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こっちのけんと「はいよろこんで」MV制作者・かねひさ和哉に聞く、23歳で昭和レトロな作風に辿り着いた背景

CREA WEB / 2025年1月25日 17時0分

 リズミカルなメロディとサビ部分「ギリギリダンス」のキャッチーな振り付けで、SNS総再生回数150億回超えの大ヒットを記録した、こっちのけんとさんの楽曲「はいよろこんで」。

 明るい曲調とは裏腹に歌詞はいきづらさを抱える人にあてたメッセージ性の強いもので、その意味深な歌詞の謎解きに多くの人が夢中になった。

「はいよろこんで」の世界観の解像度をより上げたのが、昭和の漫画テイストのMVだ。作り手のかねひさ和哉さん(23歳)に、この作風に至った背景や「はいよろこんで」の制作舞台裏について聞いた。前篇と後篇の2回に分けてお届けする。


昭和が好きというより、ある特定の表現・作品が好き


「はいよろこんで」MVに登場するキャラクター・カネヒサ君は、もともとかねひさ氏が創作してYouTubeにアップしていたもの。©blowout Inc.

――かねひささんの代名詞といえば、現代社会を昭和30~40年代のテイストで表現したアニメーションです。昭和という時代への興味はいつからお持ちでしたか?

 昭和が好きというより、ある特定の表現・作品が好きといったほうが正しいかもしれません。たまたま自分の好きな表現が昭和の特定の時代に固まっていたんです。いつから興味があったかというと、だいたい幼稚園児ぐらいの頃から、昔のアニメーションやテレビコマーシャルに惹かれて見ていたと記憶しています。

――見る機会があったんですか?

 当時、バラエティの特番で『鉄腕アトム』や『天才バカボン』を紹介するような番組が結構放送されていたんです。そういうものを見て昔の作品に興味を持ったのがきっかけでした。

――昭和のアニメに惹かれた理由はなんだったのでしょう。

 気づいたら夢中になっていたのですが、今改めて推測するに、シンプルな絵がすごく生き生きと躍動感を持って動いていたことに興味が湧いたんだと思います。近年のアニメ作品はストーリーや物語性、あるいは繊細な描写が素晴らしいですが、そういうものよりはむしろ、粗削りでも作っている人の楽しさが伝わる、勢いがあるアニメーションに惹かれた部分もあるのかなと思います。

――手作り感、クラフト感が逆によかったんですね。

 まさにそうです。フィルムやVHSっぽい質感にも、手作り感、アナログ感がある。ただのデータではなく、物質としてまるでそこにあるような感じのするものはいいなと思いますし、僕自身、表現として大事にしたいです。

――昔から好みが渋かったようですが、かねひささん自身はデジタルネイティブな世代ですよね。

 そうですね。ですから、たとえば僕の作品のベースになってる昔のコマーシャルやアニメーションは、インターネット上での配信などをきっかけにハマっていきました。アニメの歴史についてもすごく興味があるんですけど、それに関しても最初はWikipediaの知識などから入ってるので、簡単にインターネット上で映像や音楽が楽しめる時代に生まれたおかげと言えます。

――ネットのおかげで情報を掘り起こしやすかったと。

 割と誰でも世界中のどこでも、いろんな国のものが見られる環境にあったからこそ、結構いろんなものに興味を持って掘っていくことができたのだと思います。

――CDは買ったことがありますか?

 はい(笑)。うちは僕が中学校に入るぐらいまでは普通にMDやCDを使ってたんです。なので、今でも結構Spotifyとかで配信されてないアルバムのCDなどは買います。

――デジタルネイティブ世代でありながら、物質も身近にあったのはいい環境でしたね。

 はい。両親が共働きだった関係で祖父母の家によく預けられていたのですが、そこにも昔のものがたくさんあって。フィルムに関しても、祖父母の家に昔の8ミリフィルムカメラと映写機があり、祖父に使い方を教えてもらって、祖父が過去に撮っていた8ミリフィルムを遊びで上映したりしてたので、フィルムの使い方とか、フィルムがどういう仕組みで映ってるのかなどは小中学生の頃には理解した上で楽しんでいました。

今の作風の原点は大学2年生のときに作った映像


愛知県にある「博物館明治村」を訪れるかねひさ氏。

――そこから映像制作を始められたきっかけも伺いたいです。

 もともと小学生の頃から漫画を描くのがすごく好きで、自由帳などに漫画を描いてるような人間でした。しかし中高生の頃に一度絵で挫折を経験。大学ではアニメーションを作るのではなく、アニメの歴史を調べることに専念して学んでいました。その過程で、テレビの業界史であったり、あるいはテレビや映画がどのように発展してきたのかであったりを調べていくうちに、面白くなってきて。

 大学2年生のときに体調を崩して休学したのですが、その際に時間ができたので、息抜きというか、リハビリがてら久しぶりに映像を作ってみようと思ったんです。昔の表現は歴史の勉強を通して自分の中に蓄積されてはいたので、それと現代のモチーフを組み合わせてみたら面白いんじゃないかと思って。そういう素朴な好奇心から最初は始まりました。

