《再放送が話題》今からでも間に合う!「カムカムエヴリバディ」を“はじめての朝ドラ”に推す3つの理由
CREA WEB / 2024年11月22日 6時0分
今週から再放送が始まった連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」。その魅力を『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)など、朝ドラ関連の本も多く手がけるライターの佐野華英さんが紐解きます。
11月18日より月~金曜の昼12時30分~、「カムカムエヴリバディ」(NHK総合)の再放送が始まった。2021年秋から放送された「連続テレビ小説」(通称「朝ドラ」)第105作の本作は、祖母・母・娘、3代の女性の人生を通じた100年の物語。それまでの朝ドラになかった「3ヒロインのリレー」という斬新な構成に加え、第1回から最終回に至るまで緻密に計算された作劇で、多くの視聴者の心を掴んだ。
ドラマは、1925年3月22日、日本で初めてラジオが放送されたその日に、岡山で和菓子屋を営む家に初代ヒロイン・安子が生まれたところから始まる。安子を上白石萌音、二代目ヒロイン・るいを深津絵里、三代目ヒロイン・ひなたを川栄李奈が演じている。
不肖筆者、朝ドラはそれなりの年数、それなりの本数を観ており、朝ドラに関連する仕事を多くさせていただいているが、もし「朝ドラ観たことないけど一番最初に観るならどれ?」とたずねられたなら、『カムカムエヴリバディ』を推したい。その理由と、本作の尽きせぬ魅力を、3つのポイントに分けて解説していきたい。
(1)緻密な構成と作劇──「伏線回収」というより、人物が「生きた」先にあるもの
本作の脚本をつとめる藤本有紀氏は、朝ドラ「ちりとてちん」(2007年後期)、大河ドラマ「平清盛」(2012年)、「ちかえもん」(2016年)などの脚本を歴任した手練の脚本家だ。精緻な筆力と、フィクションとしてのダイナミズム、そして「物語愛」にあふれた作劇で知られる。
藤本氏は「ちりとてちん」のときも「カムカム」のときも、企画が動き出して間もなく初回から最終回までの全プロットを書いてきたという。書き手の中にブレない「核」と、堅牢な骨組みがある。それにスタッフ・キャストが一丸となって肉付けを施し、高めていった朝ドラは、やはり「名作となるべくしてなった」ということだろう。言わずもがな「ちりとてちん」も未見の方にはぜひご覧いただきたい一作である。
本稿を書くにあたり第1週「1925-1939」を再度視聴し、あらためて「カムカム」の細密さ、巧妙さに唸らされた。これから初めてご覧になる方のためにネタバレは最小限に留めるが、第1週に全ての種が撒かれているのである。第1回から第5回までの全ての台詞が聞き逃せないうえに、人物の言動・場所・名前に意味と必然性がある。それらが今後、物語の導線となっていく。これも、最初の段階で「全話のプロット」という骨組みがあったからこそ、成し得たことだろう。
たとえば第4回で、安子の恋の相手・稔(松村北斗)が喫茶店「ディッパーマウス・ブルース」でルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street」を聴きながら歌詞を見る。そして、「Sunny Side」を「日なたの道」と訳す。この「日なたの道」というキーワードが、この物語を支える礎(いしずえ)となっていく。
「カムカム」はよく「伏線回収が見事」などと称賛される。しかし、全話観終えてからあらためて第1週を観返してみると、これはもう、小手先のギミックやテクニックを飛び超えたところにある──言い換えれば、神業すぎて「技術」と感じさせない、「人の営みと生き様による因果」と思えてくるのだ。おそらく作り手の中に、全登場人物の性質と、その性質ゆえに彼らが互いに影響し合い、形づくる各々の人生がしっかりと「存在している」のだろう。
また、制作発表の時点からアナウンスされている、「ラジオ英語講座」「あんこ」「野球」「ジャズ」「時代劇」という5つの要素。こんなにもてんこ盛りなのに、これらが見事に物語を彩り、つないでいく構成の妙にも注目されたし。さらに上記以外に「るい編」以降、劇中にたびたび登場する、各時代に放送されていた「朝ドラ」も「時の栞(しおり)」として重要な役割を果たしている。『カムカム』は、昭和・平成・令和史を辿りながら、朝ドラ史を俯瞰する物語にもなっている。
