「濡れ場と食事シーンは描き方が近い。だけど……」人気拡大中のBLマンガ家が“しない”と決めた表情の描き方
CREA WEB / 2024年11月24日 11時0分
『きのう何食べた?』『作りたい女と食べたい女』など、「食」を中心に多様な人間関係を描いたマンガ作品が人気を集めている。今夏、山崎まさよし主演でドラマ化されたグルメ×BLマンガ『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』(ぶんか社)も、そんな作品のひとつだ。
料理研究家の三ツ矢歩と新米編集者の石田友也が「料理を作って食べさせる/食べる」ことを通して、互いを理解し関係を深めてゆく様を、繊細かつリアルな人間描写で鮮やかに描いた本作は「食」と「ヒューマンドラマ」の親和性の高さを、あらためて実感させてくれる。
作者の松本あやか先生は、もともとグルメ漫画を主戦場としていたが、本作で初めてBLマンガを描き、現在はBLスクリーモで『やたらやらしい深見くん』を好評連載中。「食」を描くことと「BL」を描くことに共通点はあったのだろうか? 北海道を拠点に活動する松本先生にリモートで話を聞いた。
「人間の本能に触れてるみたいでゾクゾクするわ」
『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』あらすじ
若手編集者の石田友也は、慣れない女性誌で一時的に料理研究家・三ツ矢歩の連載を担当することになる。三ツ矢は同性愛者を公言しており、京都弁でひょうひょうとしたキャラクターが人気のタレント。緊張する友也だったが、原稿を受け取りに行くたびに振る舞われる三ツ矢の料理にすっかり胃袋と心を掴まれてしまう。石田の先生への気持ちは果たして「人として好き」なのか「恋」なのか……?
――『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』はどのように始まったのでしょう?
ぶんか社の「マンガよもんが」という配信サービスでライトなBL作品を書いてみないかと声を掛けてもらったんです。「ライトBL」という括りさえあれば、好きなものを書いていいよと言われて、だったら自分がずっと描いてきた「食」を中心に据えて、そこに「年の差BL」や「ブロマンスバディ」といった自分の好みの要素を盛り込んで書いてみよう! と。
――松本先生自身、もともとBLがお好きだったんですね。
好きではあるんですが、いわゆるBLマニアとかでは全然なくて。よしながふみ先生や中村明日美子先生など、比較的メジャーなヒューマンドラマ寄りのBLが好きだったんです。商業作品として描いたのは『三ツ矢先生~』が初めて。
ただ、もともと自分の中でBLは特別なジャンルではなく、ヒューマンドラマのひとつであくまで人と人の話と考えていたので、身構えることなく描けたんだと思います。
――三ツ矢先生と石田くんというキャラクターは、どこから生まれたのでしょう?
NHK BSプレミアムで不定期放送されている『チョイ住み』(年の離れた芸能人やタレントが2人一組で海外でちょっとだけ生活を共にする番組)が好きなんです。三ツ矢先生と石田くんのキャラクター設定は、その影響があるかもしれません。
初対面に近い、一見重なるところがなさそうなふたりが一緒に食卓を囲むことで、相手のいろんな面を知って、たまに衝突しながらも距離を深めてゆく。そういう物語を同棲ドラマとはまた違った形で描きたい――というところから、料理研究家と編集者という設定も決まりました。
――三ツ矢先生が料理研究家という「食のプロ」ゆえ、作中には「食」に関する人生哲学的な台詞も多いです。「人間の本能に触れてるみたいでゾクゾクするわ」など、食や人の本質に迫る印象的な台詞が、作品全体に奥行きや深みをもたらしています。
やっぱり「食」も「性」も人間の三大欲求のひとつだし、意識してセクシーな要素を入れようとしなくても、食べることの本質について考えると自然と性的なことにも繋がってきてしまうと思うんですよね。
ただ、食べる表情をエロく描いた食漫画は私はあまり好みではなくて。「食」と「性」は密接に繋がったものだからこそ、安易なエロと混ぜたくはない。たとえば、料理をガツガツ美味しそうに食べてる人って全身で生きる喜びを感じてるみたいでセクシーですよね。そういう本能的な部分の方を私は描きたいと思っています。
生殺与奪の権を握る「料理」という行為
――作中でも、料理をガツガツ食べる石田くんを三ツ矢先生がうっとり眺めるシーンがあります。無心で食べる姿は人を魅了しますよね。
そうそう、私も食べることより食べるのを見る方が好きかもしれない(笑)。一時期、大食い系のYouTubeを見るのにハマっていたんですが、食べる姿って理屈抜きで「生きてる!」って感じがして気持ちいいし、癒されるんです。
――タイトルの「餌付け」という言葉は「胃袋でハートを掴む」的な?
