是枝監督も絶賛! 中国映画界をけん引するチョウ・ドンユイの真摯な役作り
CREA WEB / 2024年10月22日 11時0分
偶然出会った男女3人の心情の変化を、繊細な映像美と抒情的音楽で綴った『国境ナイトクルージング』で、ヒロイン・ナナを演じるチョウ・ドンユイ。『ボーン・トゥ・フライ』ではワン・イーボーと共演、『少年の君』での真に迫る熱演も記憶に新しい彼女が真摯な役作りや撮影時のエピソードについて語った。
役作りのために、バスツアーにも参加
――本作への出演を決めた理由は?
アンソニー・チェン監督とは以前、ショートフィルム『The Break Away(隔愛)』(21年)で仕事をしていました。ただ、そのときはコロナ禍ということもあり、オンラインでチェン監督の演出を受けながら、iPadを使って撮影するという実験的な手法だったんです。「今度は監督と一緒の現場で仕事をしたい」と思っていたので、本作への出演を決めました。
また、異なる境遇の3人の若者が集い、さまざまな経験をする物語にも惹かれました。「映画を観てくれる人の国籍は違っても、多くの人に共感してもらえる作品になるはず」と思ったんです。
――中国と北朝鮮との国境の都市・延吉(えんきつ)で観光ガイドとして働いているナナの役作りについて教えてください。
撮影前に、私は自ら観光ツアーに申し込み、バスガイドさんの仕事を研究しました。「彼女たちはどういった気持ちで、どういった風にお客さんに接しているんだろう」と。
それで、気がついたことがいくつかありました。例えば、お客さんだけでなく、運転手さんにもかなり気を遣っていること。あと、誰とでもすぐに親しくなれる能力に長けていること。そして、朝鮮語の勉強もしたのですが、正直とても難しくて、なかなか自信が持てませんでした。
――また、ナナは挫折した元フィギュアスケーターという設定でもあります。
これはナナに限らず、私の役作りなのですが、役柄に入り込むために「私は、この人物だ」と、強く思い込むようにしています。それに加えて、普段の暮らしの中で経験したことや感じたことを反映したり、周囲の女性を観察したりもします。そうやって試行錯誤していきながら、その役を作っていきます。
今回は元フィギュアスケーターというよりも、夢に破れて挫折した女性ということを中心に考えて、ナナを作っていきました。
アートを徹底的に追求している監督に共感
――極寒の延吉での撮影時の思い出やエピソードは?
撮影エピソードは語り切れないぐらい、たくさんありました。私はもちろん、ハオフォン役のリウ・ハオランさんも、シャオ役のチュー・チューシアオさんも食いしん坊なんです。だから、延吉地方の名産や名物料理をたくさん食べました。延吉は、新鮮な海鮮が名物なんです。
また、雪が降っている日は、空に向かってコップに入れた熱いお湯をかけるという、遊びをよくしていました。一瞬のうちに、氷になってしまうのが綺麗で楽しいんですよ。劇中にも映っていますが、広場で踊っている人たちに混ざって踊ったりもしました。あまりに寒いと、なかなか動きたくなくなると思うのですが、オフのときも私たちはあえて積極的に外出するようにしていました。
――完成した作品を観たときの感想や好きなシーンは?
長白山などの延吉の美しい景色や美味しい海鮮グルメのこと、そして、寒くて寒くてたまりませんでしたが、楽しかった撮影が鮮明に甦りました。この映画を観たお客さんには「是非、延吉地区に観光に行ってほしい」と思います。
ネタバレになってしまうので、多くは語りませんが、いちばん好きなのはエンディングです。とても静かなシーンですが、ナナが自分なりの結論を出していて、彼女の強い意思を感じられるシーンになりました。アートを徹底的に追求しているチェン監督の独特なスタイルはとても共感できますし、個人的にも大好きです。
――ちなみに、本作を観た是枝裕和監督が「本当に大好きな作品」というコメントを残しています。
北京でのプレミア上映のときに、是枝監督からのビデオメッセージを観たのですが、そのときの気持ちを表現するならば「表面冷静、内面狂気」。ステージ上では冷静を装っていましたが、そのような高い評価をいただき大変嬉しい気持ちでいっぱいでした。
是枝監督の作品はすべて観ていますが、本当に芳醇なワインのようなものだと思っています。繰り返し観ることで、いろんな楽しみ方をしているのですが、いちばん観返しているのは『海街diary』と『万引き家族』の2作。いつか、是枝監督の作品に出演することができれば光栄です。
年下なのに、とても紳士的なワン・イーボー
――ほかに、お好きな日本映画や日本人監督がいれば教えてください。
黒澤 明監督はもっとも偉大な監督の一人だと思います、『影武者』『乱』『夢』『羅生門』など、好きな作品ばかりです。また、『Love Letter』の岩井俊二監督も好きです。日本映画が持つ、独特な表現やスタイルがとても好きなんです。
――『ソウルメイト/七月と安生』や『少年の君』で組んだデレク・ツァン監督との3度目のコラボも期待したいところです。
私にとって、ツァン監督は映画監督である以外に、お兄さんだったり、友だちだったり、あるいは先生、お父さんのような存在なんです。
一緒に仕事をしていて、何も言わなくても、「監督は今、何を求めているのか?」ということが分かるぐらい、お互い通じ合っていると思います。だから、いつかまた一緒に作品作りができれば嬉しいです。
――今夏に日本公開された『ボーン・トゥ・フライ』で共演されたワン・イーボーさんの印象は?
イーボーさんとは映画で共演した以外も、イベントで一緒に歌ったり、何度かお仕事しているのですが、いつも思うことは、とても謙虚で、真面目で、礼儀正しい。私より5歳ぐらい年下だと思うのですが、本当にとても紳士的な方なんです。また、何かしらのかたちで、ご一緒できたら嬉しいです。
三十代になって控えた、大好きな火鍋
――そんなドンユイさんの美容の秘訣は?
いま私は32歳です。二十代の頃は、大好きな四川省・重慶の火鍋を1日3食食べていました。三十代になって「こんなに辛いものを食べていいのかしら?」と思うようになり、意識的に回数や量を減らしました。その代わり、タンパク質の多いものを心掛けて摂るようにしています。日本食を食べる機会も増えましたね。
――最後に、女優としてスタンスを教えてください。
100人の役者が「ハムレット」を演じれば、100通りの「ハムレット」があるように、観客の反応に関しても、個人の好みもあったりするので、それぞれだと思うんです。私はそれを謙虚に受け止め、今後の演技に生かしていければいいと思っています。そして、どのような役であれ、一生懸命演じること。これが私の役者としてのスタンスになっています。
チョウ・ドンユイ(周冬雨)
1992年1月31日生まれ。中国・河北省出身。チャン・イーモウ監督の『サンザシの樹の下で』(11年)で7,000人のオーディションから主演に抜擢され、一躍スターダムに。中国で「13億人の妹」と呼ばれる。その後、デレク・ツァン監督作『ソウルメイト/七月と安生』(16年)で第23回香港電影評論学会大奨最優秀主演女優賞、第53回金馬奨最優秀主演女優賞を受賞。同じくツァン監督作でアカデミー賞候補になった『少年の君』(21年)では、第33回金鶏奨、第39回香港電影金像奨、第35回大衆電影百花賞で主演女優賞を受賞した。
文=くれい 響
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