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学生時代“ぼっち”だった「春とヒコーキ」土岡が推薦! 陰キャ史を振り返る『こち亀』みたいなギャグマンガ

CREA WEB / 2024年11月15日 17時0分


春とヒコーキのお二人。

 お笑いコンビ・春とヒコーキのぐんぴぃさんと土岡さんにマンガを語っていただく本企画。ぐんぴぃさんの心を照らしているという異色作『路傍のフジイ』に続き、土岡さんが教えてくれたのは、ご自身の実体験とリンクしている作品で――? 

 マンガのみならず、映画や演劇にも詳しいお二人が信頼しているカルチャーの先輩たちについても教えていただきました。


俺たちは優れてるし、愚かだ


春とヒコーキのお二人。

――土岡さんにご紹介いただく作品は谷川ニコ先生『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(ガンガンコミックスONLINE)。連載が始まったのはもう10年以上も前なんですね。

土岡 そうですね、2013年頃、最初はアニメで観ていました。主人公の女の子は“ぼっち”の高校1年生、黒木智子。学校行っても全くしゃべる人がいなくて、ずっと家でパソコンをやっていて、どうやったらモテるのかを勉強して試してみるんだけど、もう根本が全然イケてないから、全然ダメ。被害妄想でリア充をただ憎んでいくところから始まるんですけど……。


『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』。

土岡 僕も高校生の時、全く友達ができなくて。

――はい、YouTubeの動画を観て存じ上げています。

土岡 学校でもほとんどしゃべらずに、家に帰ってずっとネット見てる、みたいな感じだったので、そこがめちゃめちゃリンクして。でも、だからと言ってそれを暗く描くわけでもなければ、支えて寄り添うみたいな感じでもなかった。本当に周りに溶け込めなくて、自尊心ばっかりがでかい愚かさをギャグマンガとしてずっと描いていて、そこのカラッとした感じが気持ちよくて。まずアニメにハマって、そこからマンガに入りました。

 友達がいて「ウェーイ」って感じの奴よりも、ぼっちとか要は“陰キャ”みたいな奴の方が、感受性が優れていると、陰キャは思い込んでいる。読んで、「そうそう」と思って(笑)。俺たちは「優れてるし、愚かだ」っていう感じ。

「ぼっちマンガ」というジャンル


土岡さん。

土岡 「ぼっちマンガ」っていうジャンルがあるのか分かんないけど――。

ぐんぴぃ キモいジャンルだなー。

土岡 たまにラノベとかで、主人公がぼっちっぽいのに実はモテたり、なんか優れてる、っていう作品もあるけど、この作品は別にそうならない。その感じがストレートだけど、新しいなとも思いました。

――主人公は女子高生ですが、わりと気持ちはわかる?

土岡 そうですね、結構「わかるわかる」と入っていきました。

 例えば、雨が降っている時に、他校の男子とたまたま雨宿りで一緒になる話があるんです。主人公の智子ちゃんは途中で寝ちゃうんですけど、起きたら男の子たちがいなくなっていて、代わりに男の子が置いていった傘があって、その傘を差して帰る、っていうエピソード。

 それを読んだ時に、 確かに自分も高校時代は友達がいなかったし、人と全然しゃべってなかったけど、本当は全くなにも会話がなかったわけでもなかったなって。「友達いなかったんだよ」って言って、なんでもかんでも関わった人のことを全部切り捨てちゃうのも違うなっていうことに気づいたんです。

自己分析が何にも生きないのが自分と一緒


土岡さん。

――このマンガに土岡さんがハマったのは、ちょうど就活のタイミングだったことも関係があったりしますか?

土岡 智子ちゃんは人としゃべらないから、いくらでも時間があって、自己分析しすぎなところがある。その自己分析が別に何にも生きないのも自分と一緒。僕は就活もしたけど1社も受からなかった。「結局ノリ良くできちゃう奴が、まあまあいい企業に行けちゃうんじゃん」っていう部分が覆らない感じも、変に希望を与えなくていいなと思いました。 

 でも、実はマンガの方はだんだん変わってきたんです。

ぐんぴぃ な、なにっ?? 動き始めてるのか?

