五輪なでしこ戦の裏で炸裂した、ラジオの王様の誠実な毒『JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』

日刊サイゾー / 2012年8月14日 8時0分

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しゃべりと笑いと音楽があふれる"少数派"メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。

 8月6日月曜深夜1時、いつも轟くはずの伊集院光の声が、東京から消えた。いや、正確には消えたのではなく、その声はTBSラジオのスタジオで鳴っていた。しかし、なぜか関東地方には届けられなかった。TBSラジオ制作の生放送番組が、TBSラジオ本体では放送されず、地方のネット局では放送されるという、奇妙にねじれた事態が起こっていた。いわゆる、「裏送り」と呼ばれる状態である。

 いつもならば、『JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ 月曜深夜1:00~3:00)が放送される時間だが、同局では、なでしこジャパンの五輪準決勝の試合が中継されていた。しかし、この試合を放送していたのはTBSラジオだけではない。関東圏の「radiko」の番組表を基準とするならば、AM/FM合わせて9つの放送局が、同じ内容を中継していたのである(ラジオ日本と専門各局は中継せず。さすが、ラジオ日本!)。しかも、オリンピック中継なので、実況・解説はすべて基本的に同じだ。ハーフタイムや試合後にその局ごとの情報が入ることはあるが、決め手になるほどの違いはない。完全に異常事態である。

 そんな状況下で行われたこの日の『深夜の馬鹿力』のオープニングトークを、伊集院光は、「基本ふてくされですよね」のひとことでスタートさせた。頼もしいとしか言いようがない。この日の放送は、聴くことができない投稿者たちへの配慮としてネタコーナーは一切やらず、「1000の質問スペシャル」と銘打って読者の質問に次々と答えていくというスタイルを取っていたのだが、リスナーの質問がこの「裏送り」の件に触れると、伊集院は一気にヒートアップ。「バカじゃねえ? って思いますよ、基本的には」「女子サッカー好きな人は、テレビ見るってー」「東京のラジオ局でなでしこの放送やってるところは、バカです」「工夫がない」と、快調にラジオ局およびラジオ業界全体への批判を繰り広げる。

 しかしその毒舌が、単なる批判だけでは終わらないところが、伊集院のしゃべり手としての真骨頂でもある。先述のストレートな批判の連打に続けて、「全局音声一緒なの? おりこーさーん」とほめ殺したり、なでしこの相手がフランスだと聞いて、「フランソワーズ・モレシャンが、フランスびいきの慣れない実況をするとかすればいい」と無謀な策を提案。そうかと思えば、「ここまですさんだ気持ちでやってるんだから、絶対勝って!」となでしこジャパンにねじれたエールを送ったりと、「裏送り」という不遇な状況を笑いに変換し、この日の放送は皮肉にも、むしろ伊集院の面白さが際立った回になっていた。

 とはいえ、この日の放送だけが特別なわけではない。過去にも伊集院は、番組内において、身内ともいうべきラジオ業界に対し牙をむいてきた。そもそも「育ての親」であるニッポン放送との確執を経てTBSラジオに移籍してきた伊集院のこと、自身に批判的だったニッポン放送上層部の実名を、面白くなるまで繰り返し繰り返し連呼して非難したこともある。また、ニッポン放送が裏番組に単発で『長澤まさみのオールナイトニッポン』をぶつけてあからさまな数字を取りに来た際には、自らも『<嘘>長澤まさみのオールナイトニッポン』を名乗り、まったく似せる気のないモノマネで本人が絶対に言うはずのない下ネタを放ちつつ、ニッポン放送のあざとい姿勢を強烈に当てこするなど、ことニッポン放送に対しては厳しい姿勢を貫いている。

 だが、伊集院のフェアなところは、今回の「裏送り」の件と同様に、現在の身内であるTBSラジオにも容赦なく噛みつくという点にある。以前、『小島慶子 キラ☆キラ』でラジオパーソナリティーとしてブレイクを果たした小島慶子が『情熱大陸』(TBS系)に出演した際には、「いつの間にかラジオ界全部を勝手に背負い始めた感じが怖い」と万人がそこはかとなく小島に対して感じている不快感を表明したり、名前や時間帯を変えながらも約27年間続いた小堺一機と関根勤の伝説のラジオ『コサキンDEワァオ!』の終了に際しては、「聴取率はいいのに、スポンサーがつかないという理由で番組が打ち切られるのはおかしい。ならば、スポンサーを取ってくる課の人も一緒に辞めるべき」と、局の姿勢に強く疑問を投げかけた。

 いずれの発言も、ラジオの一番組でやるにはあまりにリスクが大きすぎる、というのが大人の判断だろう。だが、伊集院がリスナーの圧倒的信頼を獲得しているのは、まさにこの、時に身内(自身も含む)をも対象とする徹底した是々非々の姿勢であり、あらゆる発言が一瞬にして広まる今の世の中でいまだその姿勢を貫いているのには、相当な覚悟が伴うはずだ。実際、ラジオで批判したタレントと別の現場で遭遇したとき、すれ違い様に「ラジオ聴いてます」と言われて、肝を冷やした経験が何度もあると伊集院は語っている。しかし、それでも彼が是々非々の姿勢を貫き通すのは、その意見のロマンティックなまでの正しさはもちろんのこと、すべての発言がスポンサーでもラジオ局員でもなくリスナーに向けられているという、本来ラジオパーソナリティーが持つべき当たり前の誠実さゆえだろう。だが、この誠実さを継続するのは、けっして簡単なことではない。誰もが空気を読んで安易に意見を曲げる時代に、伊集院光の誠実さは一際輝いて見える。
(文=井上智公< http://arsenal4.blog65.fc2.com/
>)

※画像は『JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』


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