「赤ちゃんを亡くした後のタンタンはニンジンを抱いて…」多くの人に愛された“神戸のお嬢様”の一生――2024年BEST記事
CREA WEB / 2025年1月4日 11時0分
2024年にCREA WEBで反響の大きかった記事を発表します。アニマル部門の第2位は、こちら!(初公開日 2024年4月6日 ※記事内の情報は当時のものです)
中国・四川省の臥龍で1995年9月16日に生まれたジャイアントパンダのタンタン(旦旦)。28年半の生涯のうち、前半はさまざまな変化に見舞われ、最後の3年間は病と闘いました。
4歳だったタンタンは2000年7月16日、「日中共同飼育繁殖研究」の一環で神戸市立王子動物園にやってきます。一緒に来たパンダはコウコウ(興興)。中国側はオスとして送り出しましたが、メスのタンタンとの間で繁殖できないと分かり中国に返還。代わって2002年12月9日に来たオスがコウコウの名を引き継ぎました。
赤ちゃんとパートナーの死
タンタンは2007年8月12日に死産となるも、2008年8月26日に出産。赤ちゃんは、国内で20年ぶりに誕生したパンダでしたが、3日後の8月29日に息を引き取りました。同年5月の四川大地震の影響で、通常なら出産・育児の支援に来てくれる中国ジャイアントパンダ保護研究センター(以下、パンダセンター)の専門家が来られなかったことも痛手でした。
赤ちゃんを亡くした後のタンタンは、時おりニンジンを大切そうに抱き続け、舐めるように。パンダの母親が赤ちゃんに対してする仕草です。外で小石を拾ってきて、抱き続けたこともあります。この「偽育児」は2020年まで続きました。
コウコウは2010年9月9日、麻酔から覚める途中で死亡。神戸市は賠償金として50万ドルを保険金で中国側に支払いました。コウコウの亡骸は中国へ送られ、王子動物園のパンダはタンタンだけになりました。
2020年から四川省で暮らす予定だった
タンタンがいるおかげで、観覧者は楽しんだり癒されたりしました。愛称は「神戸のお嬢様」。王子動物園と中国の技術交流も進み、同園のパンダ研究も進展。飼育員と獣医師はパンダセンターの雅安碧峰峡基地で研修を受けました。
四川省の成都で2018年11月に開催されたパンダに関する国際会議では、老化が始まったタンタンの健康管理などをテーマに王子動物園の獣医師の谷口祥介さんが発表。タンタンの目の病気の治療やハズバンダリートレーニング(人間が検査・治療しやすい姿勢を動物が自主的にとれるようにする訓練)などについて話しました。
タンタンは来園して20年となる2020年の7月15日を期限に中国へ帰ることが決まりました。「高齢のパンダなので、今後は体の負担が少ない場所で過ごさせたい。中国は高齢パンダの飼育経験が豊富なので任せてほしい」との中国側の意向でした。新居は四川省にあるパンダセンターの都江堰基地です。タンタンの4歳上の姉のバイユン(白雲)もアメリカでの約23年間の滞在を終え、2019年5月から都江堰基地で暮らしています。
ところがコロナ禍でタンタンの帰国は延期。翌2021年3月、加齢に伴う心臓疾患が判明して帰国は難しくなりました。治療には、王子動物園と連携協定を結ぶ大阪公立大学など、園外の人たちも協力。パンダセンターは2022年5月から獣医師や飼育員を派遣しサポートしてきました。
タンタンは2021年11月22日から非公開。12月14日に公開を再開したものの、2022年3月14日から再び非公開となり、以後、一般公開されることはありませんでした。
麻酔なしで心電図検査もこなした
タンタンはどんなパンダだったのでしょう。外見は、小柄で足が短め。とてもかわいらしいです。死の3日前の体重は98kg。元気な頃は80kg台だったこともあります。98kgは、栄養をとれずに痩せた一方で、心臓疾患によって体に余分な水分が溜まった結果です。
特技はハズバンダリートレーニング。早い時期から飼育員と一緒に取り組んできました。これが心臓疾患の早期発見と検査、適切な治療につながりました。心臓疾患の判明後は、聴診、視診、エコー検査、血圧測定、心電図検査、レントゲン検査が必要になりました。心電図検査では、タンタンを横たわらせて、体に数本の電極を取りつける必要があります。パンダは猛獣ですが、タンタンはトレーニングのおかげで麻酔や鎮静処置をせずに、これらの検査ができたのです。麻酔は危険を伴います。
