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ジャンプ作品なのに表紙が“花一輪”。担当が「編集部に衝撃が走った」と語る、マンガ『夏の終点』作者の素顔は?

CREA WEB / 2024年10月26日 11時0分


『夏の終点』西尾拓也(集英社)上下巻 710~773円。

「少年ジャンプ+」で昨年11月から連載開始し、全16話(単行本上下巻)で完結したマンガ『夏の終点』。いわゆる“ジャンプ”らしくない静謐な画風と繊細なストーリーで読者の心を掴んだ。

 作者の西尾拓也さんは現在22歳。担当編集者同席のもと、創作の原点を聞いた。

〈あらすじ〉

美化委員の夏川さんは、気づけば同級生の相原くんのことを目で追っている。そんなある日、休みの日に相原くんが女の人と歩いているところを目撃して……。


画風が違えど「ジャンプ」を目指すのは当然だった


「少年ジャンプ+」で第1話、第2話を無料公開中。©西尾拓也/集英社

——最初に本作を読んだとき、非常に静謐なタッチでありつつ情感あふれる物語世界に引きこまれました。同時にこうした作品が「少年ジャンプ+」で連載されていることにも驚いたのですが……。デビューも「少年ジャンプ+」ですよね。

西尾 はい。19歳のとき、「少年ジャンプ+」新人賞の「アナログ部門賞」で入選した『少女と毒蜘蛛』がデビュー作です。

——小さい頃からマンガ家を目指していたのでしょうか。

西尾 小学生の頃はジャンプっ子でしたね。物心ついたときからマンガを描いていたと思います。

——どんな感じのマンガを?

西尾 『トリコ』(島袋光年)とかを真似たようなマンガですね。中学生、高校生になるとマンガ家の夢はいつのまにか薄れていて。読むのは好きでしたが、それほど熱心ではなくなっていました。ただ、絵を描くことは好きで。親が美大を勧めてくれて、予備校で絵の勉強をしていました。

——再びマンガを描くに至ったきっかけは?​

西尾 浪人して美大受験の準備をするはずが、コロナ禍で予備校に行けなくなっちゃったんです。ずっと家にいて何をしたらいいのかなと思っていたとき、そういえば昔マンガ家になりたかったなと思い出して。

——この作風はどのように確立されたのでしょうか。

西尾 マンガ家で一番大きい影響を受けているのは池辺葵先生です。初めて『繕い裁つ人』の第1話を読んだとき、「マンガってこんなにすごいんだ」とびっくりしたんです。話の奥深くまで100%理解できたわけでもないと思うけど、それでもこんなに心に残るのがすごいなと思いました。

——池辺葵先生の影響とは、納得です! 最初に『夏の終点』を読んだときは林静一先生の影響があるのかなと思ったのですが。

西尾 絵柄の面でいえば、林静一先生の影響もあるかもしれません。冨樫義博先生の絵も大好きですね。特に、『幽☆遊☆白書』の最後の方とか……。


2009年~2014年まで連載していた池辺葵『繕い裁つ人』(講談社)全6巻。2015年に中谷美紀主演により実写映画化された。

——それにしても、このあまりにも端正な作品を「少年ジャンプ+」に投稿するのに迷いはなかったんですか?

西尾 若かったから……いや、今も若いんですけど(笑)。そのときは「ジャンプ」って一番注目度が高い雑誌だから、そこを目指すのは当然だと思っていたので。おもしろければなんでもいいんじゃないかと。

——「少年ジャンプ+」は本誌に比べるとかなり幅が広いですが、その中でも西尾作品はかなり異色なのでは。デビュー後、苦労したことはありましたか?

西尾 いくつか読み切りが「少年ジャンプ+」に掲載されて読者の感想をもらってみたら、思ったより伝わらなかったことがあって。

——ご自身の意図とは違って受け止められるとか? あるいは「意味がわからない」とか?

西尾 別の解釈をされるのは全然かまわないんです。ただ「意味がわからない」と言われてしまうのは困ったなぁと。もっとわかりやすく描いた方がいいのかと考えたりもしましたね。でも、結局、わかりやすくはしてないんですけど……。

 でも、最終的には「よくわからなくても心に残る」とか、「読んでいるときの感覚に浸っていたい心地よさ」を大事にしたいです。マンガに限らず創作物では、「受け手に想像させる」っていうのが一番豊かなんじゃないかなと思って。

担当編集への「ドッキリ」で始まった連載


『夏の終点』西尾拓也(集英社)©西尾拓也/集英社

——読み切り作品を経て、初の連載作『夏の終点』を立ち上げた経緯は?

