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「どん詰まりの映像業者としてのリアリティが…」ドラマ『フィクショナル』がBLとフェイクニュースを描いた理由【映画館上映も決定】

CREA WEB / 2024年10月31日 17時0分

映画館上映も決定した話題のドラマ

 今年の10月1日にテレビ東京で地上波版の放送も始まり、K2や新文芸坐などの劇場での上映も決まったドラマ『フィクショナル』。清水尚弥と木村文が主演を務め、「BL(ボーイズラブ)」と「フェイクニュース」という異色のテーマが注目されている。地上波に先駆けて動画プラットフォーム BUMPで先行配信され話題を呼んだ。

 憧れだった先輩から映像編集の仕事を頼まれたことで、とある騒動に巻き込まれていく青年を描いた本作。手がけたのは、『TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています』などを生んだテレビ東京の人気プロデューサー・大森時生さん、そして短編映画『カウンセラー』でSKIPシティ国際Dシネマ映画祭 SKIPシティアワードを受賞し、黒沢清監督も「今一番注目し、影響も受けた」と名前を挙げる映画監督・酒井善三さんだ。

 『フィクショナル』の仕掛け人であるお二人に番組のコンセプトや制作に到るまでの裏話などを聞いた。


酒井善三監督(左)と、大森時生さん(右)。

酒井監督の持ち味を生かすためにあえて選んだ“分業スタイル”

――今回の『フィクショナル』では、大森さんがこれまでとは異なる制作体制で臨んだと伺っています。

大森 これまではSIX HACKのように、フェイクドキュメントの形式で制作したものの一部にドラマが挟まってくるというかたちで、酒井監督とご一緒していました。その中でがっつり酒井監督とひとつのフィクションを作り上げたいと思うようになりました。

――その判断の裏にはどういう想いがあったのですか。

大森 酒井監督には私がプロデュースを務めた多くの作品で監督をしていただきましたが、一人の酒井善三ファン目線で見ると「酒井監督が得意なテイストの作品」とはまた違ったのかなとも常々感じていました。酒井監督の本分は劇映画であり、ドラマチックな切り返しのカメラワークといった映画的演出が光る方です。それを活かせるのはやはりドラマであり、映画であり、つまり完全なるフィクション=物語ではないかと思いました。


酒井善三監督。

――酒井監督としては今回の抜擢はどうでしたか。

酒井 大森さんとの仕事で『Aマッソライブ 滑稽』以後、担当の部分に関しては「脚本段階からこちらでやらせてください」と、設定と落としどころの共通イメージは打ち合わせた上で、ある程度自由にはやらせてもらっていました。ただ、せっかくならオリジナルのドラマか映画をやってみたいですねというお話はずっとしていたので、今回はその念願がようやく叶いました。

「BL」と銘打ち起こした観客と作品の化学反応

――「BL」というジャンル名を掲げているのには、何か理由があるのでしょうか。

酒井 厳密には、ジャンル名として「BL」と掲げたのは作った後でして、その意味で僕には理由はありません。シナリオを作る際には、直接的ではないが、妖しくエロティックなカットを撮りたいとは思っていて、今回は男性による男性への欲求となりました。僕としては男女ペアを描くのと同様、そこに特別な理由はありません。

 物語の軸として参考にしたのは1940~50年代に流行したアメリカの犯罪映画のジャンルである「フィルムノワール」です。その要素である「男を破滅させる魔性の女(ファム・ファタール)」を男性にした。そのため、物語自体は、言ってみれば超古典的になっていると思います。

「BL」というジャンル名を掲げる、というのは撮影終了間際に頂いた大森さんからのご提案です。パッケージングに関しては大森さんを全面的に信頼していますので、ただ「お任せします」と。その上で、ビジュアルや予告、コメントといった宣伝物を納品する際には「BL要素、恋愛要素を強めにしてください」との要望を頂き、対応しました。


憧れの先輩にひょんなことから再会したら…まさかの共同生活がスタート!?でもその先輩は“ある秘密”を抱えていて…Ⓒテレビ東京

―― 一方で男性同士だからこそ浮かび上がる要素もあったように思えます。プライドや見栄が主人公の神保を取り返しのつかないところに運ぶストーリー運びや、男性のコミュニティの問題点などの要素も大変興味深かったです。

酒井 当然ながら神保というキャラクターには、どん詰まりのイチ映像業者としてこの社会を生きる男である僕自身のリアリティが反映されているので、彼が男性でなかったら同じ物語ではなかったでしょう。


大森時生さん。

――しかし、そうした男性性がもたらす問題、そして同性愛の要素などが露骨ではない自然なバランスで物語に組み込まれているのが印象的でした。

大森 このナチュラルさを売りにするのも手だったのですが「BL」というジャンルの層もまた厚かったので、そこにも波及できる作品になればいいなと思い、あえて「BL」と銘打ちました。「BL」を入り口に興味を持って見た結果、ジャンルの様式美に収まらないナチュラルでジャンルレスな愛の形を感じてもらえたら嬉しいですね。

――作品を見てもらうための「パッケージング」の工夫と、魅力的な作品を作ることは近しいようで遠い作業なのかもしれませんね。今回、お二人が分業的な体制をとられた理由が見えてきた気がします。

優れた娯楽作品は多面的であるべき

酒井 優れた娯楽作品は多面的であるべきだと思います。ジャンルは「こうあらねばならぬ」という枠ではなく、作る方からすると足掛かりとしてのヒント、大らかな「要素」なのです。僕は作品をどう見てもらいたいかはあまり考えていない。大森さんは出来上がった作品のどこを切り取って商業的に売り出していくのかかなり苦悩されたと思います。

 僕は大森さんが「BL」と銘打った理由は、ジャンルという入り口から入ってきた観客に不意打ちで作品の多面性をぶつけようとしたからなのかな、と思っています。ジャンルへの愛は時として一方向だけに深化しすぎ、横の出会いが閉ざされてしまうこともある。そういうときに「意図せず何かに出会う」経験は貴重です。テレビという「不意に自分の知らない何かに出会うことがあるフォーマット」を主戦場とする大森さんらしい切り取り方ですよね。


酒井善三監督(左)と、大森時生さん(右)。

大森 現代の若い観客は昔以上にジャンルから入ってくる印象があります。「よくわからないものを見にいく」のは一部の好事家だけなのでは、とすら思います。酒井監督の言う通り、私は作品を通して観客を意図していないものに出会わせたかったのかもしれません。

文=むくろ幽介
写真=鈴木七絵

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