土岡 男にモテはしないんだけど、友達ができてきた。ぼっちマンガで始まったのが、今はすごい群像劇の人間関係マンガになっていて、正直最初の頃とは変わっています。

――そうなんですね。途中まで読んだ限りでは、ほぼ弟としかしゃべっていなくて、あとは全ての人間関係に失敗していましたが……。

土岡 それが変わっていったんです。例えば、修学旅行でたまたま同じ部屋になった人と絡んだり、2年生、3年生になるにつれて友達ができたり。最初の頃は本当に友達がいなくて、1年生編があっという間で終わっちゃってたけど、人と関わり始めたら、時間が倍ぐらい伸びて、どんどん時間のスピードがゆっくりになってる感じがして。たまたまそうなっただけかもしれないですけど、そこが巻数に表れているのがなんかいいなぁと。

ぐんぴぃ この後、大学生になってさ、すっごい楽しくなったりしてね。サザエさんくらい無限に大学生編が続いたりしてね。

土岡 確かにそう。どっちになるのか、ちょっと掴めないところがある。

“女版ウエストランド井口”な主人公


春とヒコーキのお二人。

――あと、主人公が“喪女”っていう設定が独特ですよね。読んでいるうちに可愛げが出てくる部分もあるんですけど、とんでもない下ネタが冒頭から出てきたりして、正直「これは……」と思う瞬間も多かったです(笑)。

土岡 アニメを観た時も「声優さんにこんなこと言わすんだ」ってめっちゃびっくりしました(笑)。 最近もちょろっと見返してみたら、「すごいこと言ってるな、今じゃダメだよな」っていう表現もありましたね。10年前だからピーも入ってないけど。

ぐんぴぃ 2人ともCREAらしくない作品を持ってきてしまいましたね。陰キャのひとりでいる奴の話を……(笑)。

――その点もさっきの「フジイ」と同じで、独自性のあるキャラクターというか、個性的な主人公像だなと思いました。

ぐんぴぃ でも本当に俺らの気持ちをわかってくれるキャラクターの走りだったよね。いろんなものに楯突いていて、僕は“女版ウエストランド井口”だと思って読んでいたんですけど。面白いもんね。

女子高生の本気の土下座


春とヒコーキのお二人。

――印象に残っているエピソードはありますか?

土岡 最初の頃なんですけど、年下のいとこが家に遊びに来た時に、「お姉ちゃん、彼氏いるんだ」って思われようとして自分でキスマークをつけるエピソードがあって。掃除機で体を吸って、 謎の丸い跡を体にいっぱいつけて、お母さんにすごく怒られる(笑)。

 その後二人で出かけたら、前に傘を貸してくれた男の子とばったり会うんだけど、そのいとこが「あの人が、彼氏 ?」って言ってきて、「うん、彼氏だよ」って嘘ついちゃうんですね。そしたらその次の日に、その男の子が図書館で別の女の子と一緒に歩いてるところに出くわしちゃって。

ぐんぴぃ 辛いねぇ~。

土岡  いとこが「え、お姉ちゃんの彼氏、女の人といるよ」って言って、主人公がトイレに行っている間に、男の子に「私のお姉ちゃんと付き合ってるのに、なんで他の女の子と仲良くするんですか?」って聞いちゃって。

ぐんぴぃ 考えられない。もう読み進められない、そんな辛いの!

土岡 それを見た主人公は、「やべえ」ってとりあえずいとこを先に行かせておいて、自分はさっきの男の子の前でめちゃめちゃ土下座するっていう(笑)。

ぐんぴぃ 最高だよ!

