廃墟から産業遺産へ──未来へ受け継がれていく炭鉱の記憶『未来世紀軍艦島』

日刊サイゾー / 2014年6月22日 16時0分

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 廃墟が静かなブーム、なんて話も今はむかし。廃墟ファンも、そうでない人も、軍艦島といえばすっかりおなじみのスポット。廃墟界のスーパースターだ。2009年の立ち入り制限解禁以来、多くの上陸ツアーが組まれるなど、その人気はもはや静かなブームといえないほどの盛況ぶりを見せている。今年1月、政府はユネスコに同島の世界遺産登録に向けて推薦書を提出。先日、富岡製糸場が世界遺産に暫定登録されたことで、「軍艦島も世界遺産に」という機運が高まってきている。「秘境・軍艦島」から「世界遺産 端島(軍艦島)」となる日も、そう遠い未来のことではないかもしれない。

 先人たちの生きた記憶は、興隆期の形を留め、未来へと受け継がれていく。『未来世紀軍艦島』(ミリオン出版)は、フリーカメラマンの酒井透氏が撮った軍艦島の写真集だ。全160ページに収められた写真は100点余り。青い海に浮かぶ島の外観は軍艦そのもの、工場の遺構はハードボイルドな雰囲気を漂わせ、住居跡は不思議ともの悲しい。大判サイズで観る遺構写真は圧倒的迫力に満ちている。巻末には島内地図や各写真の詳細な説明が掲載され、この一冊であたかも島内を巡っているような気分に誘われる。

 端島(はしじま)は、長崎港から南西約18kmにある無人島で、明治初頭から1974年の閉山まで、海底炭鉱の掘削および製炭の拠点として大いに賑わい、日本の近代化を支えてきた。軍艦島の通称は、島の外観が軍艦に似ていることに由来する。1960年(昭和35年)の最盛期には5000人を超える人々が起居し、世界一の人口密度を誇った。

 遺構には、人々が暮らした息吹が今も息づいている。

 夜明け間近の鉱業所跡。幾重にも並んだベルトコンベアの支柱が稼働していたころ、活況は如何ばかりであったろうか。

 荒れ果てた民家のふすまには「金魚とことりをおねがいします えさは少しでいい」その家の子どもが、残してきた金魚を案じて書いたのだろうか。脇には金魚と小鳥のイラストが添えられ、涙を誘う。

 島唯一の寺院・泉福寺跡。屋根も外壁も破壊されているが、地蔵が海を望み、今も全島を守り続けている。

――足しげく通い、レンズを向けているうちに、そこに立ち現われてくるものがあった。様々なものが、まるで固有の表情を見せ始めたようにも感じられ、それはあたかも遺構や建物が命を吹き返してくるようだった。(本文あとがきより)

 遺構は過去のものであるが、今を生きる私たちに、当時より熱く活気を伝え、より新鮮な感動を持って、ありし日を思い起こさせてくれる。忙しくて現地まで行けない人も、この『未来世紀軍艦島』が手元にあれば、居ながらにして軍艦島の息遣いを感じることができるだろう。
(文=平野遼)

日刊サイゾー

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