『おじさん図鑑』著者が見た石破茂の「悲しげな表情」「どうしていつも能面みたいに同じ顔をしているんですか?」の問いに…
CREA WEB / 2024年11月3日 17時0分
「おじさんを見ると絵に描きたくなる」「おじさんの哀愁は、絵にすると何ともいい味を出してくれる」。そんな思いで高校生、美大生の頃から描き続け、2011年に著書『おじさん図鑑』(小学館)がベストセラーとなったイラストレーターのなかむらるみさん。2013年には、24人のおじさんを取材してその多様な生きかたを活写した『おじさん追跡日記』を刊行。大トリを飾ったのは石破茂さんだった。今は電子書籍で読むことができるこの本から、石破さんの章を公開。
★★★
政治家のおじさんってどんなだろう? なかでも石破さんは絵に描いてみたいと思っていたので、ダメもとで取材をお願いしてみたら、なんとOKをいただいた。ただ、超多忙のため時間は20分! ドキドキしながら永田町にある自民党本部を訪れた。
いざ自民党本部へ!
入り口には数人の警察官や警備員が立っていて、緊張感がある。警備員も、わたしがいつも絵にしているようなのんびりしたおじさんではなく、目に鋭さがある。うろうろしてたら声をかけられたので、記念撮影をしてもいいか聞いてみると、「あっちがよくテレビとかに出るところですよ」と親切に教えてくれた。
指定の時刻にはまだ早かったので、1階で待つ。ガラスケースのなかに直筆の色紙が飾ってあった。安倍総理が達筆だ。石破さんも上手だが、断トツで細い! 繊細さが表れているような気がした。政治家になると字まで見られるから大変だ。
約束の時間になったのでエレベーターで幹事長室のある階へ。エレベーターを降りると赤い絨毯が広がっていた。緊張感が高まる。5分くらい別室で待ってから、ついに石破さんとご対面! 時間も限られているのでさっそく質問を始めた。
実際会うまで、質問しても無駄なことは答えてくれないのではないかと心配していたが、そうでもない。「酒は小学1年の頃から親父に飲まされた」とか、書いちゃいけなそうなことも、話してくれた。
国を動かす政治家のおじさんの素顔とは!
●年齢__56歳(2013年取材当時)
●血液型__B型
●職業__国会議員
●出身地__鳥取県
●家族__家内と娘ふたり
●好きなお酒とおつまみ__酒なら何でも飲むよ。辛口の日本酒と鳥取県の岩牡蠣は最高だなあ
●甘いもの__嫌いではないです。ウエストのチーズケーキはおいしいなあ
●たばこ__田宮二郎に憧れて吸い始めたんだよね
●ギャンブル__選挙で十分!
●スナック__週刊誌にあれこれ書かれるし、最近は行かない!(哀笑)
●好きなタレント__基本的に70年代アイドル
●仲良しの議員__浜田やっちゃん(浜田靖一元防衛相)とか山本一太さんとか、小此木はっちゃん(小此木八郎議員)とかね、いろいろいますよ
●若い人に一言__毎日毎日これ以上できないとこまでやる、かなあ
●夢__お休みほしい……
●今までの人生を一文字で表すと__反省の省。やってきたことは間違いだらけなんだよというね
不器用なので振付ができない
アイドル好きの噂は本当で、70年代アイドルのA面はほとんど全曲歌えるそうだ。山本一太議員もアイドルに詳しいとかで、昔カラオケで対決したとか。石破さんは振付をマスターできていないのを嘆いていた。
ただ、やはり選挙区に戻れば、好きなアイドルの歌は封印するそうで「そりゃね、『兄弟船』とか『柳ヶ瀬ブルース』とかやりますよ。キャンディーズとかですね、小泉今日子とかばっかり歌ってると、あいつどっかおかしいんじゃねえかって言われるでしょ?」とのこと。政治家もサラリーマン的な苦労がありそうだ。たしかに、女性アイドルの歌ばかり歌うおじさんはこれまでに出会ったことがないので、めずらしいかもしれない。
「どうしていつも能面みたいに同じ顔をしているんですか?」という質問に……
もうひとつ、ちょっと聞きづらいことを聞いてみた。「表情が変わらない印象がありますが、意識されてますか?」。すると「そうですか?」と、少し悲しげな表情。石破さんは防衛大臣、農林水産大臣、自民党政調会長などの大役を歴任。しかもいつも厳しい時期にまかされてきた。そんなときは小さな失敗も許されない。「間違ったことは言ってはいけない、感情の起伏を表に出してはいけない、つねに理路整然と答える。そうでなければこの商売はもたないんだよ。それだけの話です」ときっぱり。
露天風呂に入れない
聞いていると、とにかく忙しそうで、ちょっとかわいそうになってきた。自由のなさはアイドル並だ。車の運転もできないし、あとSPが守れないという理由で露天風呂も絶対ダメだとか。その後、ドラマ「半沢直樹」の話になり、元銀行員ということでつい「見てるんですか?」とたずねたら「見てるわけねえじゃん!」と即答(笑)。ついでに「あまちゃんは?」と続けたら「見てない。もう終わったんでしょ? 週刊誌に載ってた」。「週刊誌は読んでるんですね」と返したら、「読んでるわけねえじゃん!」と言っていた(笑)。すました感じと、おじさんっぽいときがあって安心した。
20分のはずが、結果的に45分くらい話していただいた。いつか石破さんが露天風呂に入れる日が来ることを願いつつ、失礼しました。
なかむらるみ
1980年、東京都新宿区生まれ。イラストレーター。一児の母。武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)、「月刊たくさんのふしぎ」2024年3月号『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)、イラストを担当する連載に、東京新聞Web「ぐるり東京 泉麻人 町喫茶さんぽ」、きもの雑誌「七緒」の「田中敦子 染め織りぺディア」がある。趣味は旅行先で絵日記をかくこと。好きな食べ物はお寿司とコーヒー。ホームページ:https://www.nakamurarumi.com/
文・絵=なかむらるみ
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