――めちゃくちゃ笑いました。女の子の本気の土下座って今まであまり見たことがなかったです。

土岡 「こいつは自分だ」って思うのに、全く擁護する気にならない。見てて気持ちいいですよね(笑)。

ぐんぴぃ 確かに。なんなんだろうね。

それは同人誌でボコボコにされるやつ


春とヒコーキのお二人。

土岡 最近は人と接することが増えていって、暗い子や、ヤンキーな子や、あと世話焼きな子たちと接していくんですけど、途中で明らかに1人、ちょっと性格の悪い子が出てきたんです。しかも陽キャで性格が悪い子。なんか嫌な子急に出てきちゃった、ってマンガ読んでてびっくりした。

ぐんぴぃ 同人誌でボコボコにされるやつね。

土岡 そうそう。でもその子がもともといた陽キャ側のコミュニティのこともちょっと描かれていて。そのイケてるグループでは、その場にいない子の悪口を全員で言ったりしていて、人間関係が結構こじれてぐちゃぐちゃになってる。それで、その性格悪い子が今度はぼっちになるんですよ。このマンガでは最初から、イケてない側のぼっちを描いてきてたけど、今度はイケイケな側のぼっちが描かれはじめた。

ぐんぴぃ 都落ちぼっちね。

土岡 鏡写しの関係みたいな感じになって。

ぐんぴぃ ワルイージみたいな感じ?


春とヒコーキのお二人。

土岡 なんでワルイージなんだよ(笑)。マリオとワリオでいいじゃん。でも、確かに主人公も決してマリオではないからね。

ぐんぴぃ それ、仲良くなったりするんじゃない?

土岡 まだ直接の会話は1回もしてないんだけどね。

 見ていて面白いのが、キャラクター同士が「この子はこの子をこんなふうに思ってる」っていうのを、セリフなしの顔だけで表現するページが結構多くて。8人ぐらいのキャラクターが座って文化祭のステージを見ているシーンだと、「この子は今ステージに立ってるこの子にこういう思いがあるからニコニコして見てるよね」とか、「でもこの子は今こういう思いがあるからちょっとつまんなそうな顔してるよね」とか、言葉では一切説明せずに顔だけで表現していたりとか。

 あとは、いつの間にかヤンキーと優等生が仲良くなっていたり。これも、仲良くなる過程が全く描かれないんですけど。

ぐんぴぃ リアルだな~。いつの間にか仲いいんだよな、ヤンキーと優等生の女の子って。

土岡 人間関係とかキャラクターの描き方がめちゃめちゃ上手いから、「じゃあこの時にはこう思ってたのかな?」って何気ない会話を読み返したくなるんです。

陰キャ史を振り返る『こち亀』みたい


春とヒコーキのお二人。

ぐんぴぃ 陰キャとかぼっちを描いた作品の走りだったんじゃないですか。 今ではもうそれが当たり前とは言わないまでも、そっちが優勢みたいになってきてるけど。

土岡 あー、そうだね。SNSが広まったりして。

ぐんぴぃ 最近、陰キャがちょっと強くなりすぎているきらいがある。令和ロマンのくるまも「陰キャが力持ちすぎ」って言ってました。陽キャの逆襲が怖くてしょうがないよ。

――土岡さんはご自身でもネタを書かれる立場ですが、このマンガのギャグの部分をどんな風に読んでいますか?

土岡 笑っちゃいますね。ネットミームやオタクの好きな時事ネタが入ってるのも面白い。例えば、主人公がお母さんに「押し入れを片付けて」って言われた時に、カスタネットが出てきて、「うんたん、うんたん」って言いながら叩くシーンがあるんですけど。読み返してて、「あれ、これなんだっけ?」って思い出すのに時間がかかって、しばらくして「そうだ、『けいおん!』のパロディだ!」って思い出したりとか(笑)。


春とヒコーキのお二人。

ぐんぴぃ 陰キャのノスタルジーって悲しくなるな。

土岡 そういうのをどんどん取り入れている作品です。それこそ「喪女」って言葉ももう死語になりましたけど当時は使われていたし、初期にあった「リア充」っていう言葉が今は「陽キャ」に変わったり。「リア充爆発しろ」みたいな言葉も今は言わないですもんね。でも、どれも今読んでもなんか覚えてるんですよね。

ぐんぴぃ 陰キャ史を振り返る『こち亀』みたいになってる! 今後、「チー牛」とか「弱男」とか、どんどん出てくるだろうね。

土岡 それこそ数年前だとチー牛って言葉も書いてあったし……最新だと「風呂キャンセル界隈」って言葉が出てきたりとか。

――キャッチするのが早い! 風呂キャンセル界隈という言葉にちなんだストーリーになってるんですか?

