「夢を叶えるまで」を描く朝ドラ、「叶えた後のリアル」を描く夜ドラ…蓮佛美沙子主演のNHK「バニラな毎日」で繰り広げられる“スイーツ・ヒューマンドラマ”が面白い
CREA WEB / 2025年2月7日 17時0分
永作博美×蓮佛美沙子 名優がうみだす一風変わったシスターフッド
新雪のごとく凛と角立つメレンゲ。色よく焼き上がった生地に手際よく乗せられていくクリームや鮮色のソース、端正にカットされたフルーツたち。パティシエの熟練した手つきにより、洋菓子に色とりどりの命が吹き込まれていく。
見目麗しく、美味しいフランス菓子を求めて、店の前には客が長蛇の列を作っている。しかし最後の客を見送った後、主人公の白井葵(蓮佛美沙子)は深いため息をついて、つぶやく。
「終わりか……」
「パティスリー ベル・ブランシュ」閉店の日から始まった夜ドラ、「バニラな毎日」(NHK総合)の「第1夜」。冒頭3分から物語の世界に引き込まれる。これは、甘いお菓子のお話でありながら、人生の苦味を描く「スイーツ・ヒューマンドラマ」だ。
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主人公の白井は、夢だった自分のパティスリーを開店して5年。しかし経営は赤字続きで、苦渋の決断の末、店を閉めることに。手元には400万円の借金が残った。退去に伴い原状復帰するにも150万円かかるといい、白井は居抜きで借りてくれる人が見つかるのを待ちながら、借金返済のためにバイトを掛け持ちする日々だ。
たとえば朝ドラでは、主人公が「夢を叶えるまで」のエピソードに力点が置かれることが多い。しかし夜ドラでは、経営の維持に挫折した三十代半ばの主人公の葛藤を描きながら、「夢は叶えた後が大変」というテーマに取り組むのが面白い。ちなみに、「ヒロインがパティシエになって自分の店を持つまで」が見せ場であった朝ドラ「まれ」(NHK総合/2015年前期)で演出を担当していた一木正恵氏が、この「バニラな毎日」のチーフ演出をつとめている。
そんな「人生詰んだ」白井にある日、料理研究家を名乗る「謎の大阪のおばちゃん」佐渡谷真奈美(永作博美)が声をかける。空いている厨房を「お菓子教室」として貸してもらえないかというのだ。生徒となるのは、複雑化した現代社会の中で様々な悩みを抱える人たち。授業は佐渡谷と生徒のマンツーマンでおこなうという。
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「崖っぷちパティシエ」の張り詰めた日々のはざまで、折に触れ白井の感情がほころんで、生々しい人間の顔が見える。この繊細な芝居を、主演の蓮佛美沙子が見事に表現している。菓子作りで手元が映るシーンでは絶対に吹き替えを使いたくないと、蓮佛は自ら製菓作業の猛特訓を志願したのだという。その甲斐あって実現したリアリティが胸に迫る。
白井の日常に風穴を開けにやってくる、佐渡谷を演じる永作博美が醸し出す「つかみどころのなさ」も効いている。名優ふたりのやりとりが生み出す、一風変わったシスターフッドが楽しい。
木戸大聖や土居志央梨…週替わりゲストの生き様と菓子製作の映像美が見どころ
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初めは場所の貸主として「お菓子教室」に立ち会うだけの白井だったが、徐々に佐渡谷の不思議なパワーに巻き込まれ、佐渡谷とともに生徒に菓子作りを教えることになる。全8週のうち、2月6日の放送で3週までを終えた本作。週ごとのゲスト俳優が演じる、悩める生徒たちの生き様が粒立つ作劇と、彼らに課題として提案される洋菓子の製作過程の映像美が見どころだ。
そして何より、目下悩みのど真ん中にいる白井が、それぞれの生徒、それぞれの菓子と向き合う中でいろんなものを受け取っていく姿が、観る者の心を掴んで離さない。
