デビュー10年、26歳。神尾楓珠の“LINEがない時代”のほろ苦い思い出「好きな子の親が家電に出て、わあ! って(笑)」
CREA WEB / 2025年1月29日 11時0分
武道館で待ち合わせる「ペンフレンド」はいないけれど……神尾楓珠の青春時代をプレイバック
本年、デビュー10周年を迎える俳優の神尾楓珠さん。
記念すべき2025年の幕開けとなる作品は、桜田ひよりさんとW主演を務める映画『大きな玉ねぎの下で』。神尾さんは本作にて、大学4年の就活生で思うように将来像を描くことができない堤丈流を等身大で演じた。
思えば、神尾さん自身もデビュー当時からしばらくは将来に希望を持てておらず、丈流の気持ちにオーバーラップしたとポツリと話す。
それでもこつこつとオーディションを受け、作品をつかみ取り、めげずに自分のできなさと向き合った。挑み続けた結果、神尾さんには途切れずオファーが舞い込むようになったわけで、何とも実り多い10年といえるだろう。
インタビューでは、映画『大きな玉ねぎの下で』の撮影エピソードに加え、デビューから現在までの軌跡について、バイオグラフィーとともに振り返ってもらった。
意識したのは「かわいらしく!」
――映画『大きな玉ねぎの下で』は、爆風スランプの同名楽曲にインスパイアされた物語です。神尾さんは、もともとオリジナル楽曲をご存じだったそうですね?
はい。テレビで聴いたことがありましたし、耳なじみのある楽曲でした。リリースされた1985年と時代背景が全然違う部分はすごく新鮮に感じながらも、ストーリー性のある歌詞だから主人公の気持ちはすんなり入ってきたんです。美優(桜田さん)との関係をバイトノートを通して深めるうえでもとても大事な曲なので、撮影中もよく聴いていました。
――丈流と美優は最初は犬猿の仲ですが、距離が近づいていきます。お互いに素直になれず、とてももどかしい関係性に映りました。
お互い人として気になっているからいがみ合ってしまうわけなんですよね。「この二人の関係性をかわいらしく見せたい」と草野翔吾監督もおっしゃっていたので、どうしたらかわいく見えるかなと試行錯誤しながらやっていました。
――かわいかったです。すごくキュンポイントが多かったですよね。
えっ、本当ですか? キュン……は今回まったく考えていなかったです(苦笑)。二人がかわいらしく見えたらということだけを考えていました。そっか~キュンしましたか!
「素の神尾」が見られる作品になっている
――皆さん、されると思います。そして神尾さんが演じた丈流は、漠然と将来への不安を抱え悶々としており、共感性の高い役に感じました。演じてみて、いかがでしたか?
難しかったのですが、すごく演じ甲斐がありました。監督とはご一緒するのが2回目で、「この作品では素の神尾くんが撮りたい」というリクエストをいただいていました。というのも、前回(『彼女が好きなものは』)ご一緒したときに、「役ではなく、普通に笑ってる神尾くんを見てそれを撮りたいと思った」とおっしゃってくれて。だから素に近いというのもテーマに据えていました。
――素に近いけれども素ではなく、丈流というキャラクターをまとうわけなので難しかったということですよね。
そうなんです。丈流という人物はもちろん意識しつつも、そこまで作り込みすぎずに演じました。僕自身は就活をしたことがないけれど、丈流の行動や気持ちを見ていると、これはすごくリアルな姿かもしれない。自分がうまくいってないことに対して強がってしまうところ、将来に希望が持てずにちょっとひねくれてしまう部分は、僕も同じような経験があったなと……。
自分を守るために強がって見栄を張ってしまったり、友達に弱いところを見せられないとか。そこはすごく共感しましたね。
――ひねくれているなと思ったのはお仕事を始めてからですか?
お仕事を始めた最初のときもそうですし、学生時代にサッカーをやっていたときにもありました。
――その気持ちをどう昇華していった?
自分を過大評価しないようにしたら自然と昇華できた気がします。それまでは「全部自分でやらなきゃ」と勝手に背負っていた感じがあったんですけど、周りの人に頼れるようになれました。今は「強い自分でいなきゃ」とも思わなくなったかもしれません。
小学生のとき、好きな子の家に電話をかけたら……
――本作のキー「ペンフレンド」は令和ではなじみのないカルチャーですが、どんな印象を受けましたか?
本当に今の時代だったら考えられないですよね! 知らない人に自分の住所や名前、もろ個人情報を教えて手紙でやり取りするって……。ペンフレンドではないですけど、マッチングアプリは顔やプロフィールを公開するわけなので、ちょっと近いのかも? そう置き換えたら身近に感じられました。僕はマッチングアプリをやったことがないのですが……(笑)。
――神尾さんなら、どんな人とペンフレンドになりたいですか?
共通の趣味がある人がいいなと思います。そのほうが、話したいこともどんどん出てくるかな。ペンフレンドは、自分が手紙を書いて、投函して、相手に届いて、また相手が書いて……というシステムですよね。
手紙は相手に届くまでちょっと時間がかかりますし、その1枚に言いたいことのすべてを書かないといけないから、1回1回を無駄にできない感じがある。思いがすごく乗っていますよね。そういう価値観はすごく素敵だなと思うんです。現代だと、連絡は取ろうと思えばすぐ取れちゃうから。
――ある種の不自由さみたいなものに憧れも抱きますか?
