香港映画界の次世代俳優テレンス・ラウが語る、香港No.1ヒット作の魅力
CREA WEB / 2024年11月24日 11時0分
香港映画歴代観客動員数No.1に輝いた『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』に出演。今や「全民老公(香港の国民的夫)」と呼ばれる絶大な人気を誇るテレンス・ラウが、「香港映画祭2024 Making Waves - Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」で公式初来日。
過去にレスリー・チャンを演じたキャリアも持つ彼がアーティステイックな一面を披露するほか、ベールに包まれた私生活についても、CREA WEBに独占で語ってくれました。
アスリートを諦め、舞台俳優の道へ
――映画祭では『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(24年)のほか、『スタントマン』(24年)、『贖罪の悪夢』(24年)という3本の出演作が上映されました。
3作も上映されるなんて、数年前の自分には、まったく想像できない状況です。とても嬉しいですし、光栄なことだと思います。
僕は昔から北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海。』や是枝裕和監督の『海街diary』といった日本映画が好きなんです。そして、普段はお会いすることができない日本の観客のみなさんと近距離で交流することもできて、とても楽しかったです。
――小学生から学んでいた水泳など、将来アスリートを目指していたテレンスさんですが、俳優を目指すことになったきっかけは?
縁といいますか、運命といいますか、中学2年のときに膝をケガしてしまったんです。その後、友だちの勧めで演劇部に入部したところ、役を演じるということが楽しくなりました。
その後、大学受験に失敗し、落ち込んでいたときに、また別の友だちの勧めで、香港演藝學院に進学することを決めました。
――多くの有名俳優を輩出した香港演藝學院戲劇學院を卒業後、舞台俳優として、いろんな劇団の公演に客演されます。そんななか、映像の世界に入ることになるきっかけは?
もともと映画は好きでしたが、演藝學院では舞台演劇について学んでいたこともあり、映像の世界に行こうという気持ちは一切ありませんでした。とはいえ、日本と同じく舞台だけでは食べていけないので、モデル活動を並行させながら生計を立てていました。
そんなとき、16年に「前度」という舞台に出演したのですが、この作品はダヨ・ウォンさんとファラ・チャンさんが出演していたこともあり、映像業界の方が多く見に来てくださったんです。その中に、僕を気に入ってくださった方もいて、これを機にTVドラマにも出演するようになりました。
統合失調症の演技が高く評価された映画デビュー作
――去年インタビュー取材を受けてくださったダヨ・ウォンさんも「香港映画祭2024 Making Waves」で来日されましたが、お会いしましたか?
ダヨさんとは、昨日ホテルでお会いしました! 舞台をやっていたときは稽古を含めて毎日のようにお会いしていたのですが、今回は6~7年ぶりの再会だったんです。だから、思わずハグしちゃいました(笑)。そして、しばらく立ち話をしていたのですが、映画界での僕の成功をとても喜んでくださいました。いつか、映画でもダヨさんと共演したいです。
――19年には、『時代革命』のキウィ・チョウ監督が手掛けたラブストーリー『夢の向こうに』(「香港映画祭 2021」にて上映)に主演。総合失調症の青年役を演じられましたが、どのような経緯で出演されたのでしょうか?
