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【兵庫県・神戸市】完全予約制で味わうできたての上生菓子「汐音屋」

CREA WEB / 2024年11月10日 6時0分


季節の上生菓子3種類。

 京都や奈良には、できたての上生菓子がいただけるお店があって、ずっと羨ましいなと思っていたのです。目の前で作る菓子職人の技に見とれ、できあがったばかりの和菓子の口どけや風味に感動。もちろん、おいしいお茶と一緒に、です。

 そんなお店が、私の暮らす神戸の街にできたので、早速、ご紹介します。

 JR神戸線摂津本山駅の改札口から、南東に徒歩で3分程。お店がオープンしている時は、足元に小さな看板が置かれているので、見逃さないように。路地を入って、3軒並びの建物の中央が「汐音屋」。ごく普通の2階建て一軒家です。


2階の御菓子とお茶をいただくスペースは和室。

「喫茶もお持ち帰りも、どちらも完全予約制なんです」と、店主・山崎ちひろさん。靴を脱いで上がった左手がウエイティングルーム。山崎さんお気に入りの手ぬぐいや懐紙、お店で出されるお茶がさりげなく並べられ、販売されています。

 喫茶スペースは、急な階段を上がった2階の座敷。円形の座卓と足が痛くなりにくいカラフルな座クッションが置かれています。「2階へ上がるのがたいへんだという方は、1階の椅子席も利用できますよ」と山崎さん。

 取材時の御菓子とお茶をご紹介しましょう。


きんとん~錦繍と和紅茶。日本茶コースは1,500~1,600円。季節の上生菓子+干菓子と4、5種のお茶から1種類を選ぶ。お抹茶コースは上生菓子2種とで2,500~2,700円。

 薯蕷きんとんの菓銘は「錦繍」。秋が深まる紅葉の山の艶やかな美しさをイメージさせる御菓子で、中は丹波大納言小豆の粒餡。口に入れると、ほどけて消えてゆくような、はかなく優雅な一品。餡そのもののおいしさに魅せられます。

 きんとんは、色付けされたそぼろ状の餡で様々な季節や情景が表現される、私が大好きな上生菓子です。いろいろ食べてきた中でも、山崎さんが作るきんとんは、とびきりのおいしさ! ほのかに酸味を感じる和紅茶との相性の良さに感動します。


亥の子餅とほうじ茶。

「亥の子餅」は、猪の子・うり坊を模した御菓子。亥の月(陰暦10月)、亥の日、亥の刻(午後9時~11時)にこの餅を食べると無病息災を望めるという古代中国から伝わった行事食で、『源氏物語』にも登場するんですよ」と山崎さん。

 茶道の炉開きの御菓子としても親しまれているそう。これは甘露煮にした栗と柿を、黒ゴマを入れた餅で包んでいます。柔らかな餅の食感、ゴマの風味、栗と柿の甘さで、まったりしたおいしさ。香ばしいほうじ茶とで、ほっこり。


薯蕷饅頭~織部と煎茶。

 薯蕷饅頭の「織部」は、安土桃山時代の茶人であり、武将の古田織部の指導によって創始された焼き物の釉、深緑を配し、井桁などの焼き印を押したもの。こちらも炉開きによく使われるといいます。皮には山の芋(薯蕷)を使い、中はこし餡。口どけの良いあっさりしたこし餡と生地の優しい甘さに、渋みのある煎茶がぴったり。

季節感のある繊細な仕事が評判に


そぼろ状の餡を箸で付ける。

 薯蕷きんとん「錦繍」を作る様子を見せてもらいました。手亡のこし餡に丹波つくね芋をふんだんに合わせたきんとん生地を色付けして、とおしで濾してそぼろ状にし、丹波大納言小豆の粒餡の周りに箸でひとつひとつ付けて作られます。

「一部の御菓子は、こうやって作る様子もご覧いただいています」と山崎さんはにっこり。

「もとはといえば、私自身がからだが丈夫でなかったことから中国伝統医学(中医学)の勉強を始め、学ぶうちに、二十四節気が理にかなっていると気づいたんです。元々、好きだった和菓子も、銘やモチーフ、由来となる風習にそれが表されている。上生菓子で二十四節気がよくわかる」

 國際中医薬膳師の資格を取得し、自身でセルフケア講座(スローエイジング講座)を始めるにあたって、「美しさや愛らしさとともに内容が記憶に残るように御菓子をお出ししようと思ったのですが、御菓子屋さんに少量あつらえてもらうのは気がひける。だったら自分で作ろうと」。本やネットの動画を見て作り始めますが、わからないことが多く、職人の菓子教室や京都の老舗に教わるようになります。

「練り切り、きんとん、ういろう、求肥、薯蕷饅頭など、繰り返し作ることで、自分なりの御菓子ができるようになりました」。2019年4月から、働いていた神戸・岡本の日本茶カフェ「一日(ひとひ)」で提供し、評判になります。

「御菓子屋で修業もしていないし、専門学校にも行っていない」と山崎さんは言いますが、“好きこそものの上手なれ”で、茶道を学びながら少量ずつ豆から餡を炊いて1個ずつていねいに作る御菓子はどれもハイレベル。お稽古やお茶席、イベント用の御菓子の注文も入るようになりました。


干菓子も手作り。蜜を加えた和三盆糖を型に詰める。

 山崎さんは生菓子だけでなくお茶席に欠かせない干菓子にもこだわって、木型からオーダー。抜き型もたくさん集めます。、とうとう2024年、「時を味わう 和の習いにふれる」をコンセプトに自店をオープンしました。

 「刻々と移っていく季節を楽しむことこそが、何よりこころもからだも養ってくれます。甘さも美しさも一瞬でほどける。そんな一瞬のための御菓子を、手間と心をかけて作っていきたい」と山崎さん。


抜き型いろいろ。

 11月後半は、ういろうの「いちょう」、きんとんの「木枯らし」、練り切りの「照葉」などが登場。二十四節気に合わせて、1年に24回、御菓子を食べて季節を愛でる習慣があってもいいですね。ひととき、御菓子とお茶で、上質なおやつタイムを。

汐音屋


路地の入口に置かれた小さな看板が目印。

所在地 兵庫県神戸市東灘区田中町1-11-7
電話番号 非公開
営業時間 喫茶は13:30~15:00、15:30~17:00 各回6名限定、持ち帰りはHPを参照
定休日 火・水・木曜、不定休あり
※喫茶、持ち帰りともオンラインでの完全予約制
Instagram @shioneya
https://shop.shioneya.com

文・撮影=そおだよおこ

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