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「和三盆糖」と「讃岐うどん」はなぜ生まれた? 大地の歴史から知る真実【瀬戸内ジオ・ガストロノミー】

CREA WEB / 2024年10月11日 11時0分

 食を通して旅先の文化を知る「ガストロノミーツーリズム」という旅のスタイルは、知的好奇心旺盛な旅人の心をくすぐる。そして旅に出て、新たな疑問を抱くのだ。「どうして、この地でなければならなかったのか」と。その答えは「大地=ジオを知ること」に尽きる。

 食文化の背景をジオの視点から深掘りしようとするのが、香川大学特任教授の長谷川修一先生。地質学のエキスパートである長谷川先生に、香川県の食文化にまつわるふたつの謎をひもといてもらった。


三谷製糖の和三盆。四季折々のモチーフをかたどった「春夏秋冬」。

和三盆糖の産地がなぜ香川県に? 

 上品な甘さとほどけるような口どけにファンが多い干菓子、和三盆。その原料となるサトウキビの産地は、香川県と徳島県の一部に限られる。江戸時代から和三盆糖製造の技術を受け継ぐ、香川県の三谷製糖がある相生地区もそのひとつだ。「このあたりは、なぜかお米がうまく育たなかったんです。だから砂糖の生産をするために、サトウキビ栽培をはじめました。江戸時代、砂糖は貴重なものでしたから。それが私たちの家業のはじまりです」と、三谷製糖のご主人は言う。


1804年(文化元年)に創業した。

江戸時代中期ごろの、サトウキビを搾る「しめ車」。

 ちなみに相生地区から車で20分ほどのところにある水主(みずし)地区は、有名な米どころ。2024年は、毎年11月に皇居で行われる新嘗祭に献上する米が生産された。

 地理的に近い相生と水主、この違いは何だろう。長谷川先生に尋ねると「地質、つまり大地の成り立ちが違うんですよ。三谷製糖がある相生地区は、讃岐山脈から流れてきた馬宿川の扇状地の礫(石ころ)が堆積した土地で、水はけがよすぎて米作りに向かない。一方で、水主米のエリアは讃岐山脈の手前の花崗岩の丘陵から流れる与田川が運んだ砂や泥が堆積した土地で水もちがよく、水田向きの土地というわけです」。


和三盆糖をつくるためのサトウキビ。

 適度な水と、水はけのよい地質はサトウキビ栽培に必要だが、サトウキビが採れるからといって和三盆糖ができるわけではない。汁を搾ることからはじまり、煮詰めては冷ますことを繰り返し、何度も練り上げて和三盆糖ができるのだ。三谷製糖では、江戸時代に45年の歳月をかけて今の製法を確立させたという。先人の知恵と工夫、そして伝統技術を継承する努力を感じながら、この美しい一粒を味わいたい。


木型で丁寧に型打ちする。春はさくら、夏は貝殻など季節のモチーフが楽しい。

和三盆 三谷製糖羽根さぬき本舗

https://wasanbon.com/

うどん文化を考える1億年のジオ・ストーリー

 どうして香川県はうどん県になったのだろうか。長谷川先生の解説は、1億年前からはじまる。「まず、うどんに欠かせないのは塩。香川県は入浜式塩田が築造されて、製塩産業が栄えました。入浜式の塩田に必要なのは塩を分離しやすい砂浜で、そのもととなるのは1億年前のマグマ活動によってできた花崗岩です」。1億年前といえば日本列島がまだ大陸の一部だったころ。その後2000万年前から日本海ができはじめ、1400万年前以降に四国山地が隆起、300万年前に讃岐山脈ができて、香川県は雨があまり降らない平らな扇状地となった。


うどんは小麦、塩、水というシンプルな材料だけにうつ技術が麺の味を決める。

 それから少雨の扇状地という強みを活かして小麦の栽培がはじまる。扇状地には伏流水が流れ、きれいな水にも恵まれた。

 さて次に考えるのは、うどんつゆの材料。塩を主原料とする醤油が醸造されるようになり、瀬戸内海で獲れるカタクチイワシをイリコ(煮干し)に加工して、味のベースとなる出汁とした。1万年前にようやく「海」となった瀬戸内海。燧灘にぽつんと浮かぶ伊吹島で生産されるイリコ「伊吹いりこ」は、おいしい讃岐うどんの出汁に欠かせない。


伊吹島はカタクチイワシの漁場の真ん中に位置する。水揚げされた魚をスピーディーに加工することが、「伊吹いりこ」の品質を高めた。

 うどん麺の原材料である、塩、小麦、それから水。つゆのための醤油とイリコ。讃岐山脈が隆起し、陸だったところに水が入り込んで海となったという1億年にわたるジオ・ストーリーが、うどん県誕生の秘話というわけだ。

餡餅雑煮が未経験ならココで食べよう!

 香川県の名物といえば讃岐うどんだが、もうひとつ、お正月の讃岐名物、餡餅雑煮を紹介しよう。香川県の雑煮には、餡をつつんだ丸餅が入っている。これは明治のころに「普段は高級品で手が出ない砂糖も、お正月ぐらいはちょっと贅沢して食べましょう」ということからはじまったと言われている。和三盆糖が生まれた香川県ならではの発想なのかもしれない。

 そんな珍しい餡餅雑煮を一年中提供しているのが、高松市の屋島山頂にある桃太郎茶屋。屋島から見える瀬戸内海の景色も美しく、旅の締めくくりに餡餅雑煮を食べるのもおすすめ。


みその塩けと餡の甘みの相性がいい。

屋島から見える高松市街の景色。

目の前には桃太郎伝説が伝わる女木島が横たわる。

桃太郎茶屋(屋島の宿 桃太郎 内)

http://www.r-momotaro.com/index.html​


長谷川修一(はせがわしゅういち)

東京大学大学院で地質学を専攻。香川大学特任教授・名誉教授。NHK番組「ブラタモリ」に出演し、香川県の案内人をつとめる。2019年に讃岐ジオパーク構想推進準備委員会を立ち上げる。大地の成り立ちから地域を見つめ、防災や地域振興、人材育成など各方面で精力的に活動中。
https://sanukigeo.org/

文・写真=請川典子

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