連日完売の“最高級スイーツ”「スーパーショートケーキ」仕掛け人が語る誕生秘話《ホテルニューオータニ(東京)》
CREA WEB / 2024年12月20日 11時0分
1964年の東京オリンピック開幕直前、国内外の賓客を迎えるために開業した「ホテルニューオータニ」は、2024年で開業60周年。「ホテルニューオータニ」といえば、「スーパーショートケーキ」をはじめとするスーパーシリーズを思い浮かべる人が、近ごろ断然多い。
このクリスマスシーズンには、「新エクストラスーパーあまおうショートケーキ」が登場。直径18cmのホールケーキが22,680円との高額ながら、すでに予約で完売に近いという。
当時、まだ日本では名前を知られていなかった「ピエール・エルメ・パティシエ(現・ピエール・エルメ・パリ)」の出店に関わり、ショートケーキの最高峰「スーパーシリーズ」の仕掛け人でもある総支配人の高山剛和さんに、世界一のパティシエ、ピエール・エルメ氏の出店や「スーパーシリーズ」誕生の秘話を伺った。
日本ではまだ名の知られていなかったピエール・エルメ・パリの日本上陸
――高山さんは広報の担当として、「ピエール・エルメ・パティシエ(現ピエール・エルメ・パリ)」と「パティスリーSATSUKI」のオープンに関わられました。
高山剛和さん(以降、高山) 1995年に入社し、98年にマーケティング部門に配属されました。ちょうど、ピエール・エルメさんのお店の立ち上げ中で、担当に指名されました。広報を担当しておりましたが、立ち上げメンバーは同年代の方が多く、仕事への熱量が高くて、チーム全員が一丸となっていましたね。
――「ピエール・エルメ・パティシエ」「パティスリーSATSUKI」と、パティスリーを2軒同時にオープンされたのはなぜでしょう。
高山 もともと「アゼリア」というコーヒー&ペストリーショップがあり、そこをリニューアルすることになっていました。ホテルニューオータニ(東京)には、「トレーダーヴィックス 東京」「トゥールダルジャン 東京」という、海外レストランとの提携店がすでにありましたので、次はスイーツを探したところ、エルメさんが浮上してきたんです。
――エルメさんは日本ではまだ無名でしたよね。
高山 彼が「ラデュレ」にいた時代にお声かけしていました。ホテルニューオータニ(東京)でフェアを2回開催され、信頼関係を築けたと判断したので、出店をお願いしました。パリ、ニューヨーク、東京で、エルメの名を冠した店を開業したいとおっしゃっており、ホテルニューオータニ(東京)で世界初の店舗を開業しました。
――「世界一のパティシエ」「パティスリー界のピカソ」というキャッチフレーズはインパクトがありました。ミルフィーユにフォークを突き刺したアバンギャルドで美しい写真が衝撃でしたね。
高山 私どももあの写真にとてもインスパイアされ、この世界観を絶対に伝えたいと思いました。エルメさんの存在は圧倒的で、当時「パティスリーSATSUKI」のシェフ・パティシエであった中島眞介(現・総料理長)は、エルメさんを師匠と仰いでいますし、スーパーショートケーキの誕生にもエルメさんが影響しているんですよ。間接的にですが。
中島は、エルメさんという天才パティシエの仕事を間近で見て、本物のフランス菓子の底力を理解したのでしょう。フランス菓子の道に進んだからにはそこに近づきたいけれど、自分の道はそこではないと。
日本で作るからこそのケーキがある
――なるほど。だからこそ、日本の食材を活かした日本の洋菓子の道を見つけたということでしょうか。
高山 そうなんです。中島が「パティスリーSATSUKI」のシェフ・パティシエになり、彼のスペシャリテを何にするかと話していたときです。当時のモンブランはフランス産のマロンペーストを使うのが最高とされていました。エルメさんに日本の栗を試食してもらったら、「こんなおいしい栗があるのに、なぜ使わないの?」と聞かれたそうです。中島は「目から鱗」だったと言います。
当時はモンブランに和栗を使うことはありませんでした。愛媛県宇和島の出身で、山を駆け回って遊んだ子供時代に食べた栗のおいしさを思い出し、中島は和栗でモンブランに挑戦しました。
――和栗のモンブランは当時、斬新だったのでは?
高山 和栗という言葉さえ親しみがありませんでした。そこで2000年に「三栗物語」と銘打ち、フランス、イタリア、日本の栗の食べ比べセットを作りました。これで和栗のおいしさが伝わったのでしょう、支持されるようになりました。
――いまの和栗ブームの発端にもなった?