そうですね。手紙とは少し違いますけど、僕はLINEがない時代のメール文化を経験しているので! メールは既読かどうかも分からないし、送ったら取り消せないので、あのドキドキ感がすごくよかったなと思いました。
家の電話とかも似ていませんか? 小学生のとき、僕は携帯を持っていたんですけど、好きな子は持っていなかったから家電にかけていたんです。向こうの親が出て、「わあ!」みたいなあるあるも経験済みです(笑)。
デビューからの10年間を振り返って「これに落ちたら辞めよう」
――神尾さんは2025年でデビュー10周年を迎えられます、おめでとうございます! デビュー当時の自分は現在の神尾さんにどう映りますか?
興味本位で芸能活動を始めたこともあり、当時は本当に何も考えていなかったんです。撮影現場に行っても「ここはどこ? 今は何の時間?」、「あ、山田涼介だ! 間宮祥太朗だ!」みたいな感じで(苦笑)、自分が俳優という実感が全然なかったですね。
――ターニングポイントとなった作品を選ぶなら、どれになりますか?
ターニングポイントでいうと、ドラマ「恋のツキ」(テレビ東京/2018)と「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系/2019)の2作です。
――ドラマ「恋のツキ」は徳永えりさん演じる平ワコが、恋人(渡辺大知)がいながらもバイト先の高校生・伊古ユメアキに惹かれてしまうというストーリー。神尾さんはユメアキを演じられましたね。
「恋のツキ」はオーディションで選んでいただきました。当時、「これに落ちたら辞めよう」と思っていたんです。オーディションでもそう言ったくらい意気込みもありましたし、とにかく必死でした。あの頃は、すごい焦りがあったんですよね。それは今回演じた丈流の面接の必死さとちょっとかぶるなと思います。
結果、選んでいただいて、地上波で初めてメインの役として出させてもらうことになりました。でも気合いが空回りしたのか、上手くやろうとしていた自分がいました。
監督には見透かされて、ダメ出しをされて。そこで自分は上手くないんだなと、1回自分を見つめることができました。それからは下手くそなりに頑張ろうと思い直せたので、本当に転機になった作品だと思います。
――俳優としての覚悟を改めた作品だと。もう1作の「3A」は菅田将暉さん演じる高校教師が生徒29人を人質にとり、ある生徒の死の真相を明らかにする学園ミステリー。非常に話題になりましたよね。
はい、そうですよね。同世代にこんなに上手くて、すごい人たちがいっぱいいるんだってまざまざと感じた作品でした。もっとちゃんと仕事と向き合わないといけないなと、そこでも刺激を受けました。
――「3A」は各話ごとにスポットが当たる人物が変わっていくのも特徴で、その分プレッシャーもかかっていたのでは?
本当にそうでした。当時は今より少し強気だったのもあって「やってやる!」と思っていたんです(笑)。今はそうした競争心みたいなものはあまりないけれど、同世代俳優と一緒にいたので湧いた感情だったかもしれないですね。
――18~19年あたりから出演作品も途切れず、かなり忙しくなっていそうです。
確かにこのあたりから、何年に何をやっていたかとか……もう全然覚えていないです。作品についてはちゃんと覚えているんですけど、自分は何を考えていたのかな……(笑)。
――プライベートと仕事の割合も大きく変わったんですか?
変わったと思います。がむしゃらにやらなきゃいけない時期ではありましたけど、プライベートも大事なので、仕事だけにならないようにとはずっと意識していました。
――選ぶのは難しいと思いますが、特にご自身のお気に入り作品は何でしょう?
「いちばんすきな花」(フジテレビ系/2023)。本当に好きな作品です。
いま同じように演じろと言われてもできない気がする
――即答でした。多部未華子さん、松下洸平さん、今田美桜さんとのクアトロ主演で4人の男女による“友情”を描いた本作。本音を話せる相手が1人もいない、という悩みを抱えた青年・佐藤紅葉を演じました。紅葉はナチュラルさが求められた役ですよね、何をポイントに演じられましたか?
脚本のセリフに色があったので、書いてあることをなぞるだけで会話として成立するような作品だったんです。そこをどう「ただ言う」だけで終わらせずに演じるかを考えていたかもしれないです。
言うだけだったら別に自分じゃなくてもいいので、自分がやる意味はどこなんだろうと思いながらやっていました。その答えは、言葉では表せられないんですけど。
――感慨深い10年ですが、俳優として自分自身が成長できたと感じるときはありますか?
全然10年も経った気がしていないです(笑)。成長……しているのかと言われたらわからない。でも例えば、今「恋のツキ」や「3A」をもう一度やれと言われても絶対できないと思うんですよね。
――そのときのベストを神尾さんが出していて、その時代の神尾さんが映し出されているから、ということですよね。成長の証かもしれないです。
そう言っていただけると成長なのかなと思います。俳優業は正解がないので、当時も今でも「これで合っているのかな」と不安になることがいっぱいあります。自分がすごく納得いっていたとしても、評価されなかったら意味がないときもありますし。なので、何も考えてなかったあの頃よりは成長できたのかなと思います。それでもまだまだこれから、成長途中です。
神尾楓珠(かみお・ふうじゅ)
2015年、24時間テレビドラマスペシャル「母さん、俺は大丈夫」で俳優デビュー。ドラマ「恋のツキ」、「3年A組 今から皆さんは、人質です」、「いちばん好きな花」、映画『彼女が好きなものは』、『恋は光』など、話題作に出演し注目を集めた。公開待機作には4月25日公開予定『パリピ孔明 THE MOVIE』がある。
文=赤山恭子
撮影=山元茂樹
ヘアメイク=奥山信次(barrel)
スタイリスト=大内美里
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