「見に来てくれた君たちに命をあげるよ!」西城秀樹は一体何が凄かったのか<フィルムコンサート参戦記>
CREA WEB / 2024年10月20日 6時0分
今年の夏は本当に長かった。10月半ばまで気温が30度近いとはどういうこと!? しかし、その暑さのおかげで、すぐに思い出せる。2024年9月16日(月)に開催された、激アツフィルムコンサートの盛り上がりを……!
さあ、いざ書かん、体験レポート。すでに1カ月が過ぎている。私はどうも参戦してから記事を書くまで、興奮を一定期間寝かせるクセがある。漬物かいな! と愚痴っている時間も文字数ももったいない。9月16日Zepp Nambaで行われた「BIG GAME 2024 アンコール」の様子を振り返っていこう。
バーモントカレーのCMからスタート
当日のメモを読むと「あづいあづい」とミミズがのたくったような字で書かれている。それもそのはず、9月16日の大阪は最高気温35.5度! しかも開演が13時という真っ昼間。あっつー!!
会場に入ると涼しくて生き返る。物販に走り、サイリウムとパンフレット、マフラータオルを購入。
ワンドリンクはジンジャーエールをチョイス。さあ、私の座席はどこ!
席はさすがギリッギリで申し込んだだけあり、果てしなく後ろのほう。しかし、嬉しいことに、今回はお隣のマダムが話しかけてくださった。
「デビューからヒデキ一途♪」
ニコニコとスマホを見せてくれる。私も負けてはならぬと、
「私のサイリウム、『ブルースカイ ブルー』のブルーですッ」
と、目の前でバキャッと折ってみせる。
そんなことをしているうちに、会場が暗転。全員がザッと画面に集中する。私は息をのんだ。実は今回、詳細を読まずチケットを取ったので、頭に入っているのは「BIG GAMEを2本上映」というだけである。いいのだ。ヒデキならなにを見ても間違いない。なんなら予定が変わり、2、3時間ハウスバーモンドカレーのCMでも、見ていられる自信はある!
「BIG GAME‘79」の芸術的「エピタフ」
そう思っていたら、本当にコンサートのスタートは、バーモントカレーのCMからであった。何パターンもの、子どもたちとカレーを食うヒデキを愛でたあと、1本目のフィルム、1979年8月18日に大阪球場で開催された「BIG GAME '79 HIDEKI」がスタート!
ヒデキはバイクと共に、焼けた素肌に白いテープを貼り付けたようなジャンプスーツで登場。控えめに言って超セクシー!
「ヒデキィィィ!」
さっそくサイリウムを振る。
クイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」から始まり、前半は洋楽まみれ。ビリー・ジョエルの名曲「オネスティ」の日本語カバーもいいが、やはり特筆すべきはキング・クリムゾン「エピタフ」の魂のパフォーマンス!手脚、指、筋肉を一本一本ゆっくり動かし、肉体の神秘を見せつける動きはダンスの域を超え、もはや芸術。パリ・オペラ座バレエ団、なぜスカウトに来なかった!?
ヒデキがゆっくり背中を向けた瞬間、演出のレーザービームが空に向けて飛ぶ。位置的に、ヒデキの脳天から出ているように見えるのがまたエモい!
彼は「エピタフ」で1万キロカロリーは消費していると思う(個人的推定)。どこからか「1曲にこんなにパワー使って大丈夫なの(泣)」と呟きが聞こえたが、マジでパワー配分大丈夫??
パフォーマンスは激しいのに、MCは、とってもかわいいヒデキ。
「こーんばーんわー!」
ヒデキの呼びかけに、
「こーんばんわー!」
と元気に返す私たち。こちらは昼間なのだが、んなことはいいのだ。もはや「フィルムコンサート」という意識もぶっ飛んでいる。Zepp Nambaは今、1979年、夜の大阪球場にタイムトラベル完了しました!
ザ・コンテナダンサーズ&ヒデキのゾーンに入ったツーステップ
さて、この年とても楽しいのがコンテナタイムである。
コンテナタイム――。それは、大型トレーラーのコンテナを移動ステージに見立て、客席近くまで行くというニクイ演出である。しかもノリのいい曲が選曲され、その名も「ヒデキ ディスコ スペシャル」! ヒデキと一緒にコンテナタイムを盛り上げるのが、素晴らしいスタイルをした外国人の女性ダンサー2人。お名前が分からないので、リスペクトを込めて「ザ・コンテナダンサーズ」と呼ぶことにしたい。
クッ、ヴィレッジ・ピープルの名曲「ゴー・ウエスト」からの、ヒデキヒット曲メドレーという最高のセトリは何度聴いてもいい! Zepp Nambaも大阪球場も興奮のるつぼ。私の前後左右の皆さん、サイリウムをプロペラのようにぶん回しながら一緒に歌っている。「ブーツをぬいで朝食を」でヒデキがダンサーの方とエロチックな絡みを見せたとき、ギエエエエという悲鳴が響くのもナイス臨場感。
私の一番の萌えポイントは、「ブーメランストリート」を歌い終わったあと、急にアドレナリンが噴出し、地団太を踏むようなハイテンション・ツーステップで魅せるヒデキだ!
