ミラクルひかる 単なる"歌うま"と一線を画すクオリティ──そのものまねに宿る「本物の矜持」

日刊サイゾー / 2012年7月16日 8時0分

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 7月6日、『12年ぶり復活!ものまね王座決定戦!芸能界日本一は誰だ?大激突トーナメントスペシャル』(フジテレビ系)が放送された。フジテレビのものまね番組はこれまでにも定期的に放送されていたのだが、「ものまね王座決定戦」というタイトルで、トーナメント形式で行われるのは実に12年ぶり。かつて「ものまね四天王」として一世を風靡した清水アキラ、栗田貫一といったベテラン勢から、ダブルネーム、渡辺直美といった若手組まで、幅広い層の実力派ものまね芸人たちが参戦。「ものまね王座決定戦」という伝説的な番組の名前を冠しているだけあって、出てくるものまね芸人たちもいつになく真剣。最近のものまね番組にはなかった心地よい緊張感を楽しむことができた。

 ここで激闘を制して見事に優勝を果たしたのは、ミラクルひかる。宇多田ヒカルのものまねネタで知られる彼女は、トーナメントで毎回違うネタをかけて勝ち上がり、決勝でもmihimaru GTの「気分上々↑↑」を熱唱して、95点という高得点をマーク。圧倒的な実力を見せつけて栄冠を手にした。

 ミラクルひかるの代表作は、言わずと知れた宇多田ヒカルのものまねである。宇多田のあの歌声を似せるだけでも簡単なことではないはずなのだが、ミラクルは歌を真似するばかりか、容姿や動きも限りなく本物に近付けた上に、普段のたどたどしいしゃべり方までうり二つに再現することができる。これは間違いなくものまねの歴史に残る名作だ。

 ミラクルは、宇多田のものまねネタで有名になり、それ以降はものまね番組を中心に多数のバラエティ番組に出演するようになった。だが、彼女は、ものまね番組で必ずしも揺るぎないエース的な存在として認識されていたわけではなかった。なぜなら、ミラクルは、良くも悪くも「自分のやりたいネタをやる」ということにこだわりを持っていたからだ。

 宇多田のものまねに代表されるいくつかのネタでは、すさまじく高いクオリティのものまねを見せるのだが、それ以外のネタで一気に振り切って笑いに走るときの思い切りの良さも群を抜いている。ものまね芸人が「悪意のこもったネタ」を演じることはたまにあるが、ミラクルの持ちネタのいくつかはそのレベルを超えている。悪意を盛りすぎて、もはや原型をとどめていないと思われるほどのレパートリーも数多く存在していて、そういうのをやるときほど誇らしげなそぶりを見せるようなところがあるのだ。

 恐らく、ミラクルは「ものまねタレント」よりも「ものまね芸人」であるという自意識が強いタイプなのだと思う。単に似せるだけでは満足できず、自分なりの解釈や誇張を加えて、笑いどころを増やし、ときにはキャラクターが破綻するところまで暴走してみせる。そういう意味では、ミラクルは根っからの芸人気質なのだ。

 そんな彼女が、今回の『ものまね王座決定戦』ではひと味違う一面を披露した。本気のパフォーマンスで、徹底して勝ちにこだわる姿勢を見せたのだ。その裏には、自分と同じような枠の女性ものまね芸人が増えていることに対する焦りと苛立ちが見え隠れしていた。

 この日のミラクルの最高のネタは、準決勝で見せた「冬のオペラグラス」を歌う新田恵利のものまねだろう。元の歌を知っている人なら笑わずにはいられない再現性の高さ。新田のつたない歌声、微妙に外れる音程。それらを完璧に再現するという離れ業を演じたのだ。わざと下手に歌って笑わせるというのはたまにあるが、ほどほどに下手な歌をそのままほどほどに下手な状態で再現するというのはなかなかできることではない。ずば抜けた歌唱力の賜物だ。

 うがった見方をすれば、このネタは、歌がうまいというだけでもてはやされている昨今の「ものまね新女王」と呼ばれたりしている後輩芸人に対する、ミラクルなりの宣戦布告でもあるのだろう。「本物のものまねっていうのは、こうやるんだよ!」と。

 一視聴者の立場で言わせてもらえば、ものまね番組を見ていると「歌がうまいだけで別にそれほど似てはいないよね」とか、「それなりに似てはいるけど面白くはないし感動もしないよね」とか、そういうことを感じるときがたまにある。だが、ミラクルのネタにはそれがない。あふれるサービス精神、高いプロ意識、研ぎ澄まされた技術と発想力によって生み出された珠玉のものまねネタの数々。ミラクルひかるは、その負けん気の強さも含めて、ものまねに必要なあらゆる要素を持ちあわせている"奇跡"のものまね芸人だ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)


※画像は『ミラクルひかる/swinution 』


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