令和のBLのスゴさを目の当たりに…「もはや暗喩としてのキスではないか」ドラマ『未成年』に見る“恐るべきアップデート”とは《本日最終回》
CREA WEB / 2025年1月6日 18時0分
世はBLドラマ量産時代。1クールに1本は必ずあり、カップリングのバリエーションが豊かになり、恋愛以外の要素を掛け算する作品も増え、最近では若手俳優・アイドルの登竜門的な機能を果たしている節まであります。
それは喜ばしいことである一方、制作すればある程度の人気を約束されたジャンルとなり、「とりあえずBLやっとけばいい」と思われているからか、正直粗悪な作品が増えているのも事実。中には、視聴者の目を軽んじているのではと勘繰ってしまうようなものも。
そんななか、本日最終回が放送される「未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~」(読売テレビ 月曜深夜1:33~)、かなりよかったです! もっと話題になっていい! という思いで書きます。本作は韓国の電子コミックで全世界で643万View超えを記録する同名人気BL作品を日本で映像化した作品。まずストーリーが秀逸です。
ヤンキーと優等生、「共通点」に惹かれ合う
他人に無関心な優等生・水無瀬仁(本島純政)は、クラスの問題児・蛭川晴喜(上村謙信/ONE N' ONLY)と関わらないように学生生活を送っていたものの、ある日、父親に殴られて傷だらけの蛭川の姿を目撃。思いがけず蛭川の秘密を知ってしまった水無瀬は、これ以上深く関わらないように距離を置こうとするものの、学校にいるときとは別人だった蛭川の姿が脳裏から離れず……。関わるはずのなかった二人は少しずつ距離を縮めていきます。
裕福な家庭に生まれたお坊ちゃんと、暴力的な父親と二人で暮らすヤンキー。家庭環境も性格もまったく違う二人が惹かれ合う、古典的なラブストーリーの定石に沿った安定感はさることながら、その解像度がすごいです。
水無瀬は両親がうまくいっていないこともあり、基本家でも一人で生活し、寂しさを常に抱えているけれども、感情を表に出さないことで自分自身をなんとか保っている。そして蛭川の両親は離婚し、蜷川はともに暮らす父親から虐待を受けている。ともに未成年で両親の庇護のもとにいるから、どうしようもない。特に身体的虐待はつらいシーンだし、本来なら福祉の出番なのだけど、うまく対処できない幼さ、未熟さもわかる。「未熟な俺たち」というサブタイトルがここにも活きています。
そして本作では見本になるような立派な大人が描かれないというのも特徴です。それはそれぞれの両親や先生の描写をみてもそう。本当はちょっとはいい部分はあるのかもしれないけれど、未成年の二人からみた大人たちってこうなんだろうな、と思わされる。大人って自己中で、自己保身に走っていて、子どものことなんか考えていない。周囲の大人たちの善の部分はあまり映りません。
本当は幸せなことだってあったはずなのに、自分だけがつらく、自分だけが孤独で、居場所がない。未来には期待できない。この気持ち、当時10代だったすべての人が理解できるのではないでしょうか。
ドキドキ感はそのままに…古典的キスシーンの“アップデート”
優等生とヤンキーというカップリングは定番ですが、お互いに違うから惹かれるのではなく、孤独という共通点を埋め合うように惹かれ合っていく様も秀逸。二人をつなぐ映画『水の音』に出てくる海の描写の、潮の満ち引きさながらに二人の思いは寄せては返していきます。映画の主人公は、苦しみの波が大事な人にまで押し寄せないように、海に残って見張っている。蛭川もそういう人になりたいと思って、水無瀬を見つめます。自分もつらいのに、誰かを守りたいと願っている。
水無瀬は、虐待された蛭川を家に招きます。「かわいそう」という庇護の感情なのか、それとも別の感情なのか(別の感情だよ!)。水無瀬だって親の愛情を注がれていないという点では「かわいそう」だと蛭川は思っているし、それ以上の感情をもう抱いている。
そして同じ日に「キスしたことある?」「やってみろよ」という急展開。挑発に乗った結果ではありながらも最初のキスシーンが。そしてキスされたあとの水無瀬の驚きの目パチパチの演技もよかった。完全に意識してしまうパターンのやつ。これ、ちゃんとお互いの「合意の上」であることもすばらしかった。性的合意のステップがあるから、古典的な展開もより安心して観られます。アプデに拍手!
水無瀬が風邪を引き、蛭川が看病するというのもお馴染みのシチュエーションですが、描き方がすばらしい。弱っている人間に優しくする描写、嫌いな人いますか? 「風邪は人に移すと治るしいよ」。水無瀬が食べようとするソーダ味のアイスキャンディーを奪い、キス。
驚きながらも受け入れる水無瀬の演技も、アイスで青くなった舌を見せてちょける蛭川の演技も、完璧なんですけど。しかも視聴者はしっかり世界観に浸っている上でなので、ラブコメのあるあるシーンを観ているときのような余計なつっこみを入れている余裕がない。もう、二人のやり取りを真剣に見つめてしまいます。漫画の世界をここまできれいによく映像化してくれました。二人から目が離せない!
