望海風斗の“歌わない”挑戦「お芝居を面白いと思い始めたのは雪組時代『星逢一夜』の頃…」
CREA WEB / 2025年1月18日 17時0分
宝塚歌劇団を卒業して3年。すでにミュージカル界において「この人アリ」と言われる俳優として名を馳せている望海風斗さんが、ストレートプレイに挑戦する。しかも、マリア・カラス役――。
『マスタークラス』は「オペラの歴史を変えた」と評され、レジェンドとも言われるソプラノ歌手、マリア・カラスが晩年、ジュリアード音楽院で教鞭を取っていた様子を舞台化したもの。マリア・カラスの大ファンだった黒柳徹子さんが演じていたことでも有名な作品です。
歌唱力の素晴らしさでは群を抜いている望海さんが、敢えて“歌を歌わない”脚本で“オペラ歌手”を演じるとあって、すでに話題沸騰中。常に進化しながら新しいチャレンジを行う望海さんに、今の心境を伺いました。
今から「間に合わないんじゃないか」と、心配で寝られないこともあります(笑)
――初のストレートプレイ『マスタークラス』への挑戦となりますが、この作品を演じられることになった経緯や想いをお聞かせください。
いずれはストレートプレイに挑戦したいという想いがずっとありました。この作品は黒柳徹子さんがされてから20年以上日本では再演がなかったものであり、私も知らなかったのですが、事務所の社長から「とてもいい作品だから」と勧められて脚本を読んでみたんです。
最初は自分にできるだろうかと、大きな山を乗り越えるような作品なのではないかと思ったのですが、それと同時にそういったものに挑戦する機会はなかなかないので「やってみたい」という気持ちが湧いてきて。
マリア・カラスについても詳しくは存じ上げなかったので、そこから取り組み始めたという感じです。知らなかったことに対して視野が広がっていく機会は本当に希少なので、ありがたい限りです。
――ストレートプレイに挑戦したいという気持ちはいつ頃からお持ちだったのですか?
ミュージカルのお稽古では芝居そのものの研究よりも歌やダンスを通じた表現を考えることが多いので、芝居をキャスト全員でガッツリ深めていくという作業はあまりやらないことが多いんです。
でも『ガイズ&ドールズ』で出会ったマイケル・アーデンや、『DREAMGIRLS』でお世話になった眞鍋さんとお仕事をご一緒した辺りから、お芝居をもっと知っていきたいと思いました。
――意外です! 宝塚にいらっしゃるときから“演技派”のイメージでした!
ありがとうございます。宝塚を観に行ってハマったのはショーだったので、お芝居を「面白い」と思い始めたのは遅かったと思います。雪組に組替えして、早霧せいなさんと咲妃みゆさんのトップコンビと一緒にお芝居をするようになってから、改めて「お芝居って面白い!」と思うようになったんです。
『星逢一夜』で演出家の上田久美子先生にお会いしてから、「どうやって皆さん芝居をしているんだろう」と考えるようになりました。トップのときは相手役の真彩希帆さんや周囲の方々といろいろ話して試しながらお芝居を作っていったので、それはすごく楽しかったですね。
――『マスタークラス』の脚本を早速読ませていただきました。ほぼ一人芝居に近く、しかも膨大なセリフ量で驚きました。
そうなんです! あのセリフ量にも正直、少しおそれていて(笑)、かなり前から色々勉強させていただています。
今回はオペラを歌うわけではないのですが、マリア・カラスはオペラ歌手なので、オペラの発声も知らないままにやるのは違うかなと思っていて。オペラやイタリア語の発音、あとオペラの発声についてなどの勉強会を開いていただいたり……。
本当に入り口の部分だけなのですが、オペラの発声がどういうもので、オペラの歌がどうなっているのかなどは、早いうちから少しずつ勉強させてもらっています。でも、やればやるほど奥が深すぎて、手が付けられないというか……。膨大で。
――望海さんは今までも大きな山をたくさん越えてこられたと思うので、その姿勢自体が望海さんらしいなと思います!
でも、もう今から「間に合わないんじゃないか」みたいな気持ちが押し寄せてくるんですよ(笑)。結構寝られないというか……。考え出すと、「ああ、とんでもないことが待っている」という気持ちになってしまって(苦笑)。
――マリア・カラスという人物に対して抱いているイメージや望海さんの解釈などを聞かせていただけますか?
