中村莟玉の一番の“やる気スイッチ”とは? 人気漫画『応天の門』の舞台で見せる「ひと味違う顔」
CREA WEB / 2024年12月7日 11時0分
2019年に人間国宝・中村梅玉さんの養子となり、立役、女方の両方の役で活躍している中村莟玉さんは歌舞伎界の次世代を担う一人。NHKのラジオ番組「カブキ・チューン」ではパーソナリティーを務め、高いトーク力を発揮している。
そんな彼が歌舞伎以外の舞台に挑むのは、舞台『応天の門』。前回の朗読劇に続き、2度目となる。フレッシュでキラキラした笑顔の素敵な彼がこの挑戦への思いを語る。
歌舞伎ではやったことのないような役どころ
――舞台『応天の門』は漫画を原作としたもので、宝塚歌劇団でも2023年に上演されています。今回は脚本も、演出も異なりますが、宝塚歌劇団の舞台はご覧になっていますか? 原作を読まれた感想などもお伺いできればと思います。
宝塚版の「応天の門」はご評判が耳には入ってきてはいたのですが、残念ながら時間が合わず拝見はできませんでした。
原作は、今、まさに読ませていただいているところです。僕はもともとミステリーや謎解き系のストーリーが好きなので、楽しませていただいています。小さい頃から、親が買ってくる本も、江戸川乱歩とかコナンドイルの作品が多くてそれを読んでいましたし、アニメも『名探偵コナン』が好きでよく見ています。ですから、自分の好みにぴったりの作品だと思います。
――莟玉さんが演じるのは紀長谷雄(きの・はせお)ですが、この人物をどのように捉えていますか?
歌舞伎ではやったことのないような役どころなので、すごく楽しみです。おっちょこちょいですし、欲に負けてしまうタイプで、人にすぐ頼ったり、甘えたりするというおかしみのある三枚目のキャラクターです。歌舞伎で日頃演じているお役は普段の自分とはかけ離れているのに対して、今回の紀長谷雄というお役は、自分に近いものを感じています(笑)。
『刀剣乱舞』ではお姫様のお役も挑戦
――これまでに出演された古典歌舞伎や新作歌舞伎で経験し、培ってきたものが自分にとって新しい引き出しになったと思えたような出来事はありましたか?
新作の歌舞伎では、どこまでが歌舞伎で、どこからが新しいチャレンジなのかという線引きが、何度経験しても難しいです。例えば新作歌舞伎『刀剣乱舞』の場合は、登場するキャラクターにそれぞれファンがいて、ファンの皆さんは自分が推しているキャラクターに対して“こういう人物だ”というしっかりとしたイメージを持っていらっしゃいます。
ですから、“歌舞伎で演る場合はこの人物をこういう風に表現しますよ“というものをどの程度受け容れていただけるのか、その加減がとても難しかったです。キャラクターの素振りや決め台詞だけにフォーカスして演じると、上辺のお芝居になってしまいます。キャラクターの根っこの部分をしっかり捉えて、こういうときはこういう反応をするだろうな、と想像力を働かせて台本に書いてないところも作っていかなければなりません。
僕は『刀剣乱舞』でお姫様のお役も演じたのですが、歌舞伎に登場するお姫様をそのまま演じると、『刀剣乱舞』の世界観には馴染みません。刀剣男士たちがタイムワープして、古典歌舞伎で描かれるような時代にいるという状態なので、古風な中にモダンさもあるからです。
どのようなお姫様像であればマッチするのかを調整するのはすごく難しかったのですが、とてもやり甲斐がありました。新作歌舞伎に出演するということは、古典の作品をいかに勉強しているかということが試される場だと僕は思っています。
――『応天の門』はいわゆる時代劇ですが、ご自分がこれまでになさったお役でイメージが浮かんだものはありますか?
