飽和する日常系アニメに新星現る? 『琴浦さん』が面白い!

日刊サイゾー / 2013年1月27日 16時0分

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 1月スタートの新作アニメ『琴浦さん』が、大きな話題を呼んでいる。

 他人の心の声を聞くことができてしまう超能力少女・琴浦春香と、彼女のことが大好きなクラスメート・真鍋義久をはじめとする周囲の人々が織り成す日常を描いた本作。そのポップな絵柄や、『みなみけ』『みつどもえ』『ゆるゆり』を手掛けた監督・太田雅彦&シリーズ構成・あおしまたかしコンビがスタッフの中核にいることから、放送開始前は“今回もゆる~い内容の作品なのだろう”と、原作を知らない多くのアニメファンは予想していたはずだ。

 しかし、いざフタをあけてみれば、想像以上にハードな人間ドラマと微笑ましい日常ドラマがサンドウィッチ状になったメリハリの利いた作風に多くの視聴者は衝撃を受け、その面白さを話題にするコメントがネット上に一気に拡散。

 「ニコニコ動画」では70万再生を突破(ちなみに2012年春アニメ『Fate/Zero』第2期は、およそ35万再生)。同人誌で『琴浦さん』を発行していたところ、現在の担当編集者に声をかけられ、本作で商業デビューを果たした漫画家・えのきづによる原作コミック(マイクロマガジン社発行)の注目度も急上昇。在庫切れが発生し、緊急増刷がかかったほどだ。「知る人ぞ知る面白いコミック」として漫画読みの間では密かに人気があった本作にとって、今回のアニメ化はすでに大成功を収めたといってもいいだろう。

 そんな本作の主人公・琴浦さんがうっかり他人の内面を「一方的に」覗き見てしまい、その内面にショックを受けてしまう姿は、Twitterやブログなど、一方的に発信されるSNSツールに翻弄される我々視聴者の姿とダブって見えるのは筆者だけだろうか。これらのツールを使ったことのある読者なら、本来なら直接誰かに言うべきではない自分の内面をつぶやいてしまい、それを読んだ他人から予想だにしない反応がきた。もしくはそんな誰かのつぶやきを目にしてしまい、気まずい気分になってしまった、という経験がある人も少なくはないだろう。

 琴浦さんの能力は、問答無用で目に飛び込んでくるSNSツールのようなものだ。SNSツールを通じて他人の悪意や目をそらしたい言動に直面した時、我々はデバイスをOFFにすればいいが、琴浦さんは常時ON状態。望むと望まざると善意も悪意も等しく渦巻く他者の内面と対峙してしまう。

 他人の心を読み取れてしまうがゆえに己の家庭を崩壊させ、行く先々で気持ち悪がられるという不幸な生い立ちを送ってきた彼女は、時に涙を流し、時に笑顔で過酷な現実を受け入れていく。琴浦さんの優しくも強いその生きざまは、他人の言葉に一喜一憂し、常に誰かの目線を意識しながら生きる我々そのものであり、彼女に共感し共に悩み戦ってくれるESP研究会の仲間と過ごす「日常」は我々の希望なのだ。

 これまで数多くの日常系アニメを手掛けてきた太田監督とあおしま氏が、ここまである種のリアリズムを伴った「日常」を描こうとしている点は非常に興味深い。本作が描こうとしているのは、決して「サディスティックな目線で愛でられるべき不幸な少女の物語」ではなく、「他人の善意も悪意も可視化された世界の中で生きていかざるを得ない我々の希望を描く物語」なのだ。

 飽和状態と思われた日常系アニメシーンに颯爽と登場し、あっという間に話題をさらった『琴浦さん』。過酷な現実をスパイスに、どこまで幸福な日常を描くことができるのだろうか?
(文=龍崎珠樹)

◆「週刊アニメ時評」過去記事はこちらから


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