このタイトルは編集部に付けていただいたもので、、自分的には人に対して「餌付け」という言葉を使うのは、抵抗があったんです(笑)。
ただ、人に料理を作って食べさせる行為は、すごくセクシーですよね。若い頃に恋人に食事を作ってるときに、自分が作ったものがこの人の血肉になるって、生殺与奪の権を握ってるなと思ったんです。もしかして毒が入ってるかもしれないのに出されたものを素直に食べることは、よっぽどの信頼がないと成り立たない。
三ツ矢先生と石田くんも「食べさせる/食べる」ことを通して、最終的に相手に身も心も委ね合う関係になったので、「餌付け」というタイトルはアリだったなと思ってます。
――現実でも「食」を共にすることで、関係性がぐっと親密になることは多いですよね。
高校生の時、家に夕飯があるんだけど、部活帰りにあえて友達とカツ丼を食べて帰っていました(笑)。当時はうまく言語化できなかったけど、そうやって一緒にご飯を食べることで友達との安心感や信頼感ができてた。
――誰かと何かを食べた記憶は、他のことよりも鮮明に記憶に残っているものです。
食べることって記憶とセットになってますよね。落ち込んだ時に食べたあったかい麺類がすごく心に染みたとか、好きな子と一緒に学校帰りに食べたアイスは特別な味がしたなとか、今も強烈に記憶に残っている。
そういう意味でも「食」って人と人の関係性を描くために欠かせない。ヒューマンドラマが好きな自分には「食×BL」はすごくしっくりくるジャンルだなと感じています。
ガッツリ濡れ場と食事シーンは盛り上げ方が近い?
――現在連載中の『やたらやらしい深見くん』は、自意識の高いナルシスト男・梶と、モサイようで脱いだらエロい天然男子・深見くんの“いじっぱりBL”ラブコメディです。松本先生にとっては、初のベッドシーンありの本格BL作品ですね。
ベッドシーン、不安もありましたが、意外と描けたかも……? と我ながら思っています(笑)。もともと身体を描くのは好きなんですが、絡んだときに2人の足がどこの位置でどんな形なのか――みたいな画的な部分が難しくて。「BLの描き方」という本を買ってきて、人形でポーズを作って研究しました。
描いてみてわかったんですが、ベッドシーンってリズムが大事。顔のアップばかり連続しないようにカメラワークを変えて。見せればセクシーになるものでもないから、見えてる部分と隠れてる部分のバランスを探りながら、パズルみたいに組み立てていく。
――描いてる方は極めて冷静な、職人的な世界でもあるんですね。
ベッドシーンって実は食漫画と似ているところがあって、ストーリーの流れや盛り上げ方みたいなところが、すごく似てるんです。
食マンガもBLも……「抑圧と開放」を描きたい
――どんなところに共通点があるのでしょう?
たとえば食漫画だと、まず料理があって「わあ、おいしそう!」。そして「どんな味がするのかな?」という期待感。そこから早く食べたいというワクワク感やじりじりした感情を描いていく。
それはエロも一緒で、あの人はどんな表情をするんだろう? あの人が欲しい、という感情を描くところから始まる。そこから触れ合う感動や驚きがあって、終わってどうだったのかを反芻する。その一連の流れはほぼ一緒だなと。私も実際に描いてみてびっくりしました。
――確かに、食もBLも、いきなり実食シーンだけを見せられてもそそられない。その一連のドラマにこそロマンがあるんですね。
「食」も「性」も、読み手がカタルシスを感じるポイントは「抑圧と解放」だと思うんです。深見くんはいろんなことを我慢して孤独に生きてきたけれど、梶と出会って初めて自分を開放する喜びを知った。梶も実はさびしさを抱えた人で、それを埋めるためにいろんな人と遊びまくってきたけれど、深見くんと出会って初めて心を許す喜びを知った。
だから、BL=エロい行為を描きたいわけじゃない。抑圧を抱えていた人が誰かの前で心を開放する、そういう生の喜びみたいなエロスを描いていきたいですね。
松本あやか(まつもと・あやか)
北海道在住。美容師など複数の仕事を経験した後、20代前半でマンガ家としてデビュー。著作に『チア男子!!』原作/朝井リョウ、『BABY BABY BABY!!』(ともに集英社)、自身の地元を舞台にした『札幌乙女ごはん。』(Dybooks)など。現在コミックフェスタで『やたらやらしい深見くん』(既刊2巻)を連載中。
Instagram:@matsumoto_ayaka_info
『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』公式TVドラマ公式ビジュアルブックも発売!
ぶんか社
https://www.bunkasha.co.jp/
BLスクリーモ
https://screamo.ooo/list?genre=bl文=井口啓子
マンガ=松本あやか
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