北朝鮮「潜水艦基地」で20代女性の射殺事件…背景に「階級の問題」
デイリーNKジャパン / 2024年10月21日 8時33分
国連の人種差別撤廃委員会は2002年8月、「世系に基づく差別に関する一般的な性格を有する勧告29」を採択した。これは、世系を共有する集団に対する差別を禁じることを、世界各国に求めるものだ。
この勧告は、インドのカースト制度を念頭に置いたものだが、北朝鮮独特の「成分」と呼ばれる階級制度もこの対象となるだろう。これは、先祖の職業や行為が子孫の社会的身分を規定するというもので、成分が悪いとされた人は進学、就職などにおいて差別を受ける。
結婚に当たっても成分が問われる。万民を解放して皆を平等にしたはずの北朝鮮は、「階級闘争」の名のもとに新たな身分制度を作ったのだ。2024年の時点で、全世界で唯一、全国民を対象とした法的根拠のある身分制度だ。北朝鮮は存在を否定しているが、数多くの脱北者の証言や内部資料により、その一部が明らかになっている。
(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」)
この成分が、殺人事件を引き起こした。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事件が起きたのは、潜水艦と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発拠点として知られている、東海岸の新浦(シンポ)造船所だ。
造船所で保衛隊員(警備員)として働く30代のA容疑者は、同僚の20代のBさんと男女の関係にあった。付き合って2年になり、結婚の話も出たが、未だに双方の両親に挨拶もできていなかった。
Bさんは新浦水産大学を出て、この地域ではそれなりのエリートだった。一方のA容疑者は大学に進学しておらず、成分もさほどよくなかった。両親に挨拶したところで、結婚に反対されるのが目に見えていたため、二人とも言い出せずにいたのだ。
A容疑者は、Bさんにいくら連絡をしても会ってくれないことに業を煮やし、2日の午前8時ごろ、新浦造船所の正門前で待ち伏せした。そこへやって来たBさんの前にA容疑者が立ちふさがり、どこかへ連れて行こうとした。しかし、抵抗するBさんに突き飛ばされた。二人は造船所の正門前で大喧嘩となった。
Bさんは、両親に勧められるがままに別の男性とお見合いしたことを、A容疑者に話した。お相手は政治大学(幹部養成機関)出身の安全員(警察官)だったことを明かし、こう言い放った。
「あの人の方が条件がずっといいの」
これがA容疑者の怒りに火を付けた。持っていた銃でBさんを撃ったのだ。
(参考記事:女性少尉を性上納でボロボロに…金正恩「赤い貴族」のやりたい放題)
Bさんはすぐに病院に搬送されたが、息を引き取った。
出勤時間とあって、多くの人が事件の一部始終を目撃してしまった。この話は市民の間にあっという間に広がり、町全体を恐怖に突き落とした。
A容疑者はすぐに新浦市安全部(警察署)に身柄を拘束され、現在は取り調べを受けている。無期懲役の判決が下されるものと見られている。
安全部は、銃に装填されていたのが空砲でなかったことを問題視している。
軍事拠点である新浦造船所の保衛隊員は、空砲1発と実弾2発を所持しており、最初は空砲、それから実弾を使用することになっている。その規定に反して、1発目に実弾が装填されていたことが事件を通して明らかになった。安全部は、造船所の保衛隊長を召喚し、保衛隊員たちの銃器関連規定を守っているかについて調査に乗り出した。
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