「ほぼサウナじゃん!」奈良時代にはすでに洞窟で蒸気浴も…日本人が世界で1番“清潔好き”になった理由
CREA WEB / 2024年11月18日 11時0分
入浴という行為が、悪の象徴だった国々と時代があった。「古代ローマ」から「風呂キャンセル」まで、美容の視点から、人類の清潔と不潔の歴史を読み解く。
分水嶺はズバリ宗教。“自らを浄めるべき”が、仏教の教え
西洋の入浴悪がキリスト教の教えに由来するなら、仏教は全く逆、“汚れを落とし自らを浄めよ”と説く。これぞ東西で清潔不潔を完全に分けた決定的な理由。
とりわけ自然物を神として敬う日本古来の神道は、川や滝や海で体を浄める「禊」という水浴を罪や穢れなどの不浄を取り除く行為としたが、それこそが日本の風呂の起源と考えていい。
ただ約6000年前の縄文時代、湧き出た泉(たぶん温泉)で沐浴していた遺跡も見つかっている。約1万年も続いた縄文時代は争い事もない幸せな社会だったと言うが、入浴習慣が幸せに寄与していたのは確か。
贅沢ローマ風呂は日本の弥生時代に当たるが、どちらにせよ日本とローマ帝国こそ清潔好きを古代から競った国。日本は堂々たる清潔大国なのである。
奈良時代にはすでに洞窟風呂で蒸気浴も
日本の“浴場”の始まりは、奈良時代に見る洞窟風呂。湯に浸かるのではなく蒸気浴で、岩山の穴の中で青葉や枯木をたき、海水などを含ませたムシロの上で蒸気を浴びつつ汗を流した。まさにサウナ。
薬草蒸しの岩盤浴といってもよく、それってあまりに今時すぎない? ときっと驚くはず。体の浄化のみならず健康法でもあったようだ。
ただ、湯を沸かす入浴様式は6世紀に仏教に伴って伝来、まさに“業”を洗い流す入浴は「七病を除き、七福を得る」との教えから、多くの寺院に浴堂ができ、“施浴”として近所の民や旅人にも開放され、利他の役割も担ったのだ。近代の銭湯がお寺風の建物だったのも、実はこの時代の名残なのである。
「湯屋」は江戸の健康ランド! しかし風紀上の問題も…
やがて鎌倉、室町と時代が進むにつれ、金持ちは自宅に風呂を持ち、町には銭湯が生まれ、江戸時代になると現在の銭湯に近い「湯屋」が増えていくが、それでもまだ半分は蒸し風呂。つまり下半身だけ湯に浸し、上半身を蒸気で蒸す“戸棚風呂”というスタイルが主流だった。
蒸気で浮いた垢を洗い場で洗い落とすこの入浴スタイルは、燃料や水不足を補う智恵。のちに“据え風呂”に“鉄砲風呂”、“五右衛門風呂”と様々な様式の風呂が生まれたのも、日本人の発想の豊かさと手先の器用さがもたらした多彩な風呂文化と言える。
江戸中期には二階に娯楽場のある健康ランド的湯屋が朝から晩まで営業。湯屋の奥には、ちょっと死角になった薄暗い“ざくろ口式湯屋”があり、当時はまだ混浴、やはり風紀上の乱れがあったことから、明治時代には廃止になったが、そんなところまで古代ローマ風呂そっくり。それってやっぱり風呂が辿る宿命なのだろうか。
平安時代の洗髪は年数回…今、それが見直されるワケ
さて、気になるのは昔のシャンプー。それこそほとんどの時代、日本女性の髪は長かったわけで、古代は穀物を粉状にし、櫛でとかしつけるだけだった。水で洗う習慣は飛鳥時代からで、米の研ぎ汁や灰汁で洗い、香油をつけたのは平安時代。とは言え、それも年に数回程度だったとか。
信じ難しと思いきや、実は今、髪の洗いすぎが問題となり、湯で洗い流すのみの湯シャンが復活の兆し。キューティクルはオイルで整えるというまさに平安時代のお垂髪式シャンプーが注目なのだ。毎日の体洗いもダブル洗顔も洗いすぎを見直す方向にあるということ。
そう、日本が積み上げてきた入浴善に基づく清潔至上主義は、本当に正しかったのだろうかと、昨今小さな疑念が生まれてもいる。かすかな匂いにも敏感に反応する日本人の神経質な嗅覚は“スメルハラスメント”という新しいストレスを生み、毎日風呂に入らなければという脅迫観念が今や“風呂キャンセル”という新しい憂鬱を生んでいる。花粉症などのアレルギーも過度な清潔文化が産んだものという見方すらある。
不潔は御免だが清潔すぎるのも人間を弱くすることの証。ましてや他人が触るボールペンにも触れない清潔症候群の人が21世紀以降増えてきたのも、社会的な問題と言えそう。清潔好きが過ぎれば、相手を不潔な存在とみなし、対人関係をも脅かす。
人間、不潔では滅多に死なないと中世ヨーロッパは証明した。ムキになって洗いすぎる脅迫観念だけはもう捨てよう。健全な社会と力強い綺麗を手に入れるため!
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齋藤 薫 (さいとう かおる)
女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストに。女性誌で多数のエッセイ連載を持つほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。CREAには1989年の創刊以来、常に寄稿している
文=齋藤 薫(美容ジャーナリスト)
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