オペラ歌手、そしてソプラノ歌手の中でも本当に群を抜いて素晴らしい歌手だったということ、そしてあとはちょっと“怖い”という印象がありました。実際に台本を読んだり、彼女について調べていく中で、カラスがいばらの道を闘い抜いてきた、生き抜いてきたということが見えてきました。
彼女は決して恵まれた環境で育ったわけではなく、愛に飢えながらも、あの地位まで昇りつめていきました。すべてが完璧だったわけではないからこそ、人を魅了したのでしょうし、美しさの陰には血のにじむような努力があってこそ、だったのだと思います。
あと、彼女の「厳しさ」という面は、自分自身にも本当に厳しくしてきた人だから、というのがあると思います。それだけの闘いをしてきたんでしょうね。生き残ることの難しさを知っているからこそ、他人に対して甘やかすことなく教えようとしたのではないでしょうか。
あれだけの大きなステージをやりこなすというのは、それぐらいの方でないとできないと思うんです。あと、本質的にはすごくユーモアを持っていた方だとも思います。でも、他人にはなかなか伝わりにくかったのかなって。
カラスの言葉に、ぬるま湯にいる自分がシャキッとさせられる
――望海さん自身がマリア・カラスに共鳴できる部分は、決して少なくないのではありませんか?
台本を読んでいて、「カラスのようにこうやって言えたらスッキリするかも」と思うことはありました(笑)。カラスは本当に言いにくいことをはっきりと言っていきますが、最後にいくにつれて、どうして彼女がそういうスタンスを取るのか、すごく腑に落ちる部分があるんです。彼女がどれだけ仕事に命を懸けてきたか、誇りを持っているか。
オペラとミュージカルは近いようで違う部分があります。でも共鳴できる部分も多いですし、あとはぬるま湯に浸かっていた部分がちょっとシャキッとするというか……カラスの言葉を聞いて「あっ」と思わせられる部分がたくさんあって。きっと、観てくださる皆さんもいろいろと頷けるポイントがあるんじゃないかと思います。
――ストレートプレイとミュージカル。歌がないことによる“不安感”のようなものはありませんか?
例えば、お客さんの空気感がいまいち乗り切ってないようなときでも、曲が流れたら、何とかこっちのペースに巻き込めるだろうという安心感を私はいつも持っているのですが、今回はそれがないんですよね(笑)。歌うことナシにこちらのペースにどれだけ早く客席を巻き込めるかというのは、私はあまり経験がないので、そこは少し不安であり、挑戦でもあります。
――開催される劇場は世田谷パブリックシアターですし、演出は森新太郎さん。本当に初めてづくしですね!
森さんは、読み合わせの時点でもう台本が真っ黒になるくらいセリフの音をしっかり確認されるし、すごく演劇愛の強い方だからお稽古場でも情熱の注ぎ方が熱いと聞いていたので、しっかりついていかなければと身構えていた部分もありました。
でも実際にお会いしてみたら、ものすごく柔らかい印象の方で、しかも「僕もあまりオペラには詳しくないから、これから勉強しなきゃ」と仰っていて、少し安心しました(笑)。でもあっという間にオペラについて詳しくなっていかれてて、私は置いていかれている感じです。
ここからどうやってマリア・カラスというものを掘り下げていくんだろうか、どんなふうに台本が真っ黒になるんだろうか、というのを想像して、お稽古がすごく楽しみです。
――世田谷パブリックシアターは“演劇の聖地”のような場所のひとつですが、そこに立つのも楽しみですか?
観に行くことは多くありましたが、もちろんそこに立つのは初めて。ちょっとお客さんの顔が見えやすいんじゃないかと思って、ドキドキしています。
――“帝劇”とはまったく異なる表情を持つ劇場ですよね。
帝劇に比べると、本当に客席がよく見えそうですよね。劇場の空間もイメージしながらお稽古していかないと、いざお客さんが入ったところを見たら、全部セリフが飛んじゃいそうな気がして(笑)。でも、やはり世田パブでお芝居ができるのはすごく嬉しいです。
望海風斗(のぞみ・ふうと)
1983年10月19日生まれ、神奈川県横浜市出身。2003年に宝塚歌劇団入団、同年花組に配属。2017年から雪組トップスターに就任し、三拍子揃った実力の中でも、特に歌唱力に秀でた男役として活躍。『ファントム』『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』『fff-フォルティッシッシモ-』などの代表作で主演を演じる。2021年4月11日、宝塚歌劇団を退団。同年に行われたコンサートツアー『SPERO』では全国で5万人を動員するなど、その人気はとどまるところを知らない。退団後は破竹の勢いでミュージカル界を席巻する俳優のひとりとして活躍中。今年は初のアルバム『笑顔の場所』をリリースするなど、音楽活動にも意欲的だ。代表作には『next to normal』『ガイズ&ドールズ』『イザボー』『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』などがある。
衣装クレジット
ワンピース 72,000円、タイ付きブラウス 40,000円/Alunc(03-5785-6424) ピアス 429,000円、イヤカフ 242,000円、リング 473,000円 すべてK18WG×Dia/MESSIKA(MESSIKA JAPAN 03-5946-8299) 靴 133,100円/クリスチャン ルブタン(クリスチャン ルブタン ジャパン 03-6804-2855)
文=前田美保
写真=榎本麻美
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