「傘かしげ」も「こぶし腰浮かせ」も存在しなかった!? 古き良き日本の心“江戸しぐさ”を論破する!

日刊サイゾー / 2014年9月9日 22時0分

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 ネット上では、「江戸しぐさ」の評判はすこぶる悪い。

 かつて公共広告機構のCMや東京メトロの広告などにも取り上げられ、オリエンタルランドやNEXCO東日本などの企業研修にも導入されてきた。さらには、公民の教科書や道徳教材として学校教育にも取り入れられているなど、公のお墨付きも獲得しているにもかかわらず、江戸しぐさは「捏造」であるという主張がまことしやかにささやかれているのだ。

 この「江戸しぐさ捏造説」を裏付ける新書が、原田実氏による『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』(星海社新書)だ。

 往来を行き交う人びとの暗黙の心遣いとして、お互いが傘を傾け通行しやすくする「傘かしげ」、相手の時間を奪うことを戒める「時泥棒」、ひとりでも多くが座席に座れるように、席を詰める「こぶし腰浮かせ」など、江戸しぐさは、江戸を生きる町人たちが相手を思いやるためのマナーであり、現代の日本人が忘れてしまった美しい習慣だと思われてきた。

 しかし、原田は、傘が江戸時代のぜいたく品であり、編笠や箕が雨具として用いられていたこと、江戸時代に精巧な時計などなく、外国人の残した証言からも日本人は時間にルーズだったこと、「こぶし腰浮かせ」を必要とするような長い座席の乗り物自体が存在しないこと……など、江戸しぐさが存在しなかった証拠を次々と語っていく。

 原田に従って江戸しぐさを見ていくと、怪しい点が次々と浮かんでくる。

 江戸時代に広く共有されていたにもかかわらず、なぜ、江戸しぐさは近年になって「発見」されたのか? 「NPO法人江戸しぐさ」の理事長であり、江戸しぐさ普及の第一人者である越川禮子氏は、幕末~明治期にかけて、薩長によって「江戸っ子狩り」が行われていたことを理由としている。当時、江戸っ子に対してベトナムのソンミ村のような殺戮が行われていたという越川の話だが、もちろんそんな話は歴史には刻まれていない。さらに、江戸しぐさは口伝で書物を残すことを禁じられており、わずかな書物も薩長勢力に渡ることを恐れて焼き討ちにされてしまったと、どうもに怪しさが際立っている……。

 では、なぜ江戸しぐさという偽りの伝統が生まれたのだろうか? 原田は、江戸しぐさの提唱者であり「創始者」である芝三光を調べ上げる。

 だが、複数の「江戸しぐさ」を扱う団体を調べると、芝の来歴は謎に包まれている。生年も、1922年生まれや1928年生まれなど複数あり、GHQに江戸しぐさの保護を請願したという話や、逆にGHQから江戸の素晴らしさを教えられたという説などが混在している。また、江戸しぐさの普及に乗り出す前は、経営コンサルタントとして活躍していた芝。彼の語る「江戸しぐさ」の哲学は、元マクドナルドの藤田田をはじめとする経営者により、70年代に出版されたビジネス書の哲学と奇妙に符合していく。

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