リサ・ラーソンの“日本の孫”たちが回顧する葬儀の日。「いま帰ったら家族じゃないわよ」と親族に引き留められて…
CREA WEB / 2024年12月14日 11時0分
日本でも広く愛されたスウェーデンの陶芸家リサ・ラーソンが、2024年3月11日に92歳でこの世を去った。短期集中連載の最終回は、リサが亡くなる直前まで共にものづくりに取り組んでいた「トンカチ」の佐々木美香さんと勝木悠香理さんに、リサとの思い出や4月に行われた葬儀について振り返ってもらった。
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リサとの17年間を振り返る原点回帰の旅
「早いもので、リサが亡くなって半年以上経ちますが、正直まだ実感がないんです」。葬儀にも参列し、日本での追悼展を終えてもなおそう感じると話すのは、トンカチの佐々木美香さんと勝木悠香理さん。最後に見たリサはいつも通り元気で、亡くなる2か月前まで仕事のやりとりをしていたというから無理もない。
「リサが最後に手がけた作品は、毎年楽しみにしているファンも多い干支シリーズでした。この作品に取りかかったとき、リサは91歳で、体調に波はあったものの、仕上げてきたものは期待や想像を上回るさすがの出来でした。リサ自身も創作を続けていく意欲があったので、この世にいないことがまだどこか信じられずにいます」(佐々木さん)
年齢を考えれば、いつなにが起きても不思議ではなかったが、90歳を超えても尽きることのないリサの想像力と創作意欲は、親しければこそ、“まだ大丈夫”と確信させられてしまうほどの輝きがあった。
「リサの訃報を聞いたときは、まさかと思って愕然としました。コロナがあって2019年を最後に渡航が叶わず、“今年こそ会いに行こう”と計画していた矢先の出来事で……。それで、私たちも葬儀に招いていただいたのですが、スウェーデンでは葬儀の構成や演出を1か月ほどかけてじっくり決めるのが習わしのようで、リサの葬儀も亡くなった1か月後の4月13日に執り行われました」(勝木さん)
葬儀には“好きな格好で来てね”
リサの葬儀は、ストックホルム郊外にひっそりと佇む、アスプルンドが設計したスコーグスシュルコゴーデン(森の墓地)の礼拝堂で行われた。ひとりの女性牧師がリサの経歴を紹介しながらセレモニーを進行していくなか、一般の参列者も多く駆け付けた。
「葬儀の際は、リサのご家族の計らいで私たちも親族席に座らせていただき、家族の一員としてリサを送り出すことができました。葬儀には一般の参列者もたくさんいらしていて、リサがスウェーデンの国民的な陶芸家だったことは認識していましたが、改めて偉大さを実感しました」(勝木さん)
同時に、スウェーデンの葬儀は、日本とスタイルがまったく違うことも驚きだったそう。
「娘のヨハンナから葬儀の連絡をもらったとき、“私は青いドレスで行くから、美香たちも好きな格好で来てね”と言われて、喪服や黒い服である必要がないことにまず驚きました。半信半疑で葬儀当日を迎えると、ヨハンナの言葉通り、みなさん思い思いの格好をしていて、なかには普段着の方もいて。セレモニーの途中には、リサの長男の娘さんがボーイフレンドと一緒にギターを演奏する自由さで、喪に服するというより、笑顔で送り出そうという雰囲気も素敵でした」(佐々木さん)
家族の一員としてリサを偲んだ忘れがたい夜
葬儀の後、佐々木さんと勝木さんはリサの自宅で行われた親族の集いにも招かれ、故人を偲んだ。
「リサは3人のお子さんやお孫さんに加えて、曾孫や玄孫までいる大ファミリーでした。その中に交じって、食べたり飲んだりしながらリサの思い出話に花を咲かせていると、途中で私たちにもスピーチの順番が回ってきて。それまで明るい雰囲気だったのですが、リサへの感謝を口にした途端、この17年間は奇跡のような日々だったんだなと今更ながらに感じて、とめどなく涙があふれてきました」(佐々木さん)
その後も、お孫さんが撮影したリサのドキュメンタリー映像を鑑賞したり、みんなで焚き火を囲んでダンスをしたり、優しく穏やかな時間が流れていった。
「ご家族だけでリサを偲ぶ時間も必要だろうと、ひと足先に帰ろうとしたら、“いま帰ったら家族じゃないわよ”と引き留めてくださって、みなさんの優しさが身に沁みました。リサが人生最後の瞬間まで仕事をすることができたのは、ご家族の献身的なサポートがあってこそでしたし、リサが亡き後も彼女の思いを汲んで、引き続き私たちがリサのプロジェクトを進められていることにも感謝の気持ちでいっぱいです」(勝木さん)
リサの葬儀に合わせて、トンカチのギャラリーでもリサの追悼展を開催。通常の作品展とは異なる形で、これまで未公開だった資料も紹介しながら、リサとの日々を回顧するものになった。
「リサは晩年、“人生は60歳から80歳までの20年間がいちばんいいときよ”とよく語っていました。私たちはリサの人生最良の時期に出会い、無理が効かなくなった80代後半には“これが人生よ”と悲哀を感じながらも、92歳まで走り続ける姿を見せてくれました。リサの人生観を初めて聞いたとき、私たちはまだ若くて、“最良の時期ってそんなに先なの!”とおどけるだけでしたが、今では年を重ねるたび、その言葉に勇気づけられています」(佐々木さん)
リサの追悼展を経て、佐々木さんと勝木さんはリサとの17年間を改めて振り返り、現在その記録を1冊にまとめている。それは、ふたりからリサに贈る最後のラブレターであり、知られざるエピソードやプライベートな写真がたくさん詰まった渾身の作品になりそうだ。
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トンカチ
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文=田辺千菊(Choki!)
撮影=深野未季、平松市聖(3ページ目2枚目)
提供写真=トンカチ
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