「とても生きていけない」北朝鮮の農場で集団暴力事件
デイリーNKジャパン / 2024年11月13日 4時45分
北朝鮮の協同農場では、収穫の3割を国に納め、7割を農民の取り分とするのが原則となっている。ただ、国が定めた収穫の計画量(ノルマ)と実際の収穫とのズレが生じるため、農民が実際に7割を受け取れるわけではない。
稲刈り、脱穀の後に行われる「決算分配」でその量は決められる。国営メディアは、全国の各農場が国家穀物生産計画を超過達成し、農民が決算分配を受け取ったと報じているが、実際はそれをめぐり揉め事が耐えない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道(リャンガンド)の農業部門の情報筋は、報道と異なり、決算分配がまともに行わた農場はひとつもないと明かした。実際に計画を達成した平安南道(ピョンアンナムド)、黄海南道(ファンヘナムド)、黄海北道(ファンヘブクト)の一部農場でも、現物分配が行われただけで、現金分配は行われなかった。現物分配すらまともに行われていなかった一昨年以前よりは状況は改善したとはいえ、「これでは生きていけない」という農民の不満は大きい。
決算分配に抗議する農民が、農場管理委員会の人員に罵声を浴びせかけ、中には暴力沙汰に発展するケースが両江道の各所で起きている。
(参考記事:飢えた北朝鮮の一家が「最後の晩餐」で究極の選択)
大紅湍(テホンダン)郡の農事洞(ノンサドン)分場では先月19日、現物分配に抗議していた農民7人が、分場長と作業班長を集団で暴行する事件が発生した。
国家穀物生産計画では、大紅湍のジャガイモ畑1ヘクタールあたり、40トンの収穫があることになっていたが、実際には37トンしか収穫できなかった。計画達成率は92.5%だった。
計画を達成できた場合、農民1人あたりジャガイモ864キロが得られることになっていたが、実際に受け取ったのは280キロで、予定の3割強に過ぎなかった。これは農民の出勤率、外貨稼ぎなどの社会的課題の達成率などが反映されたもので、極めて少ないものだった。
大紅湍では昨年、計画を100%達成したにもかかわらず、決算分配がまともに行われなかった。そのせいで今年春には食べ物が底をつき、空腹のあまり出勤できない農民が続出した。食べ物がなくなったのは国の農業政策の失敗のせいなのに、それを個人の責任とされて、分配量を減らされたことに農民は怒ったのだった。
大紅湍の別の情報筋によると、集団暴行事件が起きた農事洞分場で住民総会が行われた。その場で明かされた事件の概要は次のようなものだった。
誕生日を迎えた除隊軍人のチェさんは、他の農民とともに酒を飲んでいた。酔いが回ると誰彼ともなく決算分配についての愚痴をこぼし出した。ちょうどその時、作業班長の家でも宴会が行われていて、その場には分場長も一緒にいた。
その後に集団暴行に至った過程は不明だが、どちらが手を出したかについては、双方の陳述が分かれている。農民は「最初に手を出したのは作業班長の方だ」と述べていたが、郡の安全部(警察署)はこれを完全に無視し、酔った勢いで分場長と作業班長に集団暴行したというストーリーを描いた。
そして、チェさんには懲役2年、実際に手を出した6人には労働鍛錬刑(懲役刑)6カ月から10カ月の処分が下された。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
農民総会に参加した他の農民からは、「政府を批判したわけでもなく、単なる喧嘩なのに、わざと事件を大きくして農民を処罰させた」との声があがった。決算分配を巡り、揉め事が多発しているため、見せしめとして重い罰が下されたものだと見られている。
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