土岡 いや、ぽろっと出てきた感じですね。こち亀ほど、その言葉を掘った話にはなっていないけど。

ぐんぴぃ 大原部長がポケモンやって、「バグってしまったぞ! 両津!」みたいな回はない?

土岡 それはないね(笑)。

信頼できるエンタメの情報源


春とヒコーキのお二人。

――ありがとうございました(笑)。最後に、エンタメ全般の話になりますが、お二人が何か作品を紹介していたらチャンネルの視聴者がつい追いかけてしまうように、お二人が「この人が紹介しているエンタメは見なければ」と思って信頼している人はいますか?

ぐんぴぃ 有り体に言えば佐久間(宣行)さんになっちゃうな。結局、佐久間さんがいいって言ったやつは面白いもんな。

土岡 うん、配信サービス系とか特に多いね。

ぐんぴぃ そうそう。あとは演劇とかね。

――演劇はぐんぴぃさん、かなり詳しいですよね。どうやって情報収集をされているんですか?

ぐんぴぃ 佐久間さんもそうだし、演劇だったら小西朝子さんっていう、お笑いと演劇を両方やる「テアトロコント」というライブを主催している方が「あれが今いいと思うんです」って教えてくれたものは行くかな。

 演劇ってハードルが高いし、友達とかバイト先の友達が「ちょっと来てくれない?」って誘われて行くのって99%ハズレじゃないですか。つまんない映画より、つまんない演劇の方が何倍も罪深くて、「今、目の前でつまんないことが起きている」っていう現象に耐えられないので、演劇は結構調べていくようになっちゃったんですけど、小西さんは信頼できますよね。

――土岡さんはFilmarksのレビューが人気だったりと、映画にお詳しいですが、いかがですか?

土岡 僕はライムスターの宇多丸さんのラジオ「アフター6ジャンクション2」(TBSラジオ)。宇多丸さんのコメントだけでなく、最後に「じゃあ次に観る映画の候補はこちらです」と何本か映画を紹介する部分をわりと聞くようにしています。今、どんな映画がやっているのか、そこで一気にわかるんです。タイトルも知らなかったような作品をそこで知って、調べて予告編観て……みたいなことが多いですね。

ぐんぴぃ 宇多丸さんみたいになりたいんだよなー。

土岡 帯でラジオをやって?

ぐんぴぃ 大憧れですね。 あれは羨ましい。ずっとカルチャーの話をされていますよね。

土岡 本当に。演劇も音楽も、ボードゲームとかもね。

ぐんぴぃ 帯でずっと話し続けるってすごいですからね。大好きですね。こき下ろすにしても上手いしね。

土岡 あと最近気づいたんですけど、映画好きを周りの芸人にアピールしておくと、後輩から「この映画、土岡さん観ました?」って聞かれることがあって。全然知らない映画だったりもするんですけど、相手は勝手に僕が観てる前提で話してくる(笑)。おかげでその映画の存在を知ることができる、ということもあります。

ぐんぴぃ 俺も、エロマンガで全く同じことが起きてる。土岡は映画でうらやましいよ!

春とヒコーキ

青学落研で出会った土岡哲朗とぐんぴぃが2017年に結成。2019年に「タイタンの学校」に2期生として入学し、翌2020年にタイタンよりデビュー。テレビ、ラジオ、YouTube、ライブシーンなど幅広く活動し人気を集めている。ぐんぴぃ主演の怪獣映画 『怪獣ヤロウ!』が2025年1月31日(金)全国公開。
YouTube 春とヒコーキ
YouTube バキ童チャンネル【ぐんぴぃ】
土岡 X @tsuchioka_t
ぐんぴぃ X @Mugen3solider

文=ライフスタイル出版部
写真=佐藤 亘

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