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「今回の役は、原節子さんのイメージでお願いします」と大八さんから… 瀧内公美が『敵』で見せたモノクロの魅力

CREA WEB / 2025年1月17日 17時0分

 日本文学界の巨人・筒井康隆による老人文学の傑作『敵』。77歳の引退した元大学教授・渡辺儀助の丁寧で平穏な暮らしに、じわりと「敵」が迫り来る物語です。

 劇中、重要な役割を果たす儀助の元教え子、鷹司靖子を演じた瀧内公美さんにインタビュー。役作りの難しさや、大河ドラマ『光る君へ』の源明子役との違いなど、たっぷりとお聞きしました。



瀧内公美さん。

――まずはオファーの決め手から教えてください。

瀧内公美さん(以下、瀧内) 吉田大八監督とはいつかご一緒させてもらいたいと願っていましたので、オファーをいただいた時は嬉しくて嬉しくて、すぐにお受けしました。脚本もすばらしく、こんなご褒美みたいな仕事が来るんだな、と感激しました。

 大八さんの作品は、長編映画デビューされた『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07年)からずっと追いかけ続けていました。なかでも私が大好きな大八作品は、『パーマネント野ばら』(10年)。

 菅野美穂さんが演じた「なおこ」のような役を、いつか自分も演じたいと思いながら観ていました。

――脚本を読んだ感想は?

瀧内 まずは原作を読まずに、「この先の展開はどうなっていくんだろう」「“敵”ってなんだろう」と思いながら脚本を読ませていただきました。そして、一見何の変哲もない、77歳の元大学教授、渡辺儀助の日常を描いた物語でありながら、ダイナミックに物語が運ばれていく展開に、素直に感動しました。

 ここにきっと、大八さんならではのシニカルな笑いのエッセンスが加わり、これは絶対に面白い作品になるだろうと、撮影がとても楽しみになりました。

――本作がモノクロ作品であることは、はじめからわかっていたのですか?

瀧内 オファーをいただいた段階では、まだモノクロになるかどうかは決まっていなかったと思います。

 撮影に入る前に、「今回の役は、原節子さんのイメージでお願いします」と大八さんから言われていたので、原節子さんの出演作をひたすら観てイメージをふくらませていました。圧倒的にモノクロ作品が多かったので、実際に映画がモノクロになると言われたときに、イメージはつきやすかったと思います。

『光る君へ』で演じた源明子と真逆の役作り

――モノクロだと、カラー作品と比べて演技の仕方などが変わってくるのですか?

瀧内 モノクロの場合は、陰影がはっきり出ます。また、カラーより情報が少ない分、想像を搔き立てられるところも多いので、なるべく大仰なことはしないよう、意識はしていました。陰影が生み出す美しさが失われてしまったり、想像の余地がなくなってよさが引き立たなくなったりしてしまうような気がしたので。

――以前のインタビューでは、「モノクロ映えする顔だとよく言われる」とおっしゃっていました。

瀧内 お恥ずかしいんですけど、私、そんな発言をした記憶がないんです……。でも確かに以前、『火口のふたり』(19年)という映画のフォトストーリーブックを撮影していただいた野村佐紀子さんから「瀧内さんはモノクロ映えするね」と言っていただいたことはあります。

 別の作品でも、「瀧内さんは、モノクロが似合うと思う」と監督から言われたことがあるので、他者からはそう見えるのではないかと思います。自分ではまったく自覚はありませんが……。


瀧内公美さん。

――今回演じた鷹司靖子はどのように役作りをされたのですか?

瀧内 鷹司靖子という女性は、儀助さんの教え子として実在する人物でありながら、儀助さんの「理想の女性像」という象徴的存在でもあります。どこまでが現実でどこからが虚構なのかも曖昧なので、原節子さんの清楚で凜としたイメージを保ちつつ、77歳の儀助さん世代の男性が思い描く「理想の女性」として画面に映るよう、立ち居振る舞いを工夫しました。

 靖子はまた、儀助さんが隠しておきたい部分を露呈する存在でもあると思います。清純な教え子としての彼女と、セクシャルアイコンとしての彼女をどう変化させていくのかを大八さんに微調整していただきながら演じていきました。人間がもつ欲望の象徴でもあり、清純な聖女でもあるという、主観ではなく客観的にいろんな側面を想像させる役柄なので、演じるのは大変でした。

――大河ドラマ『光る君へ』のパワフルな源明子とは真逆の「静」の演技も大変だったのではないでしょうか。

瀧内 おっしゃる通りで、『光る君へ』で演じた源明子と、本作の鷹司靖子は真逆の役作りでした。

 明子に求められたのは、エネルギッシュでパワフルな演技です。さらに、「明子だったらこうするだろう」と自分のなかで明子の行動動機をつくり、それが物語にどう作用していくかを考えながら役作りをしていました。

 一方、本作の鷹司靖子は、「原節子さんのイメージ」と大八さんに言われたように、芯は強いけれど、清楚で控えめな女性のイメージです。靖子の意思や欲求ではなく、儀助の考えや欲望に対して動くことが求められたので、「靖子だったらこうする」という決断ができませんでした。靖子の行動原理を考えてはいけない、というのは、役をつかむまで非常に難しく、苦労したところですが、俳優としては大きなやりがいがありました。

隠された多くのメタファー

――静と動、どちらの瀧内さんも魅力的でした。

瀧内 ありがとうございます。

 これまではどちらかというと、明子のようにパワフルな女性や、自立した強い女性を演じることが多かったので、私にとっても今回の靖子は挑戦しがいのある役でした。観てくださった方が、それぞれのイメージで靖子を観ていただけたらうれしいです。


瀧内公美さん。

――本作の見どころを教えてください。

瀧内 本作には数多くのメタファーが登場します。儀助が世界情勢を説明するくだりで、「先生はメタファーの話をしているのよ」と靖子が説明するシーンがありますが、枯れた井戸に水を蘇らせる、隣人の存在、犬の糞など、劇中にはあらゆるところに、メタファーが隠されています。それを発見しながら観ていくのも、本作の面白いところだと思います。

 東京国際映画祭で上映したときは海外のお客さまが多かったのですが、フランス文学の素養があるヨーロッパ圏の方たちは、作品に込められたメタファーに細かく反応して笑いが起きたんです。そこで初めて「ここにもメタファーが潜んでいた」と気づいたことも多かったので、あらためて学びの多い作品だったのだな、と感じました。私も、もうちょっとフランス文学を勉強し、理解力をつけてから、また改めて観てみたいと思います。

『敵』


ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA

1月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開
公式サイト:https://happinet-phantom.com/teki/
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ

【STORY】
渡辺儀助、77歳。
大学教授の職を辞して10年――妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分でつくり、晩酌を楽しみ、多くの友人たちとは疎遠になったが、気の置けない僅かな友人と酒を飲み交わし、時には教え子を招いてディナーを振る舞う。預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。遺言書も書いてある。もうやり残したことはない。だがそんなある日、書斎のiMacの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。

文=相澤洋美
写真=釜谷洋史
ヘアメイク=董冰
スタイリスト=三田真一/Shinichi Miter
衣装=TARO HORIUCHI
アクセサリー=Hirotaka

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