『応天の門』を歌舞伎のジャンルでいうとしたら、「書き物」と呼ばれる近代に描かれた「新歌舞伎」寄りのものですね。歌舞伎にもおっちょこちょいなキャラクターはいるので、それが手本になるのかもしれませんが、僕自身は今回は歌舞伎的な演技にはこだわらずに、共演者の皆さんに溶け込めるような挑戦をしたいと思います。とはいえ、自分の中には歌舞伎で培った引き出ししかありませんので、その引き出しから求めていただいたものだけをうまく出せたらいいのかなと思います。
衣裳も普段の歌舞伎とは違うものの、歌舞伎にもあるような構造の衣裳でした。実際に衣裳を着たときの所作などは自分の強みとして生かしてみたいです。
――今回の共演される方々にはどんなことを期待されていますか?
花總まりさんは宝塚歌劇団に在籍されていた頃から拝見していて、退団されてからの舞台も何作か観させていただいております。そのような方とご一緒できるなんて、思ってもみないことでした。とてもうれしいです。
また、佐藤流司さんは舞台『NARUTO』のうちはサスケやミュージカル『刀剣乱舞』では加州清光役をなさっていますが、どちらも歌舞伎化されていて、僕もお役は違えど同じ作品に出演しています。以前、共通の知り合いの方のご紹介で舞台を拝見して、ご挨拶したことがあります。ご縁のある方との共演なので、楽しみにしています。
中村梅玉が率いる高砂屋一門の魅力
――これまで出演されてきた作品で、学びを得たことが実感できたエピソードがあれば教えてください。
毎度、舞台に立たせていただくたびに学ばせていただいていますが、2024年2月に御園座で『三人吉三巴白浪』のお嬢吉三とお坊吉三を勤めさせていただいたことで、歌舞伎作品の主役というものを初経験させていただきました。いわゆる芯のお役として舞台の真ん中に立ったときに見える景色は違うものなのだと思いました。
特にお嬢吉三はお坊吉三が出てくるまでの“間”というものが自分次第で、その感覚が気持ちよくもあり、孤独でもありました。お嬢吉三を演じる先輩を拝見して、“格好いい”と思っていたのは、この孤独を背負っている瞬間が格好いいのだろうなと思いながら演じました。
――時間を忘れるほど、夢中になれることはありますか?
僕は結構時間を忘れがちでして、芝居のことを考える時は、大概時間を忘れています(笑)。それこそ映画を見たり、本を読んだり、パンダを見たり、どれも気がついたら時間が経っていることばっかりです。僕の人生はずっとこういう感じなのですが、癒しということでいえば、家の中でできることが好きですね。
今はシャンシャンが中国にいるので、“今日のシャンシャンはこんな感じだった”という動画をチェックしています(笑)。気がついたら数時間経ってしまって……。ネットの海へこぎ出してしまうと、なかなか戻ってこられない。だいぶ時間が溶けています(笑)。
――莟玉さんがこれからの人生で目指している目標としてどんなことを抱いていますか?
父(中村梅玉)が率いる高砂屋一門は、父がおおらかなタイプなので、まったり、ふんわりしていて、それが僕らの家の魅力だと思っています。ここで育てていただいたからこそ今の自分があると思いますが、時間を忘れがちな僕は意識的に危機感を持っていなければ行動に移せないとも考えています。
具体的には僕自身のことというよりは、父が元気で、父の目が届くうちに、一門の中で整備しておくべきことをきちっとしておきたいです。また、「高砂会」のような一門全体で取り組む勉強会にも引き続き挑戦していきたいです。「高砂会」を開催したことで、歌舞伎界全体を応援してくださっているお客様が、我々高砂屋一門にはどんなことを求めてくださっているのかがくっきりと浮かび上がったような気がしました。父がいるうちに回数を重ねて深めていきたいです。
今はチャンスがある限り、いろいろなことに挑戦させていただいて、最終的には、父に“あいつにあのとき冒険をさせてみてよかった”と思ってもらえるような成果を出す。その思いが僕にとって大きな原動力になっていますし、1番の“やる気スイッチ”なっているのかなと感じています。
中村莟玉(なかむら・かんぎょく)
1996年9月12日生まれ東京都出身。2004年3月中村梅玉に入門、2019年に中村莟玉と改名し、梅玉の養子となる。女方、そして立役も勤め、将来の歌舞伎界を担うと期待されている。古典歌舞伎はもちろん、新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』新作歌舞伎 『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』などにも意欲的に取り組む。明治座には朗読劇『細雪』以来の出演となる。
文=山下シオン
写真=佐藤 亘
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