「弱音を吐いちゃうのも私じゃん」と…小泉今日子が考える世の中に“足りない”ポジティブさ
CREA WEB / 2024年11月22日 11時0分
倉本聰さんが36年ぶりに映画脚本を執筆した作品『海の沈黙』に出演した小泉今日子さん。同期で同い年の本木雅弘さんとはどのような関係性を築いてきたのでしょうか。年齢を重ねることへのポジティブな思いも聞きました。
本木さんと私の関係性が、演技の一つの要素に
――「花の82年組」の同期である本木さんとの共演はいかがでしたか?
小泉 本木さんと私の関係性が、演技の一つの要素になったのではと思います。かつての恋人である津山竜次に再会したとき、安奈が竜次に「ずいぶんお痩せになったのね」と声をかけます。対面している現在の竜次の向こうに、若かりし日の竜次を見た安奈だからこそ言えるセリフで、本木さんと私はお互いに若かった頃の顔を、パッと思い浮かべることができたので、本木さんとでよかったなと思いました。
――お互いよく知っているだけに、必要以上に親密さがにじみ出てしまう不安はありませんでしたか?
小泉 共演シーンは現場では数カットしかないので、それほど意識はしなくても問題はありませんでした。
それに、本木さんとは、お互いとてもよく知ってはいても、普段からそんなに話す間柄ではないんです。本人よりも彼のマネージャーさんとのほうがお付き合いが古く、親しくさせてもらっているので、彼女を通してお互いの近況を知ることが多いくらいです。
私は、本木さんの奥様の(内田)也哉子さんとも一緒にお仕事したりお茶したりすることがあって、也哉子さんのお母様の樹木希林さんやお父様の内田裕也さんとも交流があったので、本木さんとは、なんだかちょっと親戚感があるというか(笑)。裕也さんは私が出演した初めての映画で父親の役を演じてくださり、「芸能界に親父が必要だったら俺だと思って」と言ってくださいましたし、希林さんは若いときに共演して、その後もご一緒する機会が何度かあって、急にお電話くださったりする関係でもありました。だから、本木さんご本人とはあまりお話しする機会がなくても、勝手に親戚の人のように思っています。
――「身内」という感覚なのですね。
小泉 そうですね。本木さんと私って、ずっとつかず離れず、親友みたいな感覚があるんですけど、それは多分、お互いにあまり性別を意識したことがないからだと思います。
アイドル時代からメイク道具の貸し借りをしたりもしていましたし、なんとなく「男性」「女性」ではなく、お互いにひとりの人間として尊重し合っていました。ほかのアイドルとメイク道具の貸し借りをした記憶はないので、本木さんとは最初から「親戚」とか「親友」といった雰囲気があったように感じます。
それに、本木さんとは、選んだ道が一番近いんです。「よ〜いドン!」でアイドルとしてスタートして、結婚や出産という道を選んで活動を少しお休みする人もいましたし、引退した人たちもたくさんいた。俳優やアーティストになって活躍される方もいて、それぞれが色々な方向に進むなか、気がつくといつも横を走っていたのが本木さんだったと、今になって思います。
「弱音を吐いちゃうのも小泉今日子じゃん」
――「花の82年組」同期として、同じようにキャリアを重ねる本木さんに、ライバル心や対抗心を感じることはありませんでしたか?
小泉 全然ないですね。本木さんだけではなく、同期のほかの人に対しても、そんなふうに思ったことはありません。82年デビュー組って、中森明菜さんにしてもシブがき隊にしても、自分を持っていて個性的な人が多かったんです。だから当時から、お互いに自分にはない相手のよさを認め合う空気がありました。
同期の友達には、今もライブ活動している人もいます。そういう人を見ると、「みんな頑張ってるんだな、私も頑張ろう」と、刺激をもらっています。
――まわりを受け入れて認めることができるのは、今までのご自身の仕事を自信を持って受け止めているからでしょうか。
小泉 自信というよりも、「何でもありなのが小泉今日子」だと思っているからだと思います。最初から「小泉今日子はこういうものだ」と決めつけず、「弱音を吐いちゃうのも小泉今日子じゃん」とか、「たまにサボっちゃうのも私じゃん」といったゆるさをずっと持っているので、そもそも「勝ち負け」の意識がない。だから、頑張らなくてもいいし、頑張ってもいい。そこに「誰かとの比較」は必要ないと考えています。
――「何でもありなのが小泉今日子」と考えると、老いへの恐怖や不安も薄くなりますか?