時おり回想として挟まれる白井の来し方が、物語に深い陰影を与えている。白井はおそらく幼少期に、何らかのかたちで母親(谷村美月)に捨てられ、母から言われた「あなたに私は必要ないのかもね」という言葉がトラウマになっているようだ。母の言ったとおり、大人になっても何でもひとりで抱え込む性格で、こだわりが強く融通が利かない白井。他者との関わりを避け、自分で自分を追い詰めて、がんじがらめになっていた。それが店の経営がうまくいかなかった一因でもありそうだ。
そんな白井が、「臨機応変」と「適度なゆるさ」が信条の佐渡谷流「お菓子教室」からさまざまな影響を受けながら、新たな自分を発見していく。たったひとりで店を切り盛りし、たったひとりで菓子と向き合う。それだけのために生きてきた白井が、佐渡谷や生徒たちという「他者の視点」にふれることで、少しずつ変わっていく。
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第1週(第1~4夜)の生徒は、東大卒で経産省でのキャリアもあるエリートの順子(土居志央梨)。失敗を恐れ、他者からの評価に振り回されすぎて心を病んだ順子に提案されたのは、「生地を仕込むのを忘れて後から乗っけて焼いた」という失敗から生まれたタルトタタン。この菓子から、順子だけでなく白井も、いろんな形のリカバリーがあること、発想の転換が前に進むヒントになることを学ぶ。
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第2週(第5~8夜)で登場した大人気ロックバンド「PINKDOGS」のヴォーカル・秋山(木戸大聖)には佐渡谷から、手軽に作れる家庭菓子のチョコレートブラウニーが提案される。しかし秋山は高級菓子のオペラが作りたいという。そこで白井はブラウニーとオペラの間をとったザッハトルテを秋山に提案する。互いにどこか似たところのある秋山と白井は、「何事も0/100で考えるから自分を追い詰めてしまう」「両極のどちらでもない“サードプレイス”が人生を助けることがある」という気づきを得る。
「お菓子の処方箋」で解きほぐす人の心
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第3週(第9~12夜)の生徒は、母子癒着と母親の過干渉に苦しめられてきた優美(伊藤修子)。母が亡くなる直前に自分に助けを求めて電話をかけてきたのに、無視してしまったことを悔い続けている。白井は、優美の母が大好きだったモンブランと優美が大好きなチーズケーキを合体させた「モンブラン・フロマージュ」を提案する。
優美は作りながら、母と自分の関係を回顧していく。出来上がった菓子を食べる優美の中に、恩讐、愛憎、共依存と開放感……相反するいくつもの感情が湧き上がる。それでいいのだ。人はいくつもの顔を持ち、幾重もの感情を抱えて生きている。
「モンブラン・フロマージュ」を前に、白井は優美の母の気持ちに思いを馳せる。ひきこもりだった優美が母親からの電話に出られないほどに、一緒に何かに夢中になれる仲間ができたことが、優美の母は「うれしいと思います」と白井は言う。この気づきはやがて、白井自身の母娘関係にもフィードバックされそうだ。
このドラマでは、生徒たちと、彼らに“処方”される菓子、そして佐渡谷の言葉を通じて「人は見かけだけではわからない」「いいか悪いか、どちらかに決める必要などない」というメッセージが繰り返し発されている。白井と一緒に視聴者も少しずつそのことに気づかされていく。光を当てる方向を変えれば、物事の見方は違ってくる。白井がどん詰まりだと思っているこの時期は、見方を変えれば「次のステップに進む前の小休止」なのかもしれない。
「お菓子の処方箋」は、ほんの小さな魔法だ。それを摂取したことで、一瞬でも笑顔になれる。少しだけ気持ちがほぐれる。目線を変えるきっかけになる。つまり、こうした小さな成功体験の積み重ねが大切なのだ。関わりあう複数の人間の思いが、少しずつ作用しあって、何かが変わっていく。そんな「小さな魔法」の連続のおかげで、私たちは生きていけるのかもしれない。
文=佐野華英
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