【ノーベル文学賞】発表の瞬間、ハルキストゆかりの地で何が起きているのか?

デイリーニュースオンライン / 2015年10月11日 12時0分

写真

 毎年この時期になるとザワザワすることがある。「村上春樹ノーベル文学賞問題」である。落選することが問題なのではない。そのあとの「村上春樹氏、また受賞逃す」という報じられ方にザワザワするのである。たとえば村上春樹が元気に手を上げて立候補して落ちるなら話はわかる(つまり選挙の出馬のように)。しかし毎年「また逃す」と勝手に言われてしまうのだ。理不尽の香り。

受賞の瞬間を待ちわびるハルキストの聖地

「村上春樹ノーベル賞候補→やっぱり今年も……」という季節の風物詩ネタは、まるで「ガキの使い」(日本テレビ)の「山ちゃんは辞めへんで~」化している。数年前からこの現象を私はラジオ番組で注目していたのだが、ますます拍車をかけている。あと、気になるのは毎年「受賞の瞬間を静かに待つ人々」の集まりだ。いわゆるハルキストと呼ばれる方々が全国各地に集い、毎年落胆の表情がニュースで流れる。いったい現場はどういう雰囲気で、どういう人が駆けつけているのだろう。

 そう思っていたら、千駄ケ谷の鳩森八幡神社でイベントがおこなわれるという情報を知る。境内にスクリーンを設け、発表の瞬間をカウントダウンしてみんなでその時を迎えようという趣旨らしい。思い切って行ってみた。ハルキストではないが、長年モヤモヤしていたこの問題は受賞すればケリがつく。

 10月8日。19時半に神社につくと、風に乗ってマイクの声や人々のざわめきが聞こえてきた。どこか「ゆく年くる年」の大晦日のそわそわ感を思い出す。20時に発表ということだったが、まだスクリーン前のイスに余裕があった。周りを囲むマスコミ陣のほうが多い感じだ。野次馬の私がイスに座って待つのはさすがに図々しいので、後方で立ってイベントの様子を見ていた。

 すると「千駄ヶ谷勉強会 思うこと」というプリントをもらう。そこには、受賞を逃がすたびにマスコミから「大衆文学で底が浅いから」「純文学ではないから」と言われるという書き出しから始まり、村上春樹は「純文学+大衆文学を和えて超える、新しい現代文学(春樹風文学)が生まれている」という見立てが書いてあった。アツいコラムだ。

 村上春樹にとって千駄ヶ谷はゆかりが深い。この地から創作活動を始めた。神宮球場もすぐ近くだからヤクルトファンにもなった。会場を見渡すと文学ファンだけでなく、地元に住むおじちゃんおばちゃんが集っていて「今年はとれよ~」というノリもあった。とても親しみを感じた。むしろそういう人たちのほうが多かった気がする。テレビカメラを向けられたおじさんが「よくわかんねえけど今年こそとってほしいよ」と陽気にしゃべっているのが見えた。

 いよいよ発表の時間が近づいてくる。いつのまにか会場も満席となっていた。前方の席に座っている人に何本かのクラッカーが渡される。

「受賞のときだけ鳴らしてください。受賞しなかったら鳴らさないでください」とイベント主催者から説明が入る。ヤクルトのユニフォームを着たおじさんがクラッカーを握りしめるのが見えた。スクリーンにスウェーデン・アカデミーの様子がうつる。派手にショーアップして発表しないと事前にレクチャーされていたので、みんな耳を澄ます。当然日本語ではない。さらさら言ってる言葉に「ハルキ」「ムラカミ」を探す。しかし神社のスクリーンから聞こえてきたのは、違うカタカナだった。

「え、え?」「なんて言った?」「なんか違う名前だぞ」。静かに騒然とした中、ヤクルトおじさんの肩が落ちるのを確認した。このあいだは、すぐ近くの神宮で14年ぶりに歓喜したであろうおじさん。結局、後方にいる私は誰が受賞したかわからないまま「受賞者は村上春樹ではない」ことだけはわかった。しかし会場がすごかったのはここからだ。すぐに司会者が「来年の受賞を願って、先ほどお渡ししたクラッカーを鳴らしてください」。ハルキストはタフだった。

 ヤクルトおじさんがパンと鳴らすのを見て、私は境内を後にした。帰り道、スマホでニュースを確認すると、受賞したのはベラルーシの作家スベトラーナ・アレクシエービッチ氏であった。英ブックメーカーで1番人気になっていた人でもある。実は、去年まで5年連続で村上氏が1番人気だったが、今年は2番人気となっているという点でも話題になっていたのだ。

(『異変 村上春樹氏 ブックメーカー、5年連続1位が…』テレ朝ニュース・10月8日)

「1番人気ではない」という、今年の「変化」がどう影響を及ぼすのか。今年は「逆の目」があるのではないか。いろいろな予想・分析記事を見て思った。実は、そんな変化にもかけて足を運んだ。しかし今年は本命どおりだった。

 さて。今まで謎だった「受賞の瞬間に集う人々」の現場を見ることができてよかった。にわかでも参加できることがわかった。千駄ヶ谷のおじさんおばさんが笑顔で終わる日が来るのだろうか。来年も、ヤクルトおじさんに会いにゆこうか。

著者プロフィール


お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)。

デイリーニュースオンライン

トピックスRSS

ランキング