「いつかババアばっか集めて、独立した村作ってやるから」光浦靖子が“靖子チルドレン”と目指す未来
CREA WEB / 2024年10月12日 11時0分
カナダ・バンクーバーで“50歳の留学生”になった光浦靖子。この度刊行されたエッセイ『ようやくカナダに行きまして』では、カナダへ行ったものの思うように英語が上達せず「もう無理」になった日々を経て、「人と比べない」境地にたどりついた様子がありのまま書かれている。さて、これから光浦靖子はどこへ向かうのか?
私にはこんなにできることがある
――できないことも受け入れる、そして人と比べない。
光浦 だって考えてみたら、人と比べて、私、できることいっぱいありますし。人と比べてもいいけど、できないところだけ比べるのはフェアじゃないと思って。私はこんなにできることがあるっていうのも、自分で認めてあげる。それをしないからおかしくなっちゃうんじゃないかな。
――たしかに。できないことばっかり目についちゃう。
光浦 たぶんそういう文化や教育が背景にあって、みんなと同じじゃないとダメって小学校の時から叩き込まれて、みんなができることができないのは劣ってるからだと。それがうちらには染み込みすぎちゃってるんですよ。
――バンクーバーは特に多国籍な町だと書かれていましたが、いろいろな国の方に会ってなおそう思われましたか。
光浦 そうですね。何かに怒るきっかけって相手の非常識に対してだったりすると思うんですけど、向こうの常識からしたら、こっちが非常識。何時何分に予約したのに、何時何分に来ないことに怒っても、向こうの常識からしたら、何時何分に来れるわけないでしょ、って。
――なるほど。常識が違うんですね。
光浦 たとえばバスに並んでても、人との距離がそれぞれの国によって違う。私は人が近いと嫌なんで、 なるべく間隔は空けたいけど、とある国の人はすっごいぴったりに立つんです。彼らは常に複数でぎゅっとしてるから、不快なことをしてるとはこれっぽっちも思ってない。もうそこに目くじら立ててもきりがない。そう考えないと日本にいた時と同じになってパンクしちゃう、ネガティブなことばかりに目を向けてたら、負けちゃうって思いました。
バンクーバーの人たちはとにかく優しい
――それぞれ常識が違う人たちが、交わっていくのに必要なことってなんでしょうか。
光浦 それは……私もトレーニング中って感じですね。未だに「え……」って思うことは山ほどある。でもね、バンクーバーの人たちってほんとおおらかな人が多いんですよ。例えば移民をこれだけ受け入れて、外国人が土地を買って地価が高騰して、カナダ人の若い人がカナダに家を買えないっていう状況なんです。今は深刻な職不足もある。そうなると怒りが移民に向く条件はもう揃っちゃってるわけだけど、 私の周りにいるバンクーバーの人たちは移民を否定しないんですよね。それどころか英語がしゃべれない私みたいな人間に対して、わかりやすい英語で伝えてくれたり、とにかく優しいんですよ、私そこにはすごく影響を受けました。
――うらやましい。
光浦 カナダ人と「地価が高騰して、もう本当住めないよ」「家賃も物価もぐいぐい上がるし、大変だよ」っておしゃべりしながら、ああでも、その理由の1つに私のような留学生も含まれてるんだよなって。そう言うと「それはそれで別の問題だよ。政府が受け入れたわけだしね。移民のおかげで経済も良くなったのは確かだし」って。素晴らしい教育を受けてるなぁって思いました。
――なんか……めちゃくちゃ大人というか、成熟してますね。光浦さんが大変なことがありながらも、日本に帰りたいとは一度も考えなかったとおっしゃる一端が今のお話で少しわかった気がします。
光浦 もしそこで「出ていけ!」とか、ヘイトみたいな一言でも言われてたら、私は即日本に帰ってると思う。本当に素晴らしい人に恵まれたっていうのもあるのかもしれない。ただこの本ではまだ、ホームステイしている語学学校の生徒という守られた時期のことで、まだ社会に出てないですからね。今の方がもっと行動範囲も広がって大変ですし、面白いですし、そのことも書いていきたいです。
いつかババアばっか集めて、独立した村作ってやる
――これから「光浦靖子」はどこに向かうのでしょうか。
光浦 とりあえず、お金を稼いでみたいです。学校を卒業して、3年の就労ビザをゲットできて、ようやく働けるようになったので、これからは、どうやってお金を稼いでいくか。手芸をやったり、芸能をやったり、自分ができること、自分の能力をカナダで試したい。
今向こうで手芸のワークショップやってるんですけど、日本人の方がもういっぱい来てくれるんですよ。「光浦さんに影響されて留学しました」っていう50代の人が、 毎クラス来てますね。どうしても会いたくてって来てくれる。私はその人たちを「靖子チルドレン」って呼んでます(笑)。
――靖子チルドレン!
光浦 靖子チルドレンたちにね、日本帰ったら増殖させといてって言ってる。 最終的にどこに住むかわかんないけど、いつかコミューン作るから、ババアばっか集めて、独立した村作ってやるからって。いつか靖子が手芸だけで食っていける場所を作って、みんなで拡大鏡買って、ババアは小さいの見えねえからって笑いながら刺繍するんです。 ハンドメイドとか手間がかかったものを買う金持ちはいるから、そこにうまいこと靖子が昔取った杵柄で、芸能人ルート開拓して売るから。それを信じて今はがんばって生きなさいって。もはや宗教(笑)。
――今、光浦さんの「拠り所」はどこですか。
光浦 どうしてんのかね……ほんと誰にも頼らず(笑)。そう考えたら、1個の大きな敵は病気ですね。あとは自然災害。もう自分の力では到底太刀打ちできないことが起きた時に、こんな1人でどうやって乗り越えられるのかなっていうのはちょっと不安はありますけど。でもその時は……得意の泣きそうな顔して「ヘルプミー……」って言って、人の優しさにつけ込もうかな(笑)。
――女性芸人さんにインタビューすると「光浦さんに優しくしてもらった、助けてもらった」っていうお話、すごく聞くんですよ。光浦さんは今までたくさんの「ヘルプミー」に応えてきた人なんです。
光浦 (笑)。じゃあ遠慮なく「ヘルプミー」しますね。
光浦靖子(みつうら・やすこ)
1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。国民的バラエティー番組『めちゃ×2イケてるッ!』のレギュラーなどで活躍。また、手芸作家・文筆家としても活動する。大評判となった前著『50歳になりまして』(文藝春秋)のほか、『私が作って私がときめく自家発電ブローチ集』(文藝春秋)、『靖子の夢』(スイッチ・パブリッシング)、『傷なめクロニクル』(講談社)など。2021年からカナダに留学。
文=西澤千央
撮影=深野未季
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