「初めて正解を観た!」目からウロコの名シーン
二人の恋はもちろん順風満帆にはいきません。水無瀬は両親の離婚に伴い、留学を勧められることに。「行かないで」と伝える蛭川。障壁を前に、恋が動き出します。特に好きだったのは第6話の夕日の海のシーン。
蛭川「お前がアメリカに行った後、どうしよう」
水無瀬「行かない」
蛭川「行けよ」
水無瀬「お前が行くなって言ったんだろ」
蛭川「それはただの本音じゃん。行かないの、だめだから」
〜ハグ〜
蛭川「行かないで……」
マジか……。好きな人に対して別れ話を切り出したりするなど、“優しい嘘”を伝えることで、相手の背中を押すシーンはこれまでもいろんな作品で観てきたけど、初めて正解を観た気がしました。優しい嘘とか、いらない。本音と建前、両方伝えたらいいんじゃん! 今後これをほかの作品は見習ってください! 目からウロコでした。そしてこれも美しいシーンでした。
「もはや暗喩としてのキスでは」BLにおける性描写の新境地
これまで、原点回帰、シンプルで王道の強さ、古典的で安定感のあるラブストーリーの表現をアプデし、目の肥えた視聴者を惹きつけている点を挙げましたが、魅力的なポイントはもちろん役者自身にも。本島純政と上村謙信の相性の良さ、素晴らしすぎませんか? それは正反対な性格を一目で理解できる原作へのビジュアルの寄せ方、わかりやすい身長差、オフショットとして共有される画像や動画から伝わる仲の良さなど、さまざまな場面から窺えます。
そして映像にしたときの演出の美しさ。全体的な質感が映画のようで、世界観にしっかりのめり込めるように作られている本作。第一話から効果的に「水」が使われています。蛇口の水があふれ、蛭川の頭に盛大にかかるシーンは誰もが目を奪われたことでしょう。水無瀬もこの時点で相当ドキッとしたのではないでしょうか。
夜中の公園で蛭川の頬に手を当てながら水無瀬がペットボトルの水を飲ませるシーンなんかはもう、暗喩としてのキスそのものです。過度にセクシュアルなシーンを作らなくとも、BLとしての「観心地」のある場面は作れる。勉強になります!
また、キスシーン、ベッドシーンなどでは効果的に青色がでてきます。それは先述の海のシーンを彷彿とさせ、波が二人の孤独を優しく包み込むかのよう。この視覚的効果は、普通のシーンとインティマシーシーンの空気の切り分けにも役立っています。だからこそ視聴者としても「くるぞ」という緊張感、高揚感が余計に高まるのです。
「同性愛は、思春期における一時的な感情」という言説の嘘
そして何より特記すべき素晴らしさは、多感な「未成年」の、思春期ならではの悩みやゆらぎ、心の動きをこれでもかというほど繊細に表現していること。それは、「同性を好きになる」という点においてもです。だれかに恋愛感情をいだいたり、性的な魅力を感じたりする思春期。本作では同性愛が主題の映画を鑑賞した際、水無瀬は蛭川に「俺達って、同性愛者なのかな」と聞くシーンがあります。
蜷川はそれに対して「今俺のこと好きって言った?」と笑っておとぼけ。性的指向をわざわざ確認するようなシーンは、ただのBLとしてのファンタジーではなく、現実と接続された描写としてとてもよかった。わざわざこの台詞があったのは「同性愛は、思春期の一時的な感情」という言説がいまだにあることを踏まえてのことでしょう。
最初にこの説を提唱したフロイトは、同性愛を異性愛に対して「未成熟」なものとしていました。日本でも長い間、心理学の本から新聞・雑誌の相談コーナーまでずいぶん使われてきました。思春期の自身の同性愛的感情に気づき、勇気をふるって打ち明ける相談者に、「君は異常じゃないよ、ただ思春期の一時的な感情でやがて異性を好きになるよ」と回答する。もちろん現在において、その回答は間違いです。
サブタイトルに「未熟」とあるのも、もしかするとフロイトの説を意識してかもしれません。それを下敷きにしつつも、「不器用に進行中」としている。世間から未熟といわれても、それを跳ね返すかのように現在進行系で強く生きている当事者はたくさんいる。そのことを考えさせられます。
「世の中には三種類の人間がいる。加害者。被害者。そして傍観者」。これは本作の水無瀬のモノローグとして語られた言葉です。この三者はいろんな場面で存在してしまう。三者を生まないようにするためには、自分を大事にし、相手も大事にして、よりよい人間関係を築くことが何より大事です。視聴者も、観ているだけではただの傍観者。でも、その先に進むのであれば「理解者」になれると思うのです。
BL作品を見てファンタジーをただ消費するのではなく、その先、現実のセクシュアリティマイノリティーたちのことを知り、社会のことをもっと理解できるようになる人が増えるとより目が肥えて、それに応えるように作品の質がより上がる。だからこそ私たちはちゃんと理解者になっていきましょう。そんなことを考えさせられる良作。二人がお互いの気持ちを確認し合うことになるであろう、最終話にも期待です。
文=綿貫大介
画像=読売テレビ
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