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「これなんや?」「おばあちゃんにもついているもんや」93歳“ばあば”と作った外陰部パペット【ばあばるば】誕生の舞台裏

CREA WEB / 2024年12月11日 17時0分

 今年の8月に誕生した、女性のデリケートゾーンや外陰部の構造を学べる、性教育用パペット「ばあばるば」。“自分とカラダに本音で向き合う”をコンセプトに、記事展開とアイテム販売をしているランドリーボックスが企画・制作し、話題になっています。

「ばあば(おばあちゃん)」が作る「バルバ(女性の外性器を表す英語)」で、「Ba-Vulva(ばあばるば)」。企画の立ち上げから制作までの経緯、現在の反響などを代表の西本美沙さんに伺いました。


意外と知らない女性器の構造を、立体的に説明できるものが欲しかった


撮影中、ばあばるばを持ってパカパカと開いたり閉じたりするランドリーボックス代表の西本美沙さん。とてもいとおしそうでした。

ばあばるば 38,500円。縦23cm、横17cm、奥行き5cm、重量150g ※手作りのため個体差があります。

――このアイテムが誕生したきっかけを教えてください。

西本さん 私たちの会社は、女性の体や性に関する記事を発信しているのですが、それに関連して、編集部で読者イベントを主催しているんですね。その際に、プレジャートイの使い方や体の構造を説明するシーンがあり、これまではイラストを描いたりしていたのですが、皆さんピンときていなくて……。そもそも、自分自身の外陰部を見たことがない人が結構多いんですよね。でも自分の体のことなので、ご自身がしっかり理解する必要があると思っていて、「そうなるとやっぱり立体的な構造のものが必要だね」と社内外からも声が出ていたんです。

 それで調べると、海外にはパペットやプラスチック製の模型のものがあって。でも日本にはないから、作ってみよう! となったのが始まりです。それで、私の母と祖母に頼みました。

――お母さまとおばあさまに頼まれたんですね!

西本さん 実は、現在販売しているものは私の祖母や色んなばあばが作っているんですが、プトロタイプを作ってくれたのは、母と祖母です。今のものとはちょっと違う、ベロア素材のものを作ってもらったのですが、社内メンバーやいろんな人に「めちゃめちゃわかりやすい!」と大好評だったんです。それが2年くらい前で、素材を変えて、祖母にお願いしたのが今年の初めです。

――おばあさまに頼んだのはなぜですか?

西本さん もともと長年、洋裁師をして生計を立てていた人なんです。今93歳で、ちょっと記憶とかはふんわりしてきた部分もあるんですが、作業のときだけはピシッとするんです(笑)。古い工業用ミシンを持っていて、作業のときは目つきが変わって、絶対機械を触らせてくれないんです。職人に戻るんでしょうね。祖母のそういう姿も見たいと思い、「やはり祖母にお願いしたいな」と最終的に思いました。

――すごいですね! おばあさま、お母さまに最初、「このようなものを作ってほしい」とお願いされたときは、驚かれたりしませんでしたか?

西本さん 母に関して言えば、私がずっとこのような女性の体や性に関しての仕事をしているのを知っていて、その内容も共有していたので、「突飛なことを言ってきた」とは決して思っていなくて。母自身が弁護士事務所で働き、労働環境における男女平等を訴える活動にも参加していたがあり、私の仕事に関しても「女性の解放活動だね」と共感してくれています。

 祖母は、母から相談された時は驚いていたそうですが、孫からの依頼とわかると、「また美沙がなんか言うとるんか。ほんならやるわ」って感じでした(笑)。私がデザイン画を描いて、伝えて。ただ、祖母はちょっと認知症があるので、毎回説明してるんですけど、忘れちゃうんですよ。なので、毎回、「性教育で使うんだよ」「誰が使うんや?」を繰り返しながら、婦人科の先生が発信している動画を一緒に鑑賞したりもしています(笑)

 このアイテムの制作を通して嬉しかったのは、祖母と性教育や生理の話をすることができるようになったこと。男女分かれて生理教育されていた、生理用品のつけ方も教わった、でも今みたいなちゃんとしたものではなかったなど、今よりもっと苦労していた時代の話や、祖母がどのような生活をしてきたかを聞いて、この時間がとても貴重だと感じています。

――すごく良いお話ですね! 確かに、自分の祖母の時代のそういう話は聞いたことないです……。

西本さん ですよね。現在、うちの祖母と母、あと二人、知り合いのおばあちゃんと計4人で作ってくれているのですが、いろんな形で携わってくださる方が増えて、世代を超えていろんな輪が繋がっていくといいなと思っています。

“ありえない”色と、可愛い立体感にこだわりました


クリトリスが外れる仕様に。こうやって見ると本当に可愛い!