「日々検査して、ずっと適切な治療をすることができました。タンタンは苦しむことなく過ごしてくれていたと思います」(谷口さん)
タンタンの性格は、飼育員の梅元良次さんによれば、マイペースでちょっと神経質。給餌では苦労させられたそうです。そんなタンタンが長い間、心臓疾患のための薬を服用してくれました。「今となっては良い思い出です」と梅元さんは振り返ります。
治療を始めてからのタンタンは、飼育員の吉田憲一さんが近づくと吠えることが増えました。それでも室内の柵越しに近づくと、タンタンは寝転がってくれました。「嬉しかった」と吉田さんは声を詰まらせながら、タンタンの死の翌日に語りました。
国内のパンダは8頭に
王子動物園が中国の専門家に確認したところ、死亡時のタンタンは人間の100歳近くに相当するそうです。現在、国内のパンダは上野動物園4頭、アドベンチャーワールド4頭の計8頭。国内最高齢のパンダは、アドベンチャーワールドで生まれた23歳の良浜になりました。
神戸市は以前から新たなオスとメスのパンダの貸与を求め、中国野生動物保護協会と協議しており、今後も続ける方針です。神戸市が進める王子動物園のリニューアル計画にはパンダのエリアも含まれますが、タンタンの死でこの計画がどうなるかは明らかになっていません。
タンタンが約24年間を過ごしたパンダ館には献花台が4月2日から設けられ、花を手向ける人が絶えません。SNSでは多くの人がタンタンを偲び、感謝の言葉をつづったり、イラストを描いたりしています。
タンタンが晩年を日本と中国のどちらで過ごしたほうが良かったのか、筆者には判断できません。ただ、王子動物園の飼育員と獣医師をはじめ国内外の人たちが、タンタンが幸せに生きられるように力を尽くしてきたのは確かです。
たくさんの人から愛され、思い出を残してくれたタンタン。ありがとう。どうか安らかに。
中川 美帆 (なかがわ みほ)
パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo
パンダワールド We love PANDA
定価 1,650円(税込)
大和書房
文・写真=中川美帆
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
在米パンダ虐待情報への取り締まり、中国政府による「善意」のシグナルか―華字メディア
Record China / 2025年1月2日 8時0分
-
ありがとうタンタン…神戸のジャイアントパンダ、28歳で旅立つ ファンに愛された「神戸のお嬢さま」【2024年・タンタンとのお別れ】
まいどなニュース / 2024年12月28日 7時30分
-
パンダの「シンチウ」と「イーラン」、豪州に到着
Record China / 2024年12月16日 8時30分
-
ベルギー生まれのパンダ3頭が中国に旅立つ
Record China / 2024年12月11日 19時50分
-
ドイツ生まれの双子パンダ、名前が「モンハオ」と「モンティエン」に決定
Record China / 2024年12月9日 18時30分
ランキング
-
1先日近所に「ドラッグストア」ができたのですが、売り場の半分以上が「食料品コーナー」です。お得な商品も多くて嬉しいのですが、なぜ「薬局」の食料品は安いのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2025年1月5日 5時0分
-
2「ベランダで鳩に餌付けをする」50代女性の隣人が見せた、常識破りの迷惑行為「やけに鳩の鳴き声がうるさいと思ったら…」
日刊SPA! / 2025年1月6日 15時53分
-
31週間の帰省中、自宅の「エアコン」をつけっぱなしだったことが発覚! 12畳のリビングで「電気代」はいくらになる? 消し忘れを防ぐ方法は?
ファイナンシャルフィールド / 2025年1月5日 4時30分
-
4【要注意】閉め切った室内で「防水スプレー」使用→呼吸困難に 事故を防ぐために必要な“対策”とは?
オトナンサー / 2025年1月6日 22時10分
-
5トヨタ「“新”ルーミー」発売! 値上げしても174万円!? “軽自動車並み”に安い「小型ワゴン」改良で何が変わった? ユーザーの反響は?
くるまのニュース / 2025年1月6日 8時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください