「女性として見る気が起きない」→「じゃあ、やってみろ」入社6年目で抜擢、THE Wプロデューサーが語る“舞台裏”
CREA WEB / 2024年12月10日 11時0分
配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。
今回は『1億人の大質問!? 笑ってコラえて!』『with MUSIC』『おしゃれクリップ』 などに携わり、入社6年目にして『女芸人No.1決定戦 THE W 2024』のプロデューサーに就任した片岡明日香さんにお話を伺いました。(前後篇の前篇/後篇を読む)
「女性として見る気が起きない」「じゃあ、やってみろ」
――今年の『THE W』のプロデューサーに就任されました。片岡さんは入社6年目とのことですが、『THE W』にはいつから携わられているのでしょう。
2021年からなので、4回目ですね。ずっとディレクターで、今年はプロデューサーと兼任です。
――お仕事としてはどういう違いがあるんですか?
『THE W』のディレクターの主な業務は、各ファイナリストを担当することです。私の場合、加入2年目からファイナリストを担当していて、2年目でエルフさん、3年目でハイツ友の会さん、4年目の今年はまたエルフさんを担当してます。ほかにも記者会見の演出、事前番組やPRを作ったり、本編で流すVTRを作ったりという仕事もします。
――6年目で大型コンテスト番組のプロデューサーというのは結構な抜擢なのではないでしょうか。
でも、DのときからPっぽい仕事をしていたんです。Dとしての業務にプラスアルファで、『THE W』が『キングオブコント』(TBS)や『M‐1』(テレビ朝日系)ぐらい知名度を上げるためには何をすべきか、自分から手を挙げて、宣伝戦略をやらせてもらっていました。
――具体的にはどんなことを?
なんというか、以前の『THE W』はロゴからセットからCGワーク、テロップ、細かなパーツに至るまで、男性が考える“女性が好みそうなトーン”だったんですよね。演出が全員男性だったので。
――いわゆる“ダサピンク”的なものですかね。
そうです。女性性を変に強調しすぎていて良くないと思ってました。賞レースとして『M‐1』や『KOC』に並ぶ、価値のある大会にならないと、女性芸人のためにもならない。そのために演出をもっと変えたほうがいいと思っていて、関わるようになった最初の年から、放送後の反省会でスタッフが提出する紙に「本当にダサい」「女性芸人を変に括っている」「女性として私は見る気がしない」って罵詈雑言を書き続けていました(笑)。
さらに「『キングオブコント』や『M‐1』はこういうSNS戦略をやっているけど『THE W』はやっていない」「ビジュアルはこう変えたほうがいい」「こういうPRをしたほうがいい」って勝手に分析して、資料を作って提案もして。あまりにあれこれ言いすぎて、去年「じゃあ、やってみろ」ってことになったんです。
それで去年からロゴもセットも変えさせてもらって、ファイナリスト1組1組がバキッと決めたポスターも作って、メインビジュアルをちゃんと打ち出すようにしました。
――たしかに一昨年までと比べるとガラッと変わっています。
昔はファイナリスト記者会見の衣装も、全員が白シャツにピンクのスカーフで「なんの制服!?」って。それだと女性芸人の個性がわからないじゃないですか。大会として知名度が低いから、衣装で統一感を見せるという意味では効果的かもしれないですけど、出てくれる女性芸人たちからするとあんまり嬉しくはないですよね。
――今年の会見はそれぞれ個性的な衣装でした。
スタイリストチームと直接話して「全体としてはこういうトンマナで」「この人はこういう衣装で」って、全部決めました。それぞれのファイナリストのネタ衣装から発想しています。ポスターに関しても、カメラマンもデザイナーも自分でアサインして、自分だけのチームを勝手に作ってやっています(笑)。ちなみに全員女性です。
「改革」はなぜ受け入れられた?
――クリエイティブ・チームですね。そういう動き方は上の人たちにはすんなり受け入れられたんですか?
