犬好き集まれ!カリフォルニア「カーメル・バイ・ザ・シー」は童話のような家並みがかわいいドッグフレンドリーな街
CREA WEB / 2024年12月14日 11時0分
#315 Carmel by the Sea
カーメル・バイ・ザ・シー(米国・西海岸)
5年前、シエラネバダ山脈の麓から海へ向かう道はカラカラに乾いていました。見るものすべてがまるで火星のようなサンドベージュ。そして今回ご紹介するカーメル・バイ・ザ・シーの街に入った途端、がらりと景色が変わりました。街路樹の木漏れ日の中にまるで童話のように愛らしく、美しい街が目の前に広がりました。
カーメル・バイ・ザ・シーはカリフォルニア、モントレー半島の南に位置する太平洋に面した小さな街です。サンフランシスコの南約190キロ、ロサンゼルスの北約530キロ。通称カーメルと呼ばれるその街は、いわゆる“カリフォルニア”のイメージとは少し違うかもしれません。
かつてはジャガイモ畑以外何もなかったというこの地。それが20世紀に移り変わろうとする頃、カーメルを開発していた会社が100本のサイプレスの木を植林したのが、そもそもの始まり。
そして1906年に起きたサンフランシスコ地震によって、モントレー半島北部のセンターランドに暮らしていた作家たちがカーメル・バイ・ザ・シーに避難してきました。そうした作家の中にはジョージ・スターリングやジャック・ロンドンといった顔ぶれも。サンフランシスコの新聞にも「芸術家や詩人が集まる街」として、紹介されました。その後もアーティストたちが集まってきたようです。
そして童話のような街並みが形成されたきっかけは、建築家でも大工でもない若者ヒュー・コムストックが妻のために建てたコテージでした。彼の妻の手作りの“オッツィ・トッツィ”人形コレクションを収容するためのコテージが、実にユニークだったのです。
丸い窓、石造りの煙突、木製のゴミ箱…童話の世界みたい!
それは37平方メートルほどの広さで、木の瓦屋根に丸みをおびた軒、丸いドアや丸い窓、石造りの煙突がちょこんとのった、まるでドワーフたちが暮らすキノコの家のよう。価格が100ドル以下だったことも手伝って、みるみるうちに彼のコテージは大人気に。
やがて“コムストックス”という、この街のシグネチャー・スタイルとなったのです。現在も当時のコテージが21棟、残っているそうです。
そのほかにもカーメル・バイ・ザ・シーにはフランク・ロイド・ライトやチャールズ・サムナー・グリーンといった建築家が手掛けた家が残されています。
この街の市長には詩人や作家、俳優など、ユニークな人物が選ばれてきました。1986~1988年には、映画俳優クリント・イーストウッドがこれを務めました。
市長となった稀代の名優はまずネオンサインや派手な看板、信号機のない街づくりを目指しました。道路標識から街角のゴミ箱まで木製で統一。おかげで世俗的なものが目に入らない、より童話的な世界に近づくことに。
また、安全なコミュニティを大切にするため、各戸には番地がありません。住民は街の中心部にある郵便局の私書箱へ自分の郵便物を取りに行くルールです。配達物を取りに行ったついでに住民どうしで会話を交わし、郵便局は街の社交場でもあったわけです。
カーメル・バイ・ザ・シーの街は小さく、メインストリートであるオーシャン・アベニューも、20分も歩けば終わってしまう短さです。そんな小さな街のあちこちに、ワイナリーやギャラリーを見かけます。角を曲がればそこにある、という感じ。
夕暮れ時になると、地元の人がワイナリーのテイスティングルームに集って、わいわい、がやがや。ラブラドールレトリーバーなどの大型犬も住民の輪に加わってリラックスしているもよう。
夕暮れビーチは犬たちの社交場に
オーシャン・アベニューはカーメルビーチへと続いています。サンセットタイムには愛犬を連れた住民やツーリストも一日の最後を迎えるために集まってきます。犬を連れた女性に声をかけてみると、サンフランシスコから車で3時間かけてやってきたとか。
カーメル・バイ・ザ・シーでは路上駐車している車も目を引きます。ベンツやポルシェ、テスラなど、高級車がずらり。でも、この街にはインターナショナルな展開をしている高級ホテル・ブランドは皆無。どれもインディペンデント系のスモールラグジュアリーなホテルなのです。
そのひとつ、「ローベルジュ・カーメル」は1929年に建造、20の客室は同じデザインは2つとありません。そしてルレ・エ・シャトーのメンバーであり、美食にも定評があります。
5年前に訪れた際、キッチンをまとめあげていたのはイケメン料理長ジャスティン・コグリーさん。その時は海苔を6時間低温で煮込んだ“ノリナード”をソースに使い、コールラビをフィットチーネのように仕立てるなど、クリエイティブな料理にびっくりの連続でした。
そしてジャスティンさんの経歴にさらにびっくり。なんと“ディズニー・オン・アイス”のフィギュアスケーターだったとか。アジア、オーストラリア、ヨーロッパをツアーで旅して新しいフレーバーに出会い、料理に開眼。米国へ戻ってシェフになったそう。
当時、ジャスティンさん率いるレストラン「オーベルジーヌ」はミシュラン1つ星でしたが、2024年に2つ星に昇格したようです。
コミュニティの一人ひとりが自分の街を愛し、つながっているカーメル・バイ・ザ・シー。個人主義のイメージがあるアメリカで、夢のある街を発見した気分です。
カーメル・バイ・ザ・シー
●アクセス アクセス サンフランシスコ国際空港から車で約2時間30分
●おすすめステイ先 ローベルジュ・カーメル
https://laubergecarmel.com/
取材協力
カリフォルニア観光局 https://www.visitcalifornia.com/jp/
古関千恵子(こせき ちえこ)
リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●Instagram https://www.instagram.com/chieko_koseki/
文・撮影=古関千恵子
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