深キョン以来? 40代ラブコメヒロインのニューホープ・松本若菜(40)の俳優人生〈悪女役では衝撃のアドリブ続出〉
CREA WEB / 2024年10月17日 18時0分
「西園寺さんは家事をしない」(TBS)にて、一躍ブレイクを果たした松本若菜さん。10月17日放送開始のドラマ「わたしの宝物」(フジテレビ)でも主演を務める松本若菜さんのキャリアと魅力とは。(前後編の前編/後編を読む)
40代でラブコメの主役を張れるのは、深キョンだけ! そう思っていました。
TBSの火10ドラマ枠をみれば一目瞭然。年齢でみれば過去に同枠では松たか子や小泉今日子も主演しているものの、作品のテイストはどれも王道のラブコメではありません。ラブコメを主な原動力とする同枠で、真っ当なラブコメを成立させ、おかわりの最多主演を誇るのは深田恭子です。まさに一強でした。その独壇場にすっと入ってきたニューホープが、松本若菜なのです。
「朝ドラヒロインやってました?」
プライムタイム初主演作「西園寺さんは家事をしない」では、人一倍仕事はできるが家事はいっさいしない主人公・西園寺一妃を好演。その自然な演技に驚愕しました。
あれ? 朝ドラヒロイン経験してましたっけ? 活発で元気よく動き回り、ドタバタができ、自己主張が強く、自分の回りの世界をがしがしと変えていく力を持つ主人公って、もう朝ドラヒロインなんよ!
とはいっても、朝ドラでそれが成立するのはヒロインの少女時代も描かれているから。そこから人はどんどん成長していくものですが、西園寺さん、アラフォー設定でそれができるのはもう無敵。朝ドラヒロイン同様、応援したくなる主人公でした。
もちろん原作が漫画ということもあり、リアルというより、漫画から出てきたようなキャラクターの役ではありました。しかし、キャラの強さだけで乗り切っているわけではなく、ちゃんと地に足がついた生活者の側面もうかがえる。実写化に際して役が浮いて見えなかったのは、ひとえに、演じる俳優・松本若菜の演技力のたまものだったと思います。
西園寺はアプリ制作会社「レスQ」のプロダクトマネージャーとしてバリバリ働く独身女性。仕事ができる上に明るくポジティブでコミュ力高め。面倒見もよく、上司や先輩・後輩・取引先からも信頼が厚いと完璧。誰かにとって目の上のたんこぶになることなくみんなから好かれていて、仕事に対して根性がありそうな部分もなぜか松本若菜が演じると説得力がある。
パワフルで明るくて前向きで、見ていて気持ちがよかったことも視聴意欲をかき立てました。そして大事なことですが、火10ドラマのヒロインとして恋愛をしていても、違和感がまったくなかった。むしろ、もっとこれから松本若菜のラブコメを見たいと思わせてくれました。
俳優は年齢が上がるにつれて恋愛作品の主演から遠のきます。それは世間のステレオタイプなライフステージに合わせて役がつくられるから。40代なら結婚して子どももいるのが当たり前という前提でドラマがつくられすぎているのです。そうなると、40代なら良妻賢母(!)役をあてがわれることが多くなります。
でも、人生にいろんな選択肢がある時代、いろんな年代の人のいろんな恋愛作品が世の中にあってもいい。各年代でそれを演じられる俳優が増えれば、世に出る作品のバリエーションも増えるのではないかという期待が高まります。火10枠は本当にいい俳優を抜擢してくれました!
転機となった「やんごとなき一族」の“松本劇場”
「仮面ライダー電王」でのデビュー以来、「コウノドリ」「麒麟がくる」などこれまで多くの作品に出演し、実力を発揮してきた俳優である松本若菜。2017年の映画『愚行録』での演技が評価され、第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞するなど、その演技力は折り紙つきではありますが、世間の注目を集めたのはなんといっても「やんごとなき一族」で演じた、主人公・佐都(土屋太鳳)の前に立ちはだかる気丈な義姉・美保子役でしょう。
次期女主人の立場になった佐都のことを目の敵にしていて、義父と結託して佐都を家から追い出そうとするヒール役です。絢爛豪華でありながら魑魅魍魎うごめく一族の一員ですが、実は出自が複雑で、由緒正しい家柄ではなく愛人の娘だったというバックボーンが。成り上がりの向上心が根底にありつつ、同じく上流階級の世界にやってきた主人公を追い込む、一筋縄ではいかない役でした。
その役ができたのも、ずっと陰になり日向になり地道に俳優の仕事をこなしてきたから。主演を支えるバイプレイヤーとしての力は十分でありながら、いきなりスポットライトを当てられてもしっかりと輝くことができるのです。それが証明されたのが本作でした。
特に“松本劇場”とよばれた怪演は視聴者の目に留まるものでした。悪女キャラクターを最大化させるだけでなく、ユニークな表情やコミカルな動き、替え歌などを繰り出し、クセ強キャラをつくり上げたのです。まさに自己の優位性を態度や言葉で主張して上下関係の格付けをしあう“マウンティング合戦”が見ものだった沢尻エリカ主演「ファーストクラス」に出演していても違和感がなかったであろう、堂々たる立ち居振る舞い。気品あふれる佇まいがベースにあるからこそ光る演技でした。
注目を集めた「ドブネズミ チューチュー」や「いっちゃってる!」というワードはアドリブだったとか。ある種演劇的でもあるアドリブを、あの狂気的な役の中で繰り出せたのはこれまでの土台があったから。美保子という役をよりオーバーにしあげ、スポットライトを浴びるキャラクターへと昇華できたのは、もともとお笑い好きであるという素質も関係がありそうです。振り切った演技はコント的で、その瞬発力を見るとNHKのオムニバスコント「LIFE!」に出演して活躍する画がすぐに浮かびます。
【続きを読む】「とにかくオファーが途切れない」悪女→お堅い役人→クールな刑事…『西園寺さん』松本若菜の“俳優遍歴”
文=綿貫大介
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