西尾 読み切りのネームの打ち合わせに、いきなり『夏の終点』の第1話のネームを持っていったんです。ドッキリを仕掛けるみたいに。

——そのネームを受け取って、編集者としてはどう思いましたか?

同席中の「少年ジャンプ+」担当編集(以下、担当編集) すごく面白いと思いましたがまだ読み切りの経験も浅く、いま連載会議に出しても通らないかもしれないと不安でしたね……。

——だそうですが……。西尾先生としては、ストーリーはどのような着想から? 学生生活の思い出が反映されているのでしょうか。

西尾 いや、こんな学生生活は過ごしてないです(笑)。おとなしい女の子が静かに恋する物語は、憧れというか理想みたいな。


©西尾拓也/集英社

——自分の好きな世界を描いたという感じでしょうか。

西尾 描きたい風景が先行することもあります。そもそも、夏が描きたかったからできた作品ですね。夏の雲とかが描きたくて、そこからイメージが広がっていったと思います。

——夏が好き?

西尾 暑いのは全然好きじゃないけど、夏の持つノスタルジックな感じが好きです。

 はじめから結末をどうするかは決まっていました。最終回を描きたかった。それがあっての話です。

——それまでの読み切りと比較して、明確に「恋愛」が前に出た作品ですね。

西尾 連載会議を通すには、恋愛くらいしかないかなと思って(笑)。話自体は自分でもふつうだと思います。マンガって、話はふつうでいいんじゃないか、大事なのは見せ方だという考えがあります。

「編集部に衝撃が走った」表紙について


花一輪だけが描かれた『夏の終点』表紙。©西尾拓也/集英社

——『夏の終点』は、この花だけの表紙にも驚きました。表紙は西尾先生のご提案だったんですか?

西尾 そうですね。花が描きたかったというか、人を描きたくなかった。少しは「変なことしてやろう」みたいな気持ちもあったと思いますけど。キャラじゃなく風景とかを描いて読者の想像力をかきたてるみたいなことをしたかったんです。

——それで、花になったんですね。編集部の反応は?

担当編集 編集部では衝撃が走りました。その月に発売のコミックスが編集長の机の上に並ぶのですけど、一冊だけ小説がまぎれこんだみたいに異彩を放っていて。

——今は小説でも人物がいないカバー絵は珍しいのでは?

担当編集 「上巻は譲るけど、下巻は人を描いてもらうからね」と約束したんですが、結局下巻もお花の絵が先生から上がってきて。でもとても素敵だったので、下巻もそろえて花でいこうと話しました。

西尾 そうでしたっけ? でも、単行本のデザイナーさんも「お花、いいですね」と言ってくれたんですよ。

目だけで恋心が伝わるように描いたシーン


第1話「夏」より ©西尾拓也/集英社

——『夏の終点』で、特に気に入っているシーンは?

西尾 1話目最初の4ページくらい、すごく気合が入ってます。夏川さんの表情は何回も描き直しました。目だけで恋心がわかるようにしたいと思って。電車の中もはじめはもっと描きこんでいましたが、違うなと思って描き直したり。


第1話「夏」より ©西尾拓也/集英社

——モノローグはないけれど、感情が十分伝わってきます。

西尾 こういう表情の描き方は池辺葵先生の影響が大きいですね。あと、気に入ってるのは……場面転換で、夏川さんの友達がいきなり夏の雲とともに登場するところ。これ、うまいですよね、オレ(笑)。


第2話「自意識」より ©西尾拓也/集英社

——描きこみの多い背景があるかと思えば大胆に余白があったり。人物に寄った画面からロングになったり。画面の演出に、心が揺さぶられます。

西尾 場面転換でちょっとびっくりしてもらいたいという意図はありますね。

——これから描いてみたい作品の構想は?

西尾 描きたいものはコロコロ変わるんですけど、今は教会とか聖堂を描いてみたいです。シスターの禁じられた恋とか……。

——描きたい情景からイメージをふくらませていくんですね。今、マンガ以外で興味のあることは?

西尾 最近レトロなフィルムカメラを買ったので、それで写真を撮ってみたいなと思ってます。

——作品を描く上で大事にしたいことを教えてください。

西尾 説明的にならないことでしょうか。セリフもできる限り「削る」というよりは……そっと伝わるように。絵的なものもそれ以外の表現にしても引き算を心がけて、読み手の想像力を働かせるように描きたいです。それで、人の心に残るものを作れたらいいなと思います。

文=粟生こずえ

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