではないかと思います。
インドでも、力を持った男性が女性を排除しようとすることは、エンタメ業界でもありました。
ただ、まだ過渡期であると思います。すべてがよくなったというわけではないけれど、こういったことがオープンに明示されて、これからより建設的に、良い方向にもってくことができればと思いますし。傷を負った人たちが、その傷について明示できるようになったり、話し合ったりすることができるようになったということが、まずは大きな変革だと思います。
――日本で考えると、「MeToo」のムーブメントなどに対して、賛同する人が増えている一方で、反発もまだまだ存在します。この映画に対してのそのような反応はありましたか?
幸い、この映画に関して言うならば、マンジュおばさんの役柄に対しての評価が高かったということもあって、好意的に受け入れてもらっていますね。それは、彼女の役柄がユーモラスであったことも上手く作用して、家父長制を重んじる人から攻撃されたりということはありませんでした。でも、なんらかの利権が絡んだり、これまで権力を持っていた人たちの立場が脅かされると感じた場合は、もっと反発が起こるのではないかとも思います。
スポーツにしてもエンターテイメントにしても、女性は攻撃されるのではないかという不安を抱いてしまうことはあると思うんですね。でも、そういうときにこそ女性が連帯をすること、声をあげること、勇気をもって声をあげた人を支えていくことが重要ですね。ただ、こうしたことを語れるようになったことは、前進だとも思っています。
キラン・ラオ
1973年ハイデラバード生まれ。19歳でムンバイに移住。ソフィア女子大学を卒業後、ジャミア・ミリア・イスラミア大学で修士号取得。2010年の『ムンバイ・ダイアリーズ』で監督デビュー。
文=西森路代
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