――それはもう今のかねひささんの表現そのものですね。

 まさに直結するもので、さらに遡ると中学生の頃にアニメーションを趣味で作ったりはしていたんです。ただそれは今みたいに昭和のテイストを全面的に出したようなものではなく、純粋に自分の好きなように作っていました。昔の古典的な表現と現代のモチーフを組み合わせるという、今の原点になったのはこの大学2年生のときです。2022年の1月頃でしょうか。

――たとえば作品の一つ「もしも昭和30年代にiPhoneのCMが放送されていたら」のイメージソースはどこから持ってきているのでしょうか。

 昭和30年代の時代設定にしているので、音楽に関してはコマーシャルソングの草分け的存在の作曲家・三木鶏郎さんの曲を聴きこんで、大体どういう歌詞の展開で、どういうふうに曲が成り立っているかを学びました。

 映像は桃屋のアニメCMの三木のり平さんのキャラクター、あるいはサントリーのアンクルトリス(トリスウイスキーの広告キャラ/トリスおじさん)などを参考にしています。横浜にある放送ライブラリーに所蔵されているコマーシャルフィルムをぶっ通しで見て研究しました。

――発表した作品は反響が大きかったと思います。どの層に多く届き、どういうリアクションがありましたか?

 だいたい20~30代の若い方からの反応が多かったです。一周回って新鮮な驚きというか、面白さを感じ取っていただけたことが窺えるようなコメントをよくいただきました。昨年からはクライアントワークが増えてきたので、届く層が広がってきています。

 最近はレトロ要素よりもアニメーションやキャラクターとしての魅力に重点を置き始めている部分もあり、「はいよろこんで」のMVを作ってからは小学生からの人気が凄まじくて、ファンレターをいただくことも。昭和風だからといって、年配の方にしか受けていないというわけでは決してないと感じます。

当時の表現をリスペクトした上で、模造品にならないものを作りたい

――NHK『みんなのうた』で岡崎体育さんの楽曲「ともだちのともだち」のアニメーションも制作されましたね。番組にとてもフィットした作品だと思いました。


NHKみんなのうた「ともだちのともだち」のアニメーションより。

 実はもともと『みんなのうた』の大ファンでして。音楽に合わせて動くアニメーションというのが、僕にとってある意味アニメーションの一番理想としてるところでした。僕のアニメーションの模範、理想として君臨してる番組なので、嬉しかったです。

 特にアニメーターとしては南家こうじさんや、堀口忠彦さんの作品から強く影響を受けていると思います。プレッシャーはありましたが、だからこそ、当時の表現をリスペクトした上で、模造品にならない、当時の亜流、二番煎じにならない、僕だからこそできるようなものを作りたいという思いはありました。

――模造品にならないよう意識されていることを教えてください。

 たとえば、「はいよろこんで」のMVの場合、出てくるキャラクターはもともと僕が創作してYouTubeに上げていた「カネヒサ君」をそのまま使っています。

 キャラや美術は昭和30~40年代の大人向けの漫画雑誌に連載されていた風刺漫画のスタイルを借用しているんですけど、それらの絵は比較的硬いものなんです。高度に抽象化・デフォルメされたもので、キャラクターを動かすためのものではないと思うんですけど、それをテンションの高い音楽に合わせて、テンションの高い動きをさせる。動きは1930年代のアメリカのカートゥーンに影響を受けています。それを1960~70年代の日本の漫画のスタイルと噛み合わせると、奇妙な面白さが出るんですよね。

 では自分ならではの表現とは何なのかというと、やはりアニメ史の研究をやっていたこともあり、アニメーションや漫画がどういう表現、歴史を辿ってきたのかっていうことに対する強い関心が核になっていると思うんです。

 その上で作り手として僕が大事にしていることは、「楽しさ」。本来アニメーションや漫画が持っている原始的な楽しさ、面白さ、粗削りでもいいから見てたら気分が上がる、何度でも見たくなるみたいなものを大事にしたいと思っていて、それが自分のスタイルというか、ある種のオリジナリティみたいなものにもつながってくるんじゃないかなと思っています。

――クライアントワーク以外で、これから作りたい作品のモチーフはもう決まっていますか?

 アニメーション史にもっと目を向けて、アニメの歴史を戯画化する企画をやってみたいと思っています。架空の一本の長寿アニメをでっち上げて、それを作った人のインタビューとして制作過程を語ったり、それにどういう企業やどういう社会状況が関わって、どういうことが起こったのかを見せたりということを全部フィクションでやろうと思っています。

 自分の核となっている楽しさ・娯楽性を確保しながら、作品の置かれた運命というか、歴史に付随する作品の文脈が時代によってどう移り変わっていくのかを見せる作品を作ってみたいです。


かねひさ和哉(かねひさ・かずや)

アニメーション作家・アニメーション研究家。2001年生まれ。幼少期より日本のテレビアニメやアメリカの短編カートゥーンを愛好し、2022年よりアニメーション制作活動を開始。現代社会を昭和30-40年代のテイストで表現したアニメーションが話題を呼ぶ。代表作に「はいよろこんで」ミュージックビデオ、NHK『みんなのうた』「ともだちのともだち」アニメーションなど。

文=綿貫大介
画像=かねひさ和哉

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