先に相手役の女優さんが決まっており、オーディションでは劇中の短いシーンを演じました。そのとき、「総合失調症の方は、他人にそういう病気を患っていることを知られたくないと思って暮らしているのでは?」ということを念頭において演じました。チョウ監督からは後で、「ほかの役者がオーバーに演じるなかで、君だけがごく普通に演じていたから起用しました」と言われました。
――そんな『夢の向こうに』は、香港でスマッシュヒットを記録。テレンスさん自身も「香港評論学会大賞」で主演男優賞を受賞したほか、さまざまな映画賞で新人賞候補になりました。
これは僕が出演した映画で、初めて劇場公開された作品です。当時はコロナ禍だったこともあり、重苦しい毎日の中で、まるで何かを求めるように映画館に観に来てくださいました。その中には、実際に統合失調症を患っている方もいて、作品に共感してくださったほか、「癒された」「救われた」といった生の声を聞くことができました。そのほか、いろいろな情報を共有することもできました。
“香港の伝説”レスリーを演じたプレッシャーとの戦い
――21年には、人気歌手アニタ・ムイの半生を描いた『アニタ』(ディレクターズ・カットがDISNEY+にて配信)が大ヒット。ここでは、実際にアニタの親友だったレスリー・チャン役を演じました。
『アニタ』の撮影は、『夢の向こうに』よりも前でした。このときもオーディションで選んでいただいたのですが、初めての映画出演で、しかも“香港の伝説”であるスーパースターのレスリーさんを演じるなんて、プレッシャーしかありませんでした。決まってから、ずっと緊張していましたし、どういう準備をしていいのかも分かりませんでした。
――24年公開の台湾映画『鯨が消えた入り江』(NETFLIXにて配信)も、レスリーと密接な関わりがある作品でしたね。
これも縁なのか、運命なのかもしれません。『アニタ』のときは、リョン・ロクマン監督から「単にモノマネをするだけではいけない」と言われていたのですが、「スーパースターになる前、アイドル時代のレスリーさんは、どんな私生活を送っていたのだろう?」と考えながら、演じていくうちに、少しずつプレッシャーから解放されていきました。
――これまでのキャリアを振り返ると、生徒の母親と不倫する教諭を演じた台湾映画『トラブル・ガール』(23年・「大阪アジアン映画祭」にて上映)を含め、どこか影のある役柄が多いようにも感じます。
僕自身は「これまで演じてきた役柄によって、どのようなパブリックイメージになっているのか?」といったことを、わざわざ考えたことはありません。ただ、役者として、同じようなイメージが定着してしまうことは、あまりいいことだと思いません。もちろん、仕方がないこともあるでしょう。でも、なるべく殻を破って、できるだけ自由に、柔軟性を持って、いろいろな役柄をやっていきたいと心掛けています。
先輩俳優の監督作を通じて学んだこと
――香港で、まだ劇場公開されていない『贖罪の悪夢』でも、壮絶な過去が明らかになっていく精神科医・マンを演じられました。先輩俳優であるニック・チョンさんとの共演に加え、監督も務めた彼の演出はいかがでしたか?
役者が監督されるときは、かなり細かい部分まで演出されることが多い気がします。しかも、キャリア上「役者はどういう状態に置かれると、どんな気持ちになるのか?」ということも熟知しています。だから、この撮影現場では、ニックさんは僕が置かれている状況をとてもよく分かっていて、常に僕を安心させてくれました。
――撮影中の具体的なエピソードを教えてください。
劇中、僕が水の中に落ちるシーンがありますが、その日の撮影の気温が6度でした。そんなとき、現場で技術的な問題が起こり、アクションチームの方が何度も何度もテストしていたんです。
そこで、僕はニックさんに「もし良ければ、僕が実際に落ちてテストしませんか?」と提案したところ、「君は絶対に入っちゃダメ! 彼らに任せなさい」と言ったんです。とても寒かったこともあり、僕の体調を気遣ってくださったんです。そういう心遣いに対しても、とても感謝しています。
――そして、日本で2025年1月17日から公開される『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』では本格的なアクションに初挑戦。バイクとバタフライナイフを華麗に操る信一役を演じ、これまでのテレンスさんのイメージを打ち破りました。
いろいろと挑戦的な役でしたが、ソイ・チェン監督とアクション監督の谷垣健治さんという、大変心強い2人が現場にいらっしゃったこともあり、「もし、何かあっても、きっと助けてくれる」という安心感がありました。
ソイ監督は役者が事前にいろいろ準備して現場に臨むことを嫌う人で、「とりあえず、あなたが感じたままにやってください」と、よく言っていました。それでテストした後に、いろんな人が意見を出し合い、その中からいちばんいいものをチョイスしていくというやり方で進めていきました。
ソファに横たわって、天井を見上げるのが好き
――繊細でアーティスト気質な印象のテレンスさんですが、『男たちの挽歌』や『欲望の街/古惑仔』シリーズに登場するようなワイルドな男性像に憧れたことは?