(2)時間描写の魔法──見えないところで何が起きたかがわかる作劇と演出
3人のヒロインの人生を描くとあらば、1人につき3倍の速さで進める必要がある。実際、物語はテンポよく大胆に展開していくのだが、その一方で、季節の移り変わりや人物の心情の変化を丁寧に追っている。「すっ飛ばし感」や「雑さ」とは無縁で、むしろ視聴者を3倍没入させる、3倍濃密なドラマになっているところが本作の大きな魅力だ。
「明日どうなるんだろう」というハラハラドキドキの「引き」をしっかりと作りながら、登場人物たちの「生活と日常」を細やかに描くことを忘れない。「ひとりひとりの日々の小さな積み重ねが、やがて大きな物語を動かす」というこのドラマの隠れテーマ、そして作り手の哲学が一貫している。
「時の物語」である「カムカム」は、時間の描写が実に巧みだ。この朝ドラは、その週が描くタームを週タイトルの年号が示すだけで、ドラマ本編に「○○年・春」というようなテロップはもちろん、カレンダーさえ出てこない。庭を彩る花が紫陽花から牡丹に変わったことで、初夏から冬に季節が流れたことを見せ、名勝負として記録に残る高校野球の試合をラジオから流すことで、今が何年何月何日なのかをさりげなく知らせる。
人物のしぐさや一瞬の表情、ひと言の台詞により、「今映し出されているシーン」の外で何が起きて、人物の心がどう動いて今に至ったのかを、観る者に瞬時にわからせる。こうした「時間描写の魔法」が本作を、半年間、1日15分ずつ、じっくりと玩味できる作品たらしめている。
(3)タイトル「カムカムエヴリバディ」に象徴される「多様性」
第2回で、安子(幼少期:網本唯舞葵)は「お菓子を作る人になりたい」と願うが、「女は職人にはなれない」と言われる。また同じ回で、安子の兄・算太(濱田岳)は「ダンサーになりたい」と言うが、「男はダンサーになれない」と言われる。女ばかりじゃない、男ばかりじゃない、昔はみんな社会規範に基づいた「役目」を強いられ、抑圧されていた。そういう時代だった。すでに第2回のこの作劇からして、本作の作り手たちが一方的な描写はせず、多方向からの視点を持ちながら物語を作っていることが見てとれる。
大正14年生まれの安子、昭和19年生まれのるい、昭和40年生まれのひなた。ヒロイン3人とも、ごく普通の暮らしを営む一市民だ。そして、その時代だからこその、それぞれの苦悩がある。彼女たちがどんな人生を歩み、どんな選択をしていくのかを通じて、「思想の歴史」「女性の解放までの変遷」が映し出されている。
本作のパッケージは「100年のファミリーストーリー」であるが、「100年を歩んできた様々な人たちの群像劇」とも解釈できる。視聴者の中には、家族に恵まれなかったり、家族に対して複雑な思いを抱いている人だっているだろう。かくいう筆者もそのひとりだ。けれど、そんな人たちにもこの朝ドラは「みんないらっしゃい(Come, come, everybody)」と呼びかける。「家族」とは、血のつながりだけを意味するものではない。どんな人も、自分自身の「ひなたの道」を見つけて進んでいけば、人生は輝く。こうしたメッセージが、3人のヒロインと、彼女らが関わる様々な属性、様々な境遇の人々の姿を通じて発せられる。
第2回で、菓子職人の修行中だった算太が形の悪い大福を作り、「人間だって、ちょっとはみ出すぐれえが味があろうが」と言う。「カムカム」には偉人も聖人君子も出てこない。これは、「○○が当たり前の時代」に、そこから「ちょっとはみ出」した人たちが、自分らしい「ひなたの道」を見つけて、生きて、明るい未来を祈り続ける物語。
ちなみに今回の再放送はオンエアと同時に、また放送後1週間、NHKプラスでも視聴が可能だ。安子にラジオ英語講座を勧めた稔の言葉を借りて、「明日の昼、12時30分にテレビ(端末)をつけてみて」と書き残し、本稿を閉じたい。
文=佐野華英
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