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「生まれ変わったら日本人になりたい」。日本に心を寄せ続けたリサ・ラーソンが人生の最後に手がけた作品への想い

CREA WEB / 2024年11月23日 11時0分

 2024年3月11日に、92歳でこの世を去ったスウェーデンの陶芸家リサ・ラーソン。亡くなる直前まで創作活動を続けたリサが、人生の最後に手がけた作品が「ジャパンシリーズ」だった――。短期集中連載の第2回は、リサ・ラーソンと共にジャパンシリーズを立ち上げた「トンカチ」の佐々木美香さんと勝木悠香理さんに話を伺った。

≫【連載をはじめから読む】すべては一通の手紙から始まった——北欧を代表する陶芸家リサ・ラーソンが日本で愛された17年


日本文化への憧れと日本人を思う気持ちから始まったジャパンシリーズ


日本で作られた剣道着を長年愛用していたリサ・ラーソン。

 親日家としても有名だったリサ・ラーソン。意外にも来日したのは2回だけで、初めは1970年の大阪で開催された日本万国博覧会の視察団として、2度目は1981年に西武百貨店で開催されたリサの展覧会のときだった。初来日の際は益子焼の濱田庄司の工房などを訪れ、日本の陶芸について学び、以来、日本文化に強い関心を抱き続けた。


1981年西武百貨店で開催されたリサの展覧会の当時のパンフレット。

「リサがスウェーデンの自宅にいるときは、剣道の練習着を羽織っていることが多くて、その姿がかわいくて印象的でした。しかも、その剣道着は来日したときに貰ったもので、かれこれ25年以上も愛用しているほど気に入っていましたね」と話すのは、トンカチ代表の勝木悠香理さん。勝木さんたちが帰国する際は、「次は日本でね」というのがリサの口癖で、「生まれ変わったら日本人になって陶芸がしたい」と語るほど、日本に心を寄せていたそう。


トンカチの勝木悠香理さん(左)と佐々木美香さん(右)。

 2010年には、娘・ヨハンナとの共作絵本『BABY NUMBER BOOK』を日本で出版し、日本とのつながりを深めつつあったリサ。その矢先の2011年に東日本大震災が起こると、「日本のために何かしたい」と立ち上がり、震災直後に「ジャパンシリーズ」というプロジェクトをスタートさせた。

「機能があるもの」に憧れていたリサ

「ジャパンシリーズは、リサ・ラーソンが日本の伝統工芸とコラボレーションすることをテーマにスタートしました。2011年に第1弾としてつくったのが手ぬぐいで、和柄の青海波や市松模様にマイキーを合わせてみたら想像以上に相性がよく、リサも喜んでくれました」と話すのは、トンカチのデザイナー・佐々木美香さん。これを機に、リサの念願だった陶器作品にも取り組み、波佐見焼や有田焼とコラボした箸置きや豆皿なども展開し、新たなファンを獲得した。


ジャパンシリーズの手ぬぐい。デザインも増え、現在も人気商品として愛されている。1,540円~/トンカチストア

有田焼で作られた「ごのねこ箸置き」各1,100円/トンカチストア

「リサは常々、“人の役に立つものや、機能があるものをつくることに憧れる”と言っていました。リサは師匠のスティグ・リンドベリから、食器ではなくて置物をつくったほうがいいと言われて、そのまま来てしまったので、夢が叶ったと言って本当にうれしそうでした」(勝木さん)

 その一方で、陶芸に関する知識が一切なく、大きな壁にぶつかった勝木さんと佐々木さん。リサや窯元の職人が話す内容を理解できないと、本当につくりたいものがつくれないと危惧し、陶芸教室に通い始めることに。忙しい合間を縫って、週1回のペースで通い続けるうち、2人とも陶芸の楽しさに目覚め、気付けば3年が経ち、リサたちとも対等に話せるようになった。

82歳から取り組み、92歳で有終の美を飾った干支シリーズ


トンカチが所有している剣道着。

 ジャパンシリーズの中でも、リサのライフワークになっていたのが、2013年にスタートした干支シリーズ。そもそものきっかけは、東日本大震災の発生時に、佐々木さんと勝木さんが商業施設でリサの陶器作品を展示していて、割れ物が最も不要とされる状況下でブルドッグの置物を見てくすっと笑う人や、通りすがりの人が思わず足を止めて見入っている光景を目の当たりにしたこと。リサの造形のすばらしさを改めて実感し、日本人にとってなじみ深い動物である干支の制作を依頼した。

「1年にひとつずつ原型を制作していました。干支は12年で一巡するので、晩年(2024年)は十二支すべて揃えることを目標に、いつも早めに制作に取りかかるようにしていました。リサが干支の原型を制作し、波佐見焼の職人が手作業で生産するというコレクターも多いシリーズで、2025年の巳で一巡するのですが、リサは亡くなる2ヶ月前の今年1月にヘビの原型を完成させていました。サプライズが好きなリサからの最高の贈り物です」(佐々木さん)


ちょうど10月から予約受付がスタートしたヘビ。リサは亡くなる直前に12作目を完成させた。

「ジャパンシリーズ」には新作が

 干支シリーズが有終の美を飾ったことに加えて、昨年から新たなプロジェクトも始動しているといううれしいニュースも。

「リサといえば数々の猫作品で知られていますが、実はジャパンシリーズでも新たな猫作品を制作中です。リサがジャパンシリーズのためにつくったひとつの猫の原型を用いて、全国の窯元でその産地の土や釉薬を使って、ご当地の特色を活かした猫をつくってもらうプロジェクトです。第1弾の益子焼を皮切りに、猫の原型がリサの代わりに日本中を旅できるよう、全国の窯元に広げていきたいです」(勝木さん)


リサがジャパンシリーズのためにつくった猫の原型。全国の窯元と協業して制作する。かつては窯元をまたいで仕事をすることはご法度とされてきたが、どの窯元も「リサさんのためなら」と快く引き受けてくれたそう。

 10月には、リサが人生の最後に手がけた干支シリーズのヘビがお披露目され、早くも話題に。リサの思いを紡ぐ新たなプロジェクトも、猫好きにはたまらないシリーズになりそうだ。

***

近日公開予定の短期連載の第3回では、リサ・ラーソンの職人としての知られざる秘話についてご紹介します。

トンカチ

https://tonkachi.co.jp/

干支シリーズ(ここからつづくへび)
https://shop.tonkachi.co.jp/products/ll2298bl

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文=田辺千菊(Choki!)
撮影=深野未季、平松市聖(3ページ2枚目)
提供写真=トンカチ

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