高山 どうでしょうか。当時、上質な和栗は主に和菓子店に卸されていました。売れるようになって農家さんとの信頼関係も築け、全国から一級品を仕入れられるようになり、味がさらに向上しました。
――それがスーパーモンブランになっていくのですね。
高山 はい。その前に「スーパーシリーズ」誕生のお話をしましょう。
日本のパティスリー業界に衝撃を与えたシリーズの誕生
――いよいよ、スーパーショートケーキの登場ですね。2004年9月1日に販売が開始されました。1ピース1,000円超えのケーキはニュースでした。当時、1ピース500円でも高価でした。
高山 開業40周年の記念にと、中島と考え、最高級の小麦粉、卵、生クリーム、イチゴにこだわって作り上げたのがスーパーショートケーキでした。
――卵をたっぷり使ったふわふわのスポンジ、なめらかな口溶けのクリーム、蜂蜜でマリネしたイチゴの渾然一体となった味わいは、お値段と共に評判になりました。
高山 原価を積み上げれば1,500円くらいになったのですが、お客様への謝恩の気持ちを込めて1,000円にしました。そのため、限定40個にさせていただきました。イチゴは「博多あまおう」を使いたかったのですが、期間が限られます。
9月1日にはあまおうはありませんでした。ただ、中島があまおうにこだわったので、その後、あまおうの時期だけイチゴのスーパーショートケーキを作ることになりました。クリスマスのスーパーシリーズはもちろん、あまおうぎっしりです。
――高価なケーキに、お客様の反応はいかがでしたか。
高山 ありがたいことに、ネガティブな反応はなかったです。それまではお店として「ピエール・エルメ・パリ」が大人気でしたが、スーパーシリーズが登場し、お客様が「パティスリーSATSUKI」も目指してくださるようになりました。ホテルとショートケーキの相性は、私たちが想像していたよりよかったと思います。記念日にいらしてくださるゲストが特別なショートケーキを召し上がることは、ご褒美や思い出になりますから。
――そこからスーパーシリーズが定番化されましたね。2005年に「スーパーエクレア」「スーパーモンブラン」が出され、ついに「スーパーメロンショートケーキ」が登場しました。
高山 どれも連日完売となるなか、スイーツの王道であるショートケーキを通年で出したかったのですが、あまおうにこだわると、イチゴでは作れなかったのです。ではメロンにしようと、中島が3年もかけて探し、静岡・南伊豆のマスクメロンにたどり着きました。それで「スーパーメロンショートケーキ」が誕生したのです。
王道の世界でどこまでも“極み”を目指す
――40周年に「スーパーシリーズ」は成功し、50周年には「エクストラスーパー」シリーズを世に出されました。
高山 「誰もが好きなショートケーキを、ホテルが本気で作る」をコンセプトに、中島が素材をより吟味しました。「新エクストラスーパーあまおうショートケーキ」では1ピースに約8粒の「博多あまおう」を使っていたり、隠し味としてライチの層をプラスしたりしています。
――「エクストラスーパーシリーズ」には1ピース4,000円超えのものもあります。
高山 1ピース4,000円は自分用には買わないけれど、今日がお誕生日の方にランチの後にさりげなくお渡しされていたりするようです。相手の負担にならず、記憶に残るギフトになります。たっぷり食べて満足していただきたくて、あの大きさに。シェアしても十分なサイズなので、幸せを分かち合っていただきたいとの気持ちも込めました。契約タクシーによるデリバリーも可能です。
――スーパーというネーミングがわかりやすく、覚えやすかったのも人気の要因ではないでしょうか。
高山 私どもはターゲットを絞らず、「ご家族の団らんから国際会議まで」、すべての方がお客様という気持ちでやっていますので、親しみやすいネーミングにしました。
――スイーツにここまで力を入れているホテルは少ないのでは?
高山 ホテル業界は、F&B(フード&ビバレッジ)、宿泊、バンケット(宴会)を3本柱としていますが、私どもはF&B&S(スイーツ)と掲げるほど、スイーツに重点を置いています。しかも、全1,474室に37店舗ものレストラン&バーを揃えています。「食は旅のデスティネーションになる」というのが開業以来の方針でもあります。ですから食関係の「ニュー」をいつも企画し、お客様にお届けするのは私どもの使命だと思っています。
――「ニューオータニ」の「ニュー」は「常に新しい体験を」という意味なんですね!
高山 はい、ホテルニューオータニ(東京)のアイデンティティでもあり、「スーパーショートケーキ」のアイデンティティでもあります。今後も引き続き、「ニュー」な体験をお届けしますからご期待ください!
ホテルニューオータニ(東京) パティスリーSATSUKI
所在地 東京都千代田紀尾井町4-1 ザ・メイン ロビィ階
電話番号 03-3221-7252
https://www.newotani.co.jp/tokyo/restaurant/p-satsuki/
文=北村美香
写真=志水 隆
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