「とにかくオファーが途切れない」悪女→お堅い役人→クールな刑事…『西園寺さん』松本若菜の“俳優遍歴”
CREA WEB / 2024年10月17日 18時0分
「西園寺さんは家事をしない」(TBS)にて、一躍ブレイクを果たした松本若菜さん。10月17日放送開始のドラマ「わたしの宝物」(フジテレビ)でも主演を務める松本若菜さんのキャリアと魅力とは。(前後編の後編/前編を読む)
「とにかくオファーが途切れない」意外過ぎる“俳優遍歴”
「やんごとなき一族」の美保子の役はまさに「昼ドラ」的演技。過激に振り切っていたので視聴者を強く惹きつけましたが、一度そういう役を経験すると、その後も同様の役回りを期待されてしまうため、似たような役が続きがちです。しかし、その後に出演したドラマでは、美保子の印象を完全に払拭するかのような、正反対の役ばかりでした。そのギャップによって、視聴者は役者としての振り幅を知ることになります。
「ファーストペンギン!」では髪の毛をピチッと整えた農林水産省の職員・静役。落ち着いた声音で淡々と話をするポーカーフェイスの女性で、一見とっつきにくい印象を抱かせつつも、男社会の“漁業の世界”で孤軍奮闘する主人公・和佳(奈緒)に共感し、陰ながら後押しする重要な役でした。
「夕暮れに、手をつなぐ」では、レコード会社で新人の発掘から、教育、デビューに至るまでの面倒を見るA&R部門の仕事をする磯部真紀子(通称「イソベマキ」)を好演。こちらは豪快で猪突猛進、自己中心的な部分もあるキャラの強い役で、西園寺さん役に通ずる部分が。「西園寺さん〜」と同じ火10ドラマ枠ということもあり、適性を見られていたのかもしれません。
月9「ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜」では神奈川県警・刑事部捜査一課の主任警部補・狩宮カレン役。キャリアアップのためなら手段を選ばない剛腕さも見せつつ、最終的に自分の信念のために行動するクールな刑事でした。
そして2クール連続の同枠出演を果たした「君が心をくれたから」では、あの世からやってきた案内人、千秋というミステリアスな役に挑戦。実は主人公の亡くなった母であるという難しい役どころでした。
まず“ここまでオファーが途切れない”という事実からしてすごいのですが、どれも彼女を一躍有名にした“松本劇場”を感じさせない、たしかな演技力が光る存在感のある役ばかり。誇張した「動」の演技で物語を盛り上げることも大事ですが、抑えた「静」の演技ができることも役者としては重要だということを改めて思い知らされました。
実は「やんごとなき一族」でのブレイク前は、「麒麟がくる」で演じた於大の方のように、品の良さが際立つ「静」の演技に定評がある俳優だった彼女。悪目立ちせずに作品に溶け込むような「静」の芝居でも埋もれることがなく、人々を惹きつける役者としての底力を、美保子役の以後もいろんな作品で見せつけてくれたのです。
また、密着を受けた「情熱大陸」では「“遅咲き”って最近よく言って頂けるんですけど…私、咲けてます?」と謙虚に笑う姿が印象的でした。いるだけで現場が明るくなり、カラッとしながらもさりげなく気遣いをする様にも、業界人がオファーしたくなる理由を垣間見たような気がします。
同番組ではこれまでの苦労も語られていましたが、遅咲きなんてことは決してありません。凛としたままずっと咲き続けていた花が、やっと世間に“バレた”だけのことなのです。
フジテレビ系初主演は然るべき帰還
「西園寺さんは家事をしない」に続き、2クール連続で主演に挑む作品が木曜劇場「わたしの宝物」。ブレイクのきっかけとなった「やんごとなき一族」も同枠だったので、錦を衣て郷に還る形となりました。
本作は、夫以外の男性との子どもを、夫との子と偽って産んで育てる「托卵(たくらん)」を題材にした物語。作品のテイスト的に、きっと西園寺さんのときに私たちを釘付けにしていた大立ち回りとは180度違う演技が要求されます。
番組宣伝ではセンセーショナルさを強調して“タブーを描く”“悪女役”という宣伝文句が使われていますが、「昼顔」「あなたがしてくれなくても」の系譜を受け継ぐ作品であるならば、わかりやすい破壊力抜群の悪女の物語ではなく、主人公の感情を繊細なタッチで描く作品であることは間違いありません。
松本演じる主人公の神崎美羽は、大企業でバリバリ働き、妊活のために仕事を辞めて家庭に入った女性。理想的な夫婦と周りには見えているけれど、お互いが抱えているストレスや日常の不満で家庭内ですれ違っていく役どころです。そこからの展開は単純なラブストーリー軸ではなく、身近に潜む人間の業や欲といったものを感じさせるものになっていくことでしょう。
ただキラキラとしていればいいのではなく、悲哀や内なる感情を豊かに表現することが求められる役だと思います。しかしこれまでの作品で魅せてくれた、深読みしてしまうミステリアスさと、目を離せない表情、静の演技の存在感を考えれば、まさに適役。大人の恋愛作品に定評のある同枠での主演抜擢も納得です。然るべき帰還をして挑むフジテレビ系初主演作、大いに期待しています!
綿貫大介
編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
Instagram @watanukinow
X(旧twitter) @watanukinow
文=綿貫大介
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