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「スケソウダラが取れなくて」没落した北朝鮮の脆弱な経済

デイリーNKジャパン / 2024年6月10日 6時7分

水産事業所を現地指導した金正恩氏(2019年11月19日付け朝鮮中央通信より)

北朝鮮の若い幹部と知識人の間では最近、「スケソウダラ論争」が交わされている。地方経済の発展には、スケソウダラが欠かせないというのである。金正恩総書記が進める「地方経済20✕10政策」が巻き起こしたこの論争、一体どのようなものか。詳細を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

この論争について話したのは、中国東北に派遣された北朝鮮の貿易関係者だ。

1960年代生まれで金日成、金正日、金正恩時代のすべてを経験しているこの情報筋によると、口火を切ったのは朝鮮労働党中央委員会(中央党)の宣伝扇動部だ。

「地方経済が盛んだった1980年代初頭の経験を活かそうという意図で、金日成時代(の経験)を呼び起こそうとした」

つまり、当時を振り返り、それをお手本にして現代に活かそうとしたようだ。

1970年代から1980年代初頭は、北朝鮮が最も光り輝いていた時代だった。朝鮮戦争の戦後復興が終わり、軽工業が盛んになり、農業の機械化が進んだ。1973年には平壌地下鉄が開通し、1974年には税金制度が廃止され、GDPは韓国を上回った。朝鮮の歴史で初めて、ほとんどの人が衣食住に困らなくなった時代だったと言っても過言ではないだろう。

これは一般的に、旧共産圏からの援助によるものと言われているが、北朝鮮国内ではこのような見方もあるようだ。

「1970年代初頭から1980年代初頭にかけて、地方経済が盛んだったのは、金日成主席の政策がよかったのではなく、東海(日本海)で凄まじい量のスケソウダラが取れたから」(情報筋)

日本の水産庁の資料によると、スケソウダラの資源量がピークに達したのは1972年で、304万トンだった。しかし、1990年代以降は減少を続け、2019年には15.6万トンまで減少した。北太平洋における全漁獲量も1976年の507万トン、1986年の676万トンと2度のピークを経験している。しかし、2000年代以降は300万トン前後となってしまった。とりわけ、日本海北部での減少は著しい。

(参考記事:「将軍様がくださった下痢」…ハタハタ食べた北朝鮮兵士が倒れる

地方経済の発展の要因をスケソウダラの大漁に見いだすことは、金日成時代の政策の有効性を暗に否定するものでもあるだろう。しかし、過去の歴史の否定が独り歩きする事態に宣伝扇動部は当惑した。そして、地方や中国に幹部を派遣して「過去の事例を活かすのが目的であり、かつての(金日成)時代を評価しよう」というものではないとの講演会を開いて、火消しに躍起になっている。

親戚を訪ねて中国吉林省の延辺朝鮮族自治州にやってきた北朝鮮在住の華僑も、北朝鮮の知識人の間で、スケソウダラ論争が広がっていると述べた。

「スケソウダラの歴史に北朝鮮の栄枯盛衰が込められている。その歴史を知らなければ、北朝鮮の未来も、金正恩氏の地方発展政策も正しく予測できない」(情報筋)

当時、大量に水揚げされたスケソウダラは、旧共産圏に輸出され、その儲けで原油、砂糖、武器などを輸入していた。スケソウダラのみならず、カニ、カレイ、イカナゴ、イカ、ウニ、ウナギの稚魚など、海洋資源を乱獲して外貨を得ていたのである。

「口では自立した民族経済を叫びつつ、スケソウダラの輸出と外貨稼ぎに陶酔していた」(情報筋)

ところが、1983年の年末ごろから事態は急変した。海流の流れが変わり、スケソウダラが全く取れなくなったのだ。金日成氏は1984年5月、1カ月もの間、東欧諸国を歴訪したが、これはオイル・ショックならぬスケソウダラ・ショックによる経済問題の解決のためだと、この情報筋は語った。

東欧諸国は表向き、金日成氏を大歓迎したが、何の手土産も持たせずに帰してしまった。そして北朝鮮では、原油が入ってこなくなったことで、1985年から木炭車が登場したという。

北朝鮮は決して資源のない国ではない。石油は出ないが、石炭は豊富にあり、銅やレアアースなどの埋蔵量も少なくない。海洋資源、山林資源も非常に豊かだ。だが、それだけでは足りず、下支えとなるスケソウダラが欠かせないのだという。

最終的に出された結論は、このようなものだった。

「スケソウダラの代わりになる資源がない限り、金正恩氏の地方発展政策は失敗することが明らかだ」

(参考記事:「現場で築かれる死体の山」金正恩の脳裏をよぎる地獄絵図

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