北国民猛反発の「身分相続制度」

デイリーNKジャパン / 2018年6月14日 6時45分

朝鮮人民軍傘下「第1116号農場」を現地指導した金正恩氏(2017年9月30日付労働新聞より)

北朝鮮は、職業選択の自由が制限された、世界でも稀に見る国だ。就職先は朝鮮労働党や地域の行政機関によって決められ、自らの意志が反映される意思は少ない。つまり、本人の希望とは関係なく、人手が足りていない職場に送り込まれる形だ。北朝鮮当局は今年から、その措置の強化を始めており、社会的に波紋が広がっている。(丹東:カン・ナレ記者)

慈江道の情報筋によると、政府は今年1月、兵役を終えた兵士たちに対して「故郷に戻って親の職業を引き継げ」との指示を出した。

兵役を終えた兵士は、炭鉱、山奥の協同農場など誰も行きたがらないところに集団で送り込まれることがあった。この「集団配置制度」が今年から廃止された。その影響で、農村、漁村、鉱山では人手不足に悩まされるようになった。

集団配置に対する不満は大きかったが、集団配置制度の廃止にも、歓迎の声は上がっていないようだ。

移動の自由がない北朝鮮の人々にとって、兵役は自分の生まれ育ったところから離れる数少ない機会だ。つまり、農村、漁村、炭鉱で生まれ育った人にとっては、一世一代のビッグチャンスとなりうる。当局の指示は、それを封じてしまったことになる。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、今回の対象者は、科学者と軍の司令官を除く45歳未満のすべての労働者だ。親の職業を調べ上げられた上で、故郷に戻ってそれを継ぐよう命じられる。これは党の幹部とて例外ではない。

「党幹部でも、出身成分が農民ならば、農村部門の党組織を管理するように措置を下した」

これは、朝鮮労働党中央委員会の組織指導部が今年2月と6月に下した指示に基づくものだ。各道の党委員会の幹部部と、道人民委員会(道庁)の労働部に対して、今年8月末までに指示を貫徹し、結果を組織指導部に報告せよとの指示が下された。

この指示には「農村や炭鉱地域出身女性と結婚した40歳以下の男性も、女性の縁故地に行かせろ」という項目が含まれている。つまり、都会の工場や企業所で働いていた人も、いきなり家族もろとも農漁村送りになるということだ。

実はこのような指示は初めてではない。

情報筋によると、同様の指示は過去にも出されたことがあったが、時間が経つにつれうやむやになってしまった。しかし、今回の指示には「父母の出身成分を考慮せずに職場を配置したり、幹部に登用したりすれば責任者は処罰する」との項目も含まれており、従来とはレベルが違うという。

今回、対象となった人々は「外見は社会主義でも、中身は封建的身分相続制度だ」などと激しく反発し、殺伐とした雰囲気となっていると情報筋は伝えた。

いずれの情報筋も、指示の理由について言及していない。ただ、北朝鮮では市場経済の発達によって人口が流動化し、従来のような徹底した住民統制が難しくなっている。今回は指示はそれを復活させると同時に、農漁村からよりよい暮らしを求めて都会に向かう人が増えるのを抑えるという狙いがあるものと思われる。

しかし、山奥の村では現金収入を得ようにも商売をする市場もなく、子どもにまともな教育を受けさせることも叶わない。それどころか、水道すら出ないところもある。そんなところに行こうとする人はいないだろう。今回の指示がうやむやになるのも、時間の問題だろう。

デイリーNKジャパン__北朝鮮_その深部とポテンシャルを探る

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