もちろん、幼いときは家族と一緒に、そういった香港のアクション映画ばかり観ていましたし、どこかで憧れのようなものありました。でも、年齢を重ねていくうちに、メイベル・チャン監督の『誰かがあなたを愛してる』やピーター・チャン監督の『ラヴソング』、ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』といったアート系の作品の方が好きになりました。そして、香港演藝學院に進学してからは日本や韓国、ヨーロッパのアート系作品を多く見るようになったんです。
――香港映画界において、歴代観客動員数第1位のメガヒットを記録した『~九龍城砦』ですが、この社会現象をどのように捉えていますか?
まさに、香港を代表する作品になったといえるでしょう。この映画の舞台となった九龍城砦は現存していませんが、この映画では、そこで貧しくとも強く逞しく生きていた住民の人情や絆が描かれており、外部からの攻撃により、それをどのように守っていくか?という話でもあります。それは過去の香港の姿であると同時に、今の香港の姿でもあり、世の中にとって普遍的なテーマではないか? と思っています。
――テレンスさん自身も、「全民老公(香港の国民的夫)」と呼ばれる存在になりました。
なりたくてもなれない存在だと思うので、そこまで言っていただけて、とても光栄です。とはいえ、僕自身かなり内気な性格なので、恥ずかしくもあります。オフの日は、できるだけ家に引きこもって、本を読んだり、映画を観たり、あとは疲れたときにはソファに横たわって、ずっと天井を見上げて、頭の中を空っぽにするのが大好きなんです(笑)。
クリエイティブな仕事を自由自在にやっていきたい
――最後に、今後の展望や憧れの存在を教えてください。
先ほども言いましたが、クリエイティブな仕事を自由自在にやっていきたいです。それは俳優業に限ったものではなく、歌うこと以外なら何でも。実際に脚本も書いていますし、いつかは監督業もやってみたいと思います。憧れの存在は、大好きな『オアシス』を撮ったイ・チャンドン監督。極限状態まで追い込まれた人間の姿を描くことで、常に生きることについて探求しており、作品全体に力が満ち溢れているんです。僕はそこに強く共感するんです。
テレンス・ラウ(劉俊謙)
1988年9月26日生まれ。香港出身。12年、香港演芸学院戯劇学院を卒業。舞台俳優の道に進んだ後、16年からTVドラマに出演。19年、主演作『夢の向こうに』で映画デビューを果たし、21年公開の『アニタ』ではレスリー・チャン役を演じている。24年に公開された台湾映画『鯨が消えた入り江』がNETFLIXにて配信中。
映画『贖罪の悪夢』
精神科医のマン(テレンス・ラウ)のもとにやってくる患者は、自身の不安やトラウマからくる悪夢に苛まれていた。患者の一人、不眠症で事故を起こしたタクシー運転手のチョイ(ニック・チョン)をカウンセリングしたマンは、チョイの悪夢は、金融危機時代、友を裏切った罪悪感によるものだと分析する。
映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
1980年代の香港。“悪の巣窟”と呼ばれる無法地帯、九龍城砦を取り仕切るロンギュンフォン(ルイス・クー)は、黒社会の大ボス(サモ・ハン)とトラブルを起こした不法移民のチャン(レイモンド・ラム)を匿い、彼を信頼する弟子である信一(テレンス・ラウ)らに託す。その結果、九龍城砦は激戦の場となる。
https://klockworx.com/movies/twilightwarriors/
2025年1月17日(金)、新宿バルト9ほか全国ロードショー
文=くれい 響
写真=榎本麻美
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