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「年長者の優位」は昔の話…北朝鮮で進む伝統秩序の崩壊

デイリーNKジャパン / 2024年6月13日 8時43分

平壌のサッカースタジアムで保安員(警察官)と揉める北朝鮮の男性。周りの人々は指を指して保安員を非難している(NEWSIS)。

儒教を排除したはずだが、儒教的社会秩序が色濃く残っているのが北朝鮮社会の特徴の一つだ。年少者が年長者を敬う「長幼の序」は当たり前の社会規範だ。

そんな年齢秩序に背くことは、非常に不道徳なこととされるが、その崩壊が一部で進んでいる。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは先月中旬のことだ。恵山(ヘサン)市在住の50代男性Aさんは、生活苦を理由にして2カ月もの間、職場を欠勤していた。

他の国なら解雇されて終わる話だろうが、すべての国民が何らかの組織に属して、コントロールを受けることになっている北朝鮮でそうはいかない。長期の無断欠勤は、刑罰を伴う犯罪行為なのだ。根拠となる法律は、以下のようなものだ。

行政処罰法第90条(無職、遊び人行為)

正当な理由なく、6カ月以上派遣された職場に出勤しなかったり、1カ月以上離脱した者は、3カ月以下の労働教養をさせる。罪状の重い場合には、3カ月以上の労働教養をさせる。

通常、長期間無断欠勤をする場合は、上司にワイロを払って、もみ消す。そうしてできた時間を使って商売に励む。これを「8.3ジル」というが、Aさんの場合は単に食糧難による空腹で出勤できていなかったようだ。このせいで、労働鍛錬刑4カ月の処分が下され、今年2月に労働鍛錬隊に入れられた。

(参考記事:「腹が減って農作業ができない」北朝鮮が陥った食糧不足の悪循環

3カ月もの間、強制労働に苦しめられ続けた彼は先月中旬、30代の指導員(看守)Bに、体調が悪くもう働けないと訴えた。するとBから返ってきたのは、こんな暴言だった。

「犯罪者の分際で病気で働けないなんて話があるか。精神がたるんでいるからいい年こいてこんなところにぶち込まれたんだろう。ここに来た以上、倒れようが死のうが働け!」

Aさんはこう反論した。

「あなたのお父さんと同年代の人になんてひどいことを言うのか。私も人間だ。ここにいるからと人間じゃないわけではない。私にもあなたほどの年頃の息子がいる。言葉遣いに気をつけたまえ」

すると逆上したBは、Aさんに殴る蹴るの暴行を加え、そばにあった石を拾い上げて、Aさんの頭部を打ちすえた。暴行は、他の指導員が止めに入るまで数十分間続いた。

Aさんは全身があざだらけになり、頭部裂傷を負ったが、傷口に包帯を巻いただけで、強制労働を強いられ続けている。まともな治療を受けるには、家族にワイロを持ってこさせる必要があるが、そんなカネはないため、治療は諦めている。

Aさんに暴行を加えたBは除隊軍人で、暴言・暴行が蔓延する労働鍛錬隊の指導員となり、受刑者を乱暴に扱いをするようになった。時には八つ当たりで受刑者に暴力を振るったりもする。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

情報筋は、恵山市民の反応は伝えていないが、遅かれ早かれ噂が広まるだろう。食糧難に苦しんでいるのは皆同じであることから、市民の間で怒りが沸き起こることは想像に難くない。ましてや自分の親と同じほどの年配者に暴行を振るったとあって、さらに激しく炎上することだろう。

北朝鮮では、権力を振りかざして暴行を働いた安全員(警察官)や保衛員(秘密警察)が、恨みを買って殺される事件がしばしば起きている。Bの身とて安全とは言えまい。被害者はAさんだけではないだろうから。

(参考記事:金正恩「拷問部隊」家族への暴力多発…険悪化する北朝鮮世論

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