――これ、すごく大きいですよね。そして、形もそうですけど、色がリアルすぎないところが可愛いですよね。

西本さん そう、“可愛さ”にはすごくこだわりました。実際、綿の入れ具合で立体感がとっても変わってしまい、パンパンに詰めすぎちゃうと可愛くないんですよ。中のひだの部分も、グロテスクになりすぎない工夫をしたりと、そこの調整は大変でしたね。母にできあがったものの写真を送ってもらって、祖母に伝えてもらって調整してもらうことを繰り返しました。

 色に関して言えば、肌色にするのはリアルすぎるし、かといって、ピンクは使いたくなくて。実際、「自分のは、きれいなピンク色じゃない」と、色とか形にコンプレックスを持っている方が少なくないんです。だから「みんなそれぞれ色は違うし正解なんてないんだよ」という意味で、このようなありえない色を選びました。また、これは一つひとつ手作りなので、どうしてもそれぞれ多少のゆがみや形の違いが出るんですが、それにより「形だって皆一緒じゃないんだよ」ってことを伝えられるといいなと思っています。

――デザインでこだわった部分はありますか?

西本さん どうしてもクリトリス部分を取り出せるようにしたかったんです。皆さん、クリトリスを表面的なものだと思っているんですけど、本当はペンギンのような形をしていて神経が張り巡らされているんだよ、というのを説明できるようにしました。そして、取り外しはできても説明するときには取れないように、ゴムバンドをつけました。

 カラダの正しい構造を知ることで、心地よさを理解しやすくなったり、不安を取り除くこともできるんじゃないかなと思っています。

自分の体を知るためのアイテムとして、どんどん広めていきたい

――販売を始めてから、どんな反響がありますか?

西本さん 婦人科のドクターで、動画で発信をされている方が使いたいです、とおっしゃってくださったりしています。あとは、泌尿器科のドクターや性教育に関係している方、フェムケアブランドさんなど体について情報発信をされている方が購入してくださっています。まだ始まったばかりなのでこれからだとは思うんですが、とても嬉しいですよね。

 あとは、教育現場や女の子がいる家族のサポートになれたらと思っています。助産師さんや、性教育団体さん、そして現在海外のセクソロジストの方とも連絡を取り合っているので、横の連携をどんどん広げていきたいと思っています。

――性教育や自分の体を知ることは、まだまだタブー視されているところがありますが、とても重要なことですよね。

西本さん 自分の外陰部を見たことがないっていう人が本当に多いんです。最初に、祖母にこれを作ってほしいと伝えたときも、「これなんや?」と言うので、おばあちゃんのそこにもついているもんや」と丁寧に説明しました(笑)。まず自分の体を知ること、そして知った上でパートナーや家族、大切な人と対話するために、楽しく、わかりやすく伝えられるツールとして、この「ばあばるば」が広がっていくといいなと思っています。

――今後はどのような展開をしていきたいと考えていますか?

西本さん 「ばあばるば」を企画していたときからの構想なんですけど、やっぱり男性器もセットであるといいなと思っています。

 他にも言葉だけじゃ理解しづらかったり、とっつきにくいと感じているものを、わかりやすく楽しく伝えるためのアイテムや、対話できる場を検討していきたいと思っています。

制作者・西本さんのおばあさまより
「女性が自分の体を知ることは大事」

「私たちの頃は、学校で生理のことは習ったけど、親とも友達ともそんな話をしたことはなかったね。生理用品も今よりもずっと品質が悪かったからよく経血が漏れて下着が汚れたし、そうなったら隠れて洗っていて、生理痛がひどくても我慢して、周りに言ったことはなかったよ。女性が自分の体のことをしっかり知るのは、自分のことなんだから、とても大事だと思います」

ばあばるば

https://laundrybox.jp/products/ba-vulva/


西本美沙(にしもと・みさ)

大学卒業後、PR会社を経て2011年にドワンゴ入社。広報・宣伝業務を担当。会社勤めの傍ら始めたブログをきっかけに、女性の体や性を取り巻く環境に対する関心が高まり、ウェブメディア「ランドリーガール」を開設。2019年、生理など女性の悩みに特化した記事やアイテムを提供する「ランドリーボックス」を設立。

文=増本紀子(alto)
撮影=深野未季

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