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「聞くだけでゾッとする」金正恩がこよなく愛する“粛清劇の主題歌”

デイリーNKジャパン / 2024年5月25日 12時1分

2023年の光明星節記念音楽会で指さしてアンコールを指示する金正恩総書記(画像:朝鮮中央テレビキャプチャー)

北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは昨年2月16日、光明星節記念音楽会を放送した。平壌の万寿台(マンスデ)芸術劇場で行われたこのイベントだが、故金正日総書記の生誕記念日に合わせて放送された。

この日の舞台で披露されたある歌が、一部関係者の注目を集めた。その歌の名は「生とは何か」という。。

1989年に制作された映画「生の軌跡」のテーマソングだ。ヒロインのソ・ジンジュは、軍人オ・テソンからのプロポーズに根負けして結婚することになり、軍事境界線にほど近い地域で暮らすことになった。ところが、海から侵入した「敵」との戦闘中に夫が戦死。

まだ28歳だった彼女を周りが心配したが、ひとりで生きていくことを決心した彼女は平安南道(ピョンアンナムド)粛川(スクチョン)の協同農場に入る。子どもを出産した彼女は、仕事に熱心に取り組む中で金日成主席と出会い、それが縁となって協同農場の管理委員長に抜擢された。そして、「労力英雄」の称号を得て、全国英雄大会の壇上に立った。

原作では夫は病死しているが、戦死したように脚色され、戦争未亡人のサクセス・ストーリーとして仕立て上げられた。

映画は大人気を博し、「高尚な人間愛と労働党への変わらぬ忠誠心を表現した」と評価され「続く真の人生」という続編も公開された。

(参考記事:金正日も泣いた「生の軌跡」に込められた秘話(上)

金正恩氏は上述の音楽会が終わった後、劇場の1号控室で、朝鮮労働党中央委員会の関係部門のイルクン(幹部)と対話を交わし、こう述べたという。

「『生とは何か』を聞けば聞くほど、一国の領袖ではなくひとりの人間として自らを燃え上がらせ、先軍長征の道、人民のための道を歩み、現地指導に向かう途中で人生を終えた将軍様(金正日氏)の思い出に浸り、こみ上げるものを抑えきれなかった」

「将軍様は生前、『生とは何か』を聴くと自然と涙が出てくるとおっしゃっていたことを覚えている。この歌は、真の愛国者とは名誉と見返りを望まず、祖国のために身を捧げて闘争する者という評価を下されたものだ」

そんな話の内容が伝わるにつれ、幹部たちは、「生の軌跡」の主題歌「生とは何か」について語り合い、主人公たちのその後の運命に思いをはせたという。

映画になったストーリーは実話で、その中心人物の名前はハン・スニという。いわゆる「深化組事件」で刑場の露と消えた人物だ。深化組事件は1990年代後半にスパイ摘発を名目に行われた大規模粛清で、2万5000人が濡れ衣により犠牲となったが、ハン氏はスパイ容疑者だった徐寛熙(ソ・グァンヒ)農業担当党書記と親しかったという理由で、1997年3月に彼と共に公開銃殺された。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

金正日氏の指示で2000年に名誉が回復され、家族も元の身分を取り戻したものの、そのほとんどが管理所(政治犯収容所)で死亡した後だった。

(参考記事:血の粛清「深化組事件」の真実を語る

公演の後、ある幹部はこう語っていたという。

「『生とは何か』を聞くと、深化組事件が思い浮かんでゾッとした。事件の多くの被害者のことを考えると胸が痛くなる。最高指導者の一言で粛清され、管理所に連行されたり追放されたりするわが国(北朝鮮)では、名曲にも深い傷が残っているのだ」

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