小泉 私は年を取るのが怖いと思ったことはありません。むしろ今も、心のどこかで「早く大人になりたい」と思っています。
若いときは、自分がこんなに長く生きるなんて想像していなかったので、想定以上年齢まで来たからには、より楽しんで生きてやろう、みたいな心持ちなのかもしれません。
――若さへの執着や未練を捨てきれない人もいます。
小泉 でも、「若いほうが、価値がある」って言っている人って、大人ばかりじゃないですか? 若い人は、ネットというタイムマシンに乗って古いものを発掘するなど、かえって「若さ」を気にしない人が多いと思います。
それよりも、今は、ポジティブなエネルギーが世の中に圧倒的に足りないような気がして、それが心配です。だからテレビ番組や音楽で、まっすぐでポジティブなエネルギーみたいなものを感じると、すごく感動します。
先日、NHKの『あさイチ』という番組に出させてもらったんですけど、番組のスタッフさんがとってもポジティブで、すごくいい空気が漂っていました。その日は木村カエラちゃんがゲストで、カエラちゃんの歌もまっすぐでポジティブなので、「今日は本当にいい朝が迎えられた」と大満足でした。こういう、すかーんと抜けた明るさが、世の中にもっともっと満ちていくといいなと思っています。
60歳までは走り続ける
――小泉さんが発信されている「東京VintAGE Girls」も、「年を取る」ことに対して前向きな気持ちになれるプロジェクトです。
小泉 自分たちがシニア、シルバーという世代に入っていくなかで、「年を取る」ということを言葉からポジティブに変えていこうと、言葉の天才、ミュージシャンの高木完ちゃんが「VintAGE Girls」と名付けてくれたことで始まりました。安野(ともこ)さんときしくりさんと私で、できることからやっていこうと、動画配信をしたりフリーマーケットをしたりしています。来年は本に関するイベントもしようと、いま動いているところです。
目標を決めるとどうしても頑張っちゃうんですけど、「みんなそれぞれの仕事で頑張ってるんだから、頑張るのはやめようね」と言いながら、部活のような感じで無理せずにやっています。
――近田春夫さんと「BAD MORNING! CLUB」という朝活もされています。
小泉 この朝活もとってもいいエネルギーなんですよ。先日はライブを行なったんですけど、ミュージシャンの人たちも「摘み立ての声」みたいな感じで。参加してくれた浜崎貴司さんも、「朝って声出ないと思ってたけど、めちゃくちゃ気持ちいいね、歌うの。キョンちゃんもすごい声出てたね」と感動してくれました。
お客さんも朝から開放的にビールを飲みながら音楽を楽しむなど、ポジティブなエネルギーが広がる場になっていて、やっていて楽しいなあと思います。
――これから先も、何か新しいことを考えていらっしゃるのでしょうか。
小泉 58歳という年齢になると、社会のなかで関わることができる活動は増えてきたと感じています。
音楽の面では、ツアーマネージャーとバンマスが同級生なので、みんなで「60歳までは頑張ろう」と決めていますが、60歳以降に何をするかは、いまはまったく考えていません。60歳になったときに、もっとやりたいと思うのか、もっと緩やかなペースにしてできることだけ仕事したいと思うのか、仕事は全てやめて畑を耕したいと思うのか、どう感じるのかとても楽しみで、先のことは決めていません。
どちらにしても少し休息は必要だと思いますが、60歳までは走り続けると決めているので、何があっても走り続けます。楽しみにしていてください。
衣装クレジット
ニット 88,000円、パンツ 36,300円/CINOH(MOULD 03-6805-1449)
ピアス 35,200円/PLUIE(PLUIE Tokyo 03-6450-5777)
リング 右・人差し指 19,800円、薬指 29,700円、左 40,700円/Rieuk(info@rieuk.com)
文=相澤洋美
写真=杉山拓也
スタイリスト=藤谷のりこ
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