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【モネの<睡蓮>】「みんなが好きだから好きじゃない」と10代の頃は思っていたのに…なぜここまで愛されるのか?

CREA WEB / 2025年1月4日 11時0分

 国立西洋美術館(東京・上野公園)で展覧会「モネ 睡蓮のとき」が開催中です。

 印象派を代表する画家のひとりであるクロード・モネ。世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館と国内の美術館が所蔵する珠玉のコレクションから、〈睡蓮〉を中心とした全64点が展示されています。

 この展覧会に、作家の一色さゆりさんが訪れました。ギャラリー・美術館勤務を経て、現在数々の「アート小説」を手がける一色さんに、モネの〈睡蓮〉の魅力についてお聞きしました。(前後篇の前篇。)


小説家の一色さゆりさん。 ©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

――展覧会「モネ 睡蓮のとき」を訪れた感想をお聞かせいただけますか?

 どこを向いても、どこを見ても〈睡蓮〉の連作に囲まれて、まるで〈睡蓮〉を描くことに没頭していた、晩年のモネのアトリエに迷いこんだようでした。こんなにたくさんの〈睡蓮〉を一度に見たことはなかったので、圧倒されるとともに、貴重な機会だと実感もしました。

 もちろん、パリに行けば、マルモッタン・モネ美術館(本展で紹介されている全64点のうち、およそ50点を所蔵しています)の他、オランジュリー美術館など〈睡蓮〉を一度にたくさん堪能できる場所はありますが、日本だと滅多にない。

 その分、「〈睡蓮〉だ!」と気合いを入れて鑑賞してしまいがちですが、今回は贅沢にも全方位から〈睡蓮〉に包まれモネの世界に浸ることができるので、気負う必要がありません。

 だからこそ〈睡蓮〉の本質に迫りやすいというか、真髄に触れられる展覧会だと思います。

老年期のモネの「狂い咲き」のような変化が好き

――印象に残っている作品はございましたか?

 たとえば、《睡蓮》(習作)(カタログの作品番号22)などは、思わず写真を撮ってしまいました。

 モネの〈睡蓮〉には、絵具が塗り重ねられているからこそ、重層的な世界が生まれるという特徴があると思っていましたが、この習作は、カンヴァスの地のうえに絵具の線がひかれているだけの、未完成なまま。

 完璧主義だったモネなら廃棄しかねないような状態だからこそ、モネの息遣いが聞こえてくるようで、貴重な一点だと思いました。


©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

 印象に残った章は、2章と4章です。2章「水と花々の装飾」では、アイリスやキスゲ、藤やアガパンサスなど、モネが暮らしたジヴェルニーの「水の庭」に実際に生息していた植物の絵が集められていて、モネの庭や植物への愛を感じました。

 また4章「交響する色彩」では、もはやタッチが荒くほどけすぎて、なにが描かれているのか分からない晩年の絵が並んでいます。晩年のモネが、人生の悲喜こもごもを経験し、視力や体力の低下に悩まされるなかで、それでも絵筆を握って描きつづけた、芸術家としての執念のようなものを感じました。

 マティスやデ・クーニングも同じですが、老年期にどんどん自由になって狂い咲きのような変化を果たしたものが、個人的に好きなんですよね。


©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

じつは、10代の頃はあまり好きではなかった

――今回の展覧会の見どころの一つに、楕円形の部屋の壁面に〈睡蓮〉がずらりと並んでいる3章「大装飾画への道」があります。そこをご覧になっての感想をお聞かせください。

 あれ、ここは外なの? と一歩足を踏み入れたときに勘違いするくらい、自然光に近い照明になっていて、気持ちがスッとする展示室になっていると思いました。まるで〈睡蓮〉のなかに閉じ込められた、花の香りのする風が吹き抜けてきそうでした。

 また、楕円形になった壁は、オランジュリー美術館の有名な〈睡蓮〉の「大装飾画」の展示室に迷いこんだようにも感じますね。


©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

――モネの〈睡蓮〉を今回ご覧になって、新たな発見はございましたか?

 とにかくいろんな〈睡蓮〉があるんだな、というのがはじめの率直な感想でしょうか(笑)。あとは、自分自身の変化に気がつかされました。

 私は10代の頃、「モネの〈睡蓮〉は、みんなが好きなんだから私は好きじゃない」みたいな天邪鬼だったんです(笑)。でも今は30代後半にさしかかって、受けとる印象が変わったように思います。

 素直に「美しいな」と感じますし、じつはその万人に認識される「美しさ」を表現することが、いかに難しいかということも理解できるようになりました。だからモネの凄さに、改めて圧倒されましたね。同時に、自分も年を重ねて丸くなったんだなと思いました(笑)。


©文藝春秋 「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024-2025年 報道内覧会時撮影

※記事中では、シリーズ(モネが描いた絵の総称)としては〈睡蓮〉、個々の題名は二重括弧で括って表記しています。

モネ 睡蓮のとき

会期:2024年10月5日[土]~2025年2月11日[火・祝]
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、10月15日[火]、11月5日[火]、12月28日[土]~2025年1月1日[水・祝]、1月14日[火]
(ただし、10月14日[月・祝]、11月4日[月・休]、2025年1月13日[月・祝]、2月10日[月]、2月11日[火・祝]は開館)
会場:国立西洋美術館[東京・上野公園](東京都台東区上野公園7-7)
展覧会公式サイト:https://www.ntv.co.jp/monet2024/
Instagram:@monet2024_jp
X:@monet2024_jp


モネの宝箱 あの日の睡蓮を探して(文春文庫)

定価 770円(税込)
文藝春秋

文=一色さゆり

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