【軽減税率】「1円でも嬉しい」と“合意”歓迎は貧乏人ではなく富裕層なワケ

デイリーニュースオンライン / 2015年12月19日 12時0分

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 12月12日、長きにわたる駆け引きの末、自民党と公明党はようやく軽減税率の適用範囲について合意した。2017年4月の消費税率10%引き上げ時、これにあわせて導入される軽減税率(8%)の対象品目は生鮮食品に加え、加工食品にも適用されることとなった。

 では、世間の関心はどうなのか。筆者はまず大阪・西成あいりん地区に向かった。師走の年の瀬を迎えたあいりん地区の住民たちは今回の軽減税率の合意をどうみているのか。住民たちの声を拾ってみた。

「税率8%? あまり実感湧かないです。生鮮食料品が8%に抑えられるといっても、私たちが生鮮食料品を購入することなど滅多にありません。むしろ酒類に軽減税率を適用されないことが不思議です。私たちにとっては酒こそ関心事ですからね」

 JR・新今宮駅西口を降りて1分程度歩いたところにある「あいりん労働福祉センター」を根城にする日雇い労働者・タナカさん(仮名・55歳)は今回の軽減税率合意のニュースについてこう語る。自宅を持たず木賃宿と呼ばれる簡易宿泊所、もしくは工事現場内での寝泊まりが多い日雇い労働者にとって、自炊する機会は少ない。生鮮食料品の軽減税率適用はさほど関心事ではないという。タナカさんが続けて語る。

「軽減税率適用といったところで10%と8%ではそんなに大差ない。むしろ飲み屋での食事を軽減して貰ったほうが有り難い。私のような人間は仕事はないときは安居酒屋で飲むのが楽しみなんです。外食は税率10%といわれても。そんなに違いがあるとは思えない」

 軽減税率の対象外となった西成地区のある居酒屋は、今回の合意で先々その営業にはさほど影響はないとみている。

「西成では今では500円も出せば十分飲めて食べられます。うちは税別にしてるので、税込みで540円になる。しかし消費税引き上げとなれば550円です。本来、この10円の差は飲食業では大きい。でも、西成に住んでる人はあまりそうした細かいことを気にしない。客入りは変わらないですよ」(居酒屋の店主)

 実際、冒頭部で紹介したタナカさんをはじめ、複数人のあいりん地区労働者に聞いてみたが、「消費税率引き上げといっても10円、20円の差でしかない」とほとんど関心を示さない。西成あいりん地区のメインストリーム、三角公園で暮らす日雇い労働者が語る。

「月収にして10万円も満たない収入での日雇い仕事。ちょっと小銭が減る程度としか思っていない。興味も関心もない」

食パンで3円の差は小さくない

 一方、お金持ちはどうか。富裕層が数多く住む兵庫県芦屋市の住民は今回の合意劇に多大なる関心を寄せる。芦屋マダムたちを直撃した。

「うちは主人と私、大学生の子、3人で食費は月に4~5万円程度です。もちろん外食を除いて、ですが。さほど高級な食材を用いず、スーパーでタイムサービスや賞味期限切れ間近のセール品を狙ってお買い物してます。ゲーム感覚で、いかに手頃な食材を手に入れ、美味しく頂くか。そこだけを考えています」

 兵庫県芦屋市生まれで芦屋育ちの主婦・ヨウコさん(44)は、地場企業オーナーの3代目(54)の妻。会社役員の夫の年収は1500万円程度だという。それでも結婚以来、倹約はかかさないという。ヨウコさんが続けて語る。

「食パンなんか例えばヤマザキパンのスーパーブレッドを138円で買っています。この価格は税抜き。だから税を入れると149円。もし今回、生鮮食品の税率が引き上げられていたならば152円。わずか3円ですが、ちりも積もれば、と考えると助かります」

 ヨウコさんをはじめとする30代、40代の芦屋マダムたちのほとんどが今回の軽減税率合意に歓迎と語る。

 兵庫県芦屋市の年収1000万円以上世帯と、西成あいちん地区年収100万円以下世帯では、なぜ軽減税率の関心度合いにこうも温度差があるのか。西成あいりん地区を数多く取材した経済ジャーナリスト・秋山謙一郎氏に聞いた。

「低所得層ほどお金への関心が薄いからです。西成あいりん地区でも“白手帳持ち”と呼ばれる日雇労働被保険者手帳を持つ労働者はそれほどでもありませんが、実質、ホームレス状態の日雇い労働者や生活保護受給者は、そもそもお金への執着が希薄。だから軽減税率がどうのといわれてもピンと来ないでしょう。一方で、とくに関西は、お金持ちほど1円、2円の差を気にします」

 富裕層ほど少額でもお金に関する執着を持つ。だが低所得層ほどお金への関心が薄い。だから消費税率や軽減税率といったニュースにも関心を示さないのだろう。本来、軽減税率適用で喜ぶはずの低所得層が、何ら今回の合意劇に興味を持たないというのは何とも皮肉な話である。

川村洋(かわむらひろし)
1973年大阪府生まれ。大学卒業後、金融業界誌記者、地元紙契約記者を経てフリーに。週刊誌や月刊誌で活躍中

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