そして彼は、散々しゃがんだり回ったりした挙句、手に粉をつけ、命綱なしで空中ブランコをつかみ舞い上がり、ステージまで戻っていった……。
数々のミラクルパフォーマンスに、見ているこちらも心のネジが外れる。その後、「ホップ・ステップ・ジャンプ」「セイリング」など、最後まで大合唱になったことは言うまでもない。
ヒデキについていけないカメラワークもまた味
「BIG GAME」で驚くのが、ヒデキの走りっぷりである。イントロや間奏のあいだ球場を走り回り、もうすぐ歌が始まるギリギリで、スライディングをかましステージに戻りマイクを取りセーフ、というイチローばりのテクニックでも魅せてくれる。
当時は有線マイクなので、ヒデキが歌いながらガーッと移動するとヒヤヒヤするが、スタッフが別のマイクを用意しササッと渡すという神連携も拝める。
たまにヒデキの大暴れについていけず、カメラワークがオロオロするのもまた趣深い。ヒデキを見失い誰もいないところを映す、階段が意味もなく映る、ヒデキが乗ったゴンドラの半透明の底部分が延々映し出され、そこに映るヒデキの足の裏をしばらく愛でることになるなどなど。これも会場がいかにエキサイティングであったかの証!
我が推しながら怖くなる体力
さて、休憩を挟み、2本目のフィルムは1年さかのぼり、1978年8月26日に開催された「BIG GAME'78 HIDEKI」大阪球場公演だ。そして私は、「元気があれば何でもできる」というアントニオ猪木氏の名言を、ヒデキによって「ホンマや……」と確信することに!
登場からパワー全開、「フール・フォー・ザ・シティ」「朝日のあたる家」といった洋楽リスト、ザ・コンテナダンサーズとの移動ディスコも超全力。 そして特筆すべきは、興奮と恐怖のゴンドラタイム。クレーンが、ヒデキを乗せたゴンドラを高々と漆黒の空へ吊り上げていく――。
ゴンドラといっても要はちっちゃいちっちゃいカゴである。想像してほしい。ユラユラ空で揺れる小さいカゴの中で、『ジャガー』から『傷だらけのローラ』というヒット曲を歌い、ハイになったヒデキを(震)。身を乗り出し手を振る(カゴ傾く)。ゴンドラの縁に片脚を上げて歌う(カゴ傾く)。上半身を縁から出しブラーンと倒す(カゴむっちゃ傾く)! 同乗しているスタッフも怖いだろうに、必死で手を伸ばし、ヒデキのベルトを引っ掴む姿が健気で泣けた。
地上に降りてからも、球場を全速力で走り歌い、勢い余り応援席のフェンスをドドドドッとよじ上っていったときは、我が推しながら恐ろしさすら感じた。
しかも、どんな場所でも、どれだけ酸欠ヘトヘトの状態でも、歌声にブレなし・パーフェクトというミラクル。腹式呼吸どうなってるのヒデキーッ!
今、私が見ているのは、音楽の神が降臨している瞬間なのかもしれない!
ラストの予定だった78年の「BIG GAME」大阪球場公演
「見に来てくれた君たちに命をあげるよ!」と言わんばかりに、1曲入魂。
「両手を上げ、隣の人と手をつないでください。一緒に歌おう」
「セイリング」の合唱で、両手を上げる。心でファンの人たちとハンドインハンド。
ああ、私は過去と未来が一緒になる瞬間にいる。
1ミリでも近くファンのもとに駆け寄ろうとする姿に覚悟を感じた1978年の「BIG GAME」大阪球場公演。
それもそのはず、実はこの年から後楽園球場が使用可能になり、かわりに、1974年から5年間開催された大阪球場コンサートは、この年で終了する予定だったのだ。そのため、副題も「バイ・バイ・パーティ大阪球場」という悲しすぎるものだった……。
MCでヒデキは、「来年もやりたい」と言い、なんとしゃがみ込み、膝を抱え子どものように泣き出したのである。
「こんなにみんなが応援してくれ……うわーん!」
やだ泣かないで~(泣)。大丈夫よヒデキ、ファンの熱意で、その後も大阪球場でのコンサートが続くから! 届かん声と分かりつつ、画面に向かい大丈夫ダイジョウブ、ドントクラーイなどと叫びながらサイリウムをオロオロと振るしかなかった。
本当にこの人は、歌が、ファンが好きなのだ――。
「あなたとぼくのカーニバル」
「さようならー!」
終演、ちぎれるような勢いで、何度も何度も客席に手を振る彼は、大好きな人の背中をずっと見送る、子どものようだった。
こんなに全力で瞬間を生きる姿を見せられたことはない。きっと彼は楽屋でぶっ倒れている。「自分を愛してくれる人を喜ばせたい」。そのたぎる思いが、限界まで彼を走らせ、歌を届けさせたのだ。MCで、彼が「BIG GAME」というコンサートを、こんな言葉で喩えていたことを思い出す。
「あなたとぼくのカーニバル」
あんなに広い野外コンサートでも、彼は「みんな」ではなく、「あなた」一人一人と祭りをしていたのだ。
会場に明かりがつき、Zepp Nambaが2024年に戻る。
サイリウムの青が、ぼんやりと滲んで見えて仕方なかったのは、老眼のせいだけではないはずだ。
ありがとう、いい夏をありがとう――!
田中 稲(たなか いね)
大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/
文=田中 稲
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