【大船ひとり飲み】「焼鳥 こばし」でナチュラルワインと絶品焼鳥を。〆は滋味豊かなスープ茶漬け
CREA WEB / 2024年12月9日 11時0分
鎌倉で旦那さんと暮らしながら、ハワイや沖縄、もちろん東京でも料理の本を作ったり、取材をしたり。料理編集者・赤澤かおりさんは、どんなに忙しくても元気いっぱいなのです。
忙しい毎日のなかで、ほっとするのはやっぱり、地元・鎌倉に戻って、もしくはおうちで目一杯働いて、お酒を飲む時間。基本的に前々から予約をとるよりも、その日のお腹に聞いて食べたいものと飲みたいものを求めて出かけます。
ふっと時間が空いたとき、ひとりでふらりと出かけた鎌倉で、女性ひとりでお酒を楽しむなら? 今回は鎌倉駅から横須賀線で2駅の「大船」。ラストは予約して行きたい素敵な焼鳥店です。
“串は骨”。備長炭で魂込めて焼かれた焼鳥
初めてここを訪れたのは確か8年ほど前。おいしいものをよく知る近所の酒屋さんご夫妻に連れてきていただいたときでした。一歩進むごとに「安いよ、うまいよ、今だけだよ」と威勢のいい声がかかる商店街を1本脇に逸れた雑居ビルの2階、スナックなどが軒を連ねるそこに「焼鳥 こばし」は、ひっそりと佇んでいました。
細長く、人が一人後ろを通るのがやっとな店内は、入った瞬間から炭火で焼いた鶏のいい香りが充満していて、その匂いだけで呑めるなと思ったことを思い出します。そのとき店主である小橋武史さんにいただいた“串は骨”と記された名刺に、おいしいだけならず、一本筋が通った仕事をなさっているのだなと感じました。
それから程なくして近所の、これまた雑居ビルに移転。今度は広々とした店内。窓もあり、チラリと大船の街並みもうかがえます。そんなここへたどり着くのはなかなか大変で、初めての方はたいてい迷われます。待ち合わせをすると、必ず「今どこ?」となるんです。
理由は、お店の入口に辿り着くまでに、ビルの入り口が3つあるからというのと、細い裏道2本に挟まれているから意外とぐるぐる迷路のようになりがち!? というところでしょうか? なぜだか皆迷うんです。
そんなたどり着くまでのやり取りもなんだか楽しい焼鳥屋さん。最初に訪れたとき、とにかく衝撃だったのは、焼鳥というものが、こんなにもおいしいものだったということ。本当のおいしさを知ってしまったようで、そこからずっと私はここでしか焼鳥を食べていません。
カウンター越しに小橋さんの生き方が伝わってくる
メニューは、かしわ、つくね、はつ、せせり、さび、血肝、手羽先、かっぱに加え、季節の野菜焼き、そして〆の卵かけご飯、そぼろご飯、焼鳥丼、スープ茶漬け。私の場合、いつも焼きはおまかせでお願いし、お腹がいっぱいになったところで、そろそろ〆たい旨を伝える感じ。好きな部位をそのつどお願いするのもありです。
コの字型のカウンターの向こうでは、焼きのときに使用するうちわを背中にさし、焼き場の前で炭の具合や火加減にまで細かく目を配りながら、お客さんのお皿やグラスの空きをチェックし、ときにはお客さんとの会話も楽しみ、さらにはお店でかけているレコードを返すことまで、いつどうやって気づくのだろうというくらい隙がない華麗な動きの小橋さんが。
それを眺めながら次は何が出てくるかなぁと、お酒を飲みながら待つのがいい時間です。ここで飲むお酒はほぼ、私の場合、グラスの白ワイン。ワインは自然派ワインなので安心しておまかせのものをいただいています。
それ以外にもビール、ハイボール、日本酒、焼酎、サワー関係などまでいろいろあり。ですが、断然、ここでは白ワイン派。で、血肝のときだけ薄めの赤をお願いしています。これがまた、肉汁がジュワッと広がる香ばしい焼鳥によく合うんです。
ちなみにこちらで使っている炭は紀州の土佐備長炭。器は小橋さんが岡山出身ということで備前焼き。と、これもまた隅々までピシーッと行き届いている感じが気持ちいい。
そもそも小橋さんは焼鳥の道に入る前はさまざまな職業についていたそうで、DJをやられていたこともあれば、衣装の仕事をしていたこともあったそうで、そんな最中に東京・渋谷の焼鳥屋さんの手伝いをしたことから焼鳥の奥深さにハマってしまい、東京・西麻布のとある焼鳥屋さんに修業に行くまでになったんだそう。
そしてついには就職もやめて、焼鳥の道へと突き進んできたというわけ。人生、何があるかわからないもんですね。
でも、自分の興味の先を信じてスッと人生のベクトルを動かせる人はカッコいいし、清々しい。このピシッと美しく行き届いている感じは、小橋さんの潔い生き様そのものという気がしました。
最後はやさしい味わいのスープ茶漬けで〆
“串は骨”と書かれた名刺の言葉通り、今もなお小橋さんは開店ギリギリに骨をはずし、そこから串を打つのだそうです。それは、なるべく直前まで骨をはずさないことで鮮度を保っておきたいという思いから。
焼きの加減を見つめる目線はまるで獲物を狙う動物のような鋭い研ぎ澄まされたもので、そのときばかりは私もあまりくだらない話を持ちかけないようにしようと心がけております。
ついうっかり、話しかけたときがあったんですが、そのときの小橋さんはまるで夢から覚めたかのような「あ、あれ?」というドッキリ顔でこちらを向いたことがありました。それくらい集中しているということなんだと、そのとき気付かされました。すいませんでした~。
お酒の話に戻りますが、ワインを飲むとき以前はボトルで頼んでいました。けれども最近は、焼いてもらった部位に合わせてというのが気に入っています。1本で1杯のみ切れるときもあれば、そうでないときもありますが、なんとなくゆるめにペアリングしてもらうのも最近の楽しみです。
お酒を飲んだ後、〆ないという人もいるという話をたまに聞きますが、私は断然〆る派。もう1軒行きたい場合でもお店ごとに〆てから次へと向かいます。ここではいつも鶏スープか、お腹に余裕があるときはスープ茶漬けを。ダンナが一緒のときは、卵かけご飯かそぼろご飯を半分こにしています。
ところでこのスープ! これがヤバイ。ほんのりきいた塩味の奥に広がる鶏スープのやさしい味わいは、胃袋を温め、包み込み、またはじめから飲み直せるくらい。どんなに飲みすぎたなーというときでも、このスープを飲めば立て直しできるので、ここでは鬼に金棒、くらいの気持ちで気持ちよく飲んで、食べちゃってます。
焼鳥 こばし
所在地 神奈川県鎌倉市大船1-20-14
電話番号 0467-37-6803
営業時間 17:00~22:00
定休日 日曜、月曜
Instagram @yakitorikobashi
赤澤かおり(あかざわ・かおり)
料理雑誌の編集部を経て、フリーランスに。料理と旅の編集者として活動。料理本のほか、30年以上通い詰めるハワイについての執筆、単行本編纂も多数。近著に「人生にはいつも料理本があった」(筑摩書房刊)、編著に「いざ、豊島屋」(KADOKAWA刊)。
Instagram @kaoriakazawa.akalohasunny
文=赤澤かおり
写真=榎本麻美
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