上に恵まれていて、「やってくれるんだったら、好きにしていいよ。お前に任せる」という感じでした。あまりに変えよう変えようと言いすぎて、ウザすぎたんでしょうね(笑)。 なので、最初の認識は、「片岡がまた変なこと言い出して勝手に何かやってるぞ」だったんですよ。特に期待もされていなくて、むしろ周りからは笑われているような感じで。
でも私はガン無視で、とにかく『THE W』を立て直したかった。私が怖かったのか、仕上げてきたものが思いのほかよかったのか、途中から何も言われなくなりました(笑)。
――ポスター以外には、どんな施策を?
2023年は、ロゴの変更、メインビジュアルの作成、HPの刷新など、とにかくビジュアル周りを変えました。ポスターは、SNSでのインプレッション数も良かったですが、それ以上にファイナリストのみなさんが本当に喜んでくれたことが嬉しくて、泣きそうになりました。
放送当日はファッションや広告を撮っているカメラマンをアサインして、大会の裏側写真をリアルタイム更新していく施策を実施しました。『THE W』の裏側ってみんな穏やかで素敵な面もありながら、やっぱり本番前の舞台袖はピリッとかっこいい顔になる。1年目でそのギャップに本当に感動したんです。視聴者のみなさんにも女性芸人のめちゃくちゃかっこいい姿を見てほしくて。
今年は昨年とはガラッと変えた雰囲気のメインビジュアルを作ったんですが、昨年を超える好評をいただきました。去年で実績を作れたからか、お金を出してくれて(笑)、渋谷のセンター街付近にも掲出しています。あとは、心をぐっと掴まれる芸人さんの写真を撮っていらっしゃる、かが屋の加賀(翔)さんに公式カメラマンとして入っていただいています。
――おっしっていた通り、プロデューサーに抜擢される前の2023年の時点で、やっていることがディレクターの業務の範疇を超えていますね。
多分テレビ局より広告代理店のほうが向いてますよね(笑)。芸人さんが大好きなので、どうすれば芸人さんが最大限のパフォーマンスを発揮できて、それがテレビやネットで観ている人に届くかを考えて、やれる施策をやったつもりです。
――数多の賞レースがある中で、『THE W』ならではの良さはどこだと考えられていますか?
ある意味賞レースらしからぬところこそが良さですかね。賞レースというとすごくピリピリしていて、それこそ『M‐1』や『KOC』は「人生かかってる」みたいな緊張感があるじゃないですか。『THE W』の裏って、すごい穏やかなんですよ。芸人さんたちもすごく朗らかで、みんな互いのことを尊重し合っていて。でもぬるいっていうわけじゃなくて、みなさんそれぞれのスイッチがある。
だからスタッフも芸人さんがいちばん気持ち良くやれるように、と動いているところがあります。今のところスタッフは男性が多いのですが、接するのは女性芸人さんなので、細部のケアもすごく大事で、リハの段階での声の盛り上げ方や物出しのケアなども気を配っています。
――「女性芸人も男性芸人も関係ない」という意見は根強いと思います。そして真にフラットなら、“女性”に限定する『THE W』の意義とは?という話にもなってくると思うのですが、そのあたりはどう考えていますか。
そこは難しいところだと思います。でも、男性優位とされてきたお笑い界の中で、女性芸人は勝負できる表現の幅が狭かっただけで、元々ポテンシャルはあった。だから『THE W』を女性だけの大会にしたことで、そういう本来の能力が遺憾なく発揮できるようになったと思っています。
ただ、個人的には、これは自分が女だからかもしれないですけど、「女のほうが面白い」って思うんですよ。女のほうが複雑でわかりにくくて、奥深くて、面白くないですか?
女のほうが「面白い」と思うワケ
――その意見はとても面白いです。今のお笑いは男性社会がベースになっている部分がまだまだ大きいですし、この連載でもそう言い切る方はこれまでいなかったと思います。
そうなんですか。女性芸人のほうが、ネタでいえば「この人がこんなネタ作るの!?」って複雑性があるし、人間性に関しても「この人はこういう人」というイメージに対して「こんな一面もあったんだ」って発見があるんですよ。女性芸人のほうが奥深くて、それが面白い。
私はディレクターとしてエルフさんを2回担当してるんですけど、荒川さんは見た目は超ギャルなのにとても真面目。すごく考えていらっしゃって、頭の中がすごく複雑なんです。今年のファイナリストになったキンタロー。さんも、あんなに面白いのに実は内面がめちゃくちゃナイーブでネガティブなところがあったり。そういう複雑さや意外さ、奥深さのある人がゴロゴロいます。
だから『THE W』は密着番組をやったほうがいいと思っているんです。
――『M‐1』の「アナザーストーリー」みたいな。
そうそう。『M‐1』はとにかく「勝ち」に向かって行くストーリーだから結構わかりやすくて、その分、見やすいんですよ。でも『THE W』は多分もうちょっと複雑なんです。「こういうキャラで売っている芸人が、実はこういう素顔があって……」みたいな複雑性を描ける。そういう挑戦を今後してきたいですね。
――『THE W』の賞レースとしての存在感は年々増していると思います。失礼ながら初期は「自前の賞レースから新しいスターを発掘したい」という局側の狙いを感じる部分が大きかったですが、今は本当に女性芸人が「優勝したい」と思う大会になってきている気がします。
自分は立ち上げからは参加してないのですが、そういうところは少なからずあったでしょうね。でも結果として、ポテンシャルが高いにも関わらず、勝負できる表現の幅が狭かった女性芸人が、注目される場になりつつある。
出場者の数が増えて準決勝もどんどん面白くなってきていると私は感じるし、去年優勝した紅しょうがさんのネタにしても、私が『THE W』に入った年より去年のほうが格段に面白かった。紅しょうがさんは負けても負けても出続けてくれました。それは『THE W』を獲りたかったから。もともと面白かったけど、東京に来て『THE W』を獲って、今大ブレイクしていらっしゃいますよね。
歴代の優勝者を見ても、ちゃんとこれから売れる芸人が優勝できる大会になっていると言われていて、嬉しいです。
プロデューサーとして分析する、『THE W』の特徴
――プロデューサーとして「『THE W』はここに期待してほしい」と思うポイントはどこですか?
マジで何が起こるかわからないところですね。例年そうですけど、今年は本当にわからない。『M‐1』は波があるじゃないですか。前の組が爆発したら、そのあとは荒れ地になってしまう……とか、そういう波というか流れがある。『KOC』もそうです。
でも『THE W』は漫才やコント、ピンと、なんでもありなので、どの出順でも起爆剤になれる。一点突破の爆発力で裏返せる大会なんですよ。
――それは勝ち残りノックアウト方式だからでしょうか。
それもあります。Aブロックの1組目はどうしても不利に見られがちだけど、それでもとにかく強くて爆発力があれば、続く2〜4組目とどちらに入れるか迷ったときにその爆発力が忘れられない審査員は1組目に投票するんですよ。
それに、女性芸人って流れに釣られないんですよね。自分たちでそれぞれに独立していて、前の組が作った波に飲み込まれてしまわない。だからAブロックの1組目でも勝ち抜ける。流れと関係なく、とにかく純粋にネタが面白かった組が勝つ。それってめちゃくちゃかっこいいですよね。
――大会の裏側は朗らかで穏やかでありながら、勝負の場面ではそれぞれが流れに飲まれないというのも複雑で面白いですね。
今年は特に、誰が大爆発するのか、本当に全然わかりません。でも全員大爆発してほしいし、この大会をきっかけにほかのところでも見つかってほしい。スタッフはみんな、そう願ってます。
片岡明日香
日本テレビ番組プロデューサー・ディレクター。2019年日本テレビ入社。担当番組は『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』『with MUSIC』『おしゃれクリップ』『女芸人No.1決定戦 THE W』『THE DANCE DAY』『THE MUSIC DAY』『欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞』など。
文=斎